著者
二通 諭
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.40, no.10, pp.1365, 2012-10-10

「あなたはADHD系」,「彼はアスペ系」といったように,友人同士の他愛もない性質分類にも発達障害カテゴリーが用いられるようになってきた.そのような視座から,往年の映画の登場人物をみるならどのような解釈が成り立つだろうか.発達障害を有する人物は,映画の主人公になりやすい特異なキャラクターを有しているが,その頂点に立つ人物といえば,やはり「男はつらいよ」シリーズの寅さんこと車寅次郎(渥美清)である. 本人が語る自己像も「生まれついてのバカ」なら,おいちゃんの寅さん像も「生まれつきのバカ」であり,幼少期から発達や行動上の問題を有していたものと思われる.
著者
二通 諭
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1017, 2011-10-10

本誌2010年5月号の本欄で取り上げた山田洋次版「おとうと」は,市川崑版「おとうと」(1960)へのオマージュであることを字幕で明らかにしている.両作とも発達障害的性質を抱える人物を登場させており,市川版ではADHD(注意欠陥多動性障害)傾向の強い碧郎(川口浩)だが,山田版では碧郎に当たる鉄郎に加えて,新たに祐一を配している. 市川版の碧郎は大正時代の人物であり,若くして肺結核で命を落としている.山田は,市川版「おとうと・碧郎」が生きていたら,果たしてどんな人間になっていったのか,さらに,周囲はどのようにつながっていったのか,というその後の碧郎と家族のありさまを描こうとして,山田版「おとうと」を企図した1).つまり,山田版における笑福亭鶴瓶演じる鉄郎は,時空を超えた碧郎の晩年の姿だったのだ.
著者
二通 諭
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.811, 2008-08-10

私は和泉聖治の大ファンである.ピンク映画監督の父を師と仰ぎ,青春物やホームドラマ,ヤクザ物から極道Vシネマとなんでもこなせる職人監督である.野球で言えば,1~2回を確実に0点に抑える中継ぎ投手である.注目度は低いが,ハズレなしなのだ. そして,ここへ来て和泉の新作は大型刑事物エンターテイメントの「相棒―劇場版―」.設定は変えてあるものの,04年のイラク人質バッシング事件をモデルにしていることが容易にわかる骨太な社会派サスペンスである.ライバル関係にある「踊る大捜査線 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(03年)が男女共同参画を揶揄する保守路線だとすれば,本作は「自己責任」というフレーズでバッシングをあおった政治家やマスコミ,さらにはあおられた国民を指弾するプロテスト路線である.
著者
二通 諭
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.271, 2017-03-10

言葉を字義通り受け取る.言外の意味を捉えることが苦手.これは,自閉症スペクトラムなどの発達障害当事者がしばしば口にすることだ.となれば,セリフの奥に隠された別の意味を察するというところに面白さがある小津安二郎(1903〜1963)の作品は,苦手克服に向けた学習テキストになる可能性がある.この観点から3つのシーンを取り出してみた.「お早よう」(1959)では,加代子(沢村貞子)が弟の平一郎(佐田啓二)に「お天気の話ばっかりして,肝腎なこと一つも言わないで……」とボヤいていたが,天気談義に意味をもたせる自作への当てつけのようにも聞こえた. 本稿は,それに倣って「天気」に焦点を定める.