- 著者
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五位野 政彦
- 出版者
- 日本薬史学会
- 雑誌
- 薬史学雑誌 (ISSN:02852314)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.1, pp.25-38, 2021 (Released:2021-08-07)
序論:明治時代には,ドパミン,モノアミンに基づく精神疾患用医薬品は存在していなかった.本研究では,明治時代の日本におけるに精神科医療においてどのような医薬品をどのような患者に使用していたかを調査した.
方法:次の資料を文献調査した.国立国会図書館デジタルライブラリー収蔵資料ならびにグーグルスカラー検索結果によるドイツ薬局方.これらは医学資料のみであり,薬局方を除いて薬学資料はない.
結果・考察:明治時代を通じて,日本の精神科医は日本の伝統的医薬品でなく欧州由来の医薬品を使用していた.これらの医薬品はドパミンやモノアミンに対する作用はなかった.しかしこれら医薬品は患者の休息や精神症状の遅延をもたらした.当時,精神科医が使用した医薬品の多くは麻酔薬ないし睡眠薬であった.とくに処方されたのはオピオイド(阿片,モルヒネ等),ベラドンナアルカロイド(スコポラミン等)あるいはハロゲン化合物であった.20 世紀初頭にバルビツレートならびに他睡眠薬が欧州の複数の製薬会社により開発された.これらにより精神科医は患者の治療を行うことが可能になった.精神科では脳内の血流が精神疾患を発症させると考えられていたため,ジギタリスのような強心薬を用いて血液循環の改善をはかった.日本の近代精神医学の父である呉秀三は,患者の人権保護を考慮し,治療方法の改革を行った.これら医薬品は呉の活動をサポートした.