著者
五十君 静信
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.67-73, 2001 (Released:2010-06-28)
参考文献数
15

従来のワクチン研究から, 一般に, ある感染症に対するワクチンはその感染症の感染経路に従って投与するのが最も効果的であると考えられている.従って, 腸管粘膜から侵入してくる感染症に対するワクチンは, 経口および腸管粘膜上皮からの投与が望ましく, 粘膜局所のIgA抗体産生の増強が重要である.しかしこの経路を投与方法とするワクチンである粘膜ワクチンの開発は遅れている.現在用いられているワクチンは, いかにして病原体を弱毒化するかといった手法で開発されてきた.一方, 近年のバイオテクノロジーの進歩により, 必要と思われる部分を組み合わせてワクチンを作り上げるコンポーネントワクチンの考えが導入され, ワクチンをデザインして作るという考え方が主流となっている.この場合, 粘膜ワクチンはそれに適する運搬体と感染防御抗原を組み合わせワクチンを構築する.腸管の粘膜局所での抗体産生を期待する粘膜ワクチンでは, その抗原運搬体として腸管内で抗原提示の可能な細菌や人工膜が検討され, 腸管侵入性細菌の弱毒株や無毒で腸管内でのエピトープの発現が可能な細菌およびリポソームなどが用いられてきた.粘膜ワクチンとして, 乳酸菌を抗原運搬体として用いるワクチンは, 挿入する遺伝子を遺伝子レベルで無毒化することにより, 病原体を弱毒化したワクチンに比べ, より安全な経口ワクチンの開発が可能であると考えられている.本稿では, 腸管感染症に対する粘膜ワクチンの現状と, 組換え乳酸菌を用いた粘膜ワクチンの開発について解説する.
著者
阪口 雅弘 増田 健一 蔵田 圭吾 辻元 元 五十君 静信
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

犬においてアレルギー疾患が多く報告されている。その中でもスギ花粉症の犬はアレルギー全体の10%程度を占め、ダニアレルギーに次いで重要なアレルギー疾患である。アレルギー治療研究の分野において乳酸菌が注目され、乳酸菌におけるTh1誘導能およびIgE産生抑制効果が示されている。本研究においてスギ花粉症に対する抗原特異的な免疫療法として、安価に製造可能なスギ花粉アレルゲン遺伝子組換え乳酸菌を用いたワクチンを開発することを目的としている。ベクターとして、乳酸菌:Lactobacillus casei(ATCC393)を用いた。L.. caseiにおける発現に成功しているLLOとの融合タンパクとして発現されるようにデザインしたプラスミドベクターを作製し、ム.oε5θグに導入した。本研究では、 N末端から158-329番目のアミノ酸を含むスギ花粉アレルゲンであるCry j 1(Cry j 1_<158-329>;約20 kDa)を用いた。このCry j 1はヒトおよびBALB/cマウスのCD4+T細胞が認識するT細胞エピトープを含んでいる。 LLOは、Listeria monocytonegesの菌体由来タンパクであり、LLO白体にマウスの脾臓細胞からTh1サイトカインを誘導することが明らかとなっている。 LLOは溶血毒性を有するため、本研究では、溶血毒性をもたらすドメインを欠損させた変異LLOを用いた。抗LLO抗体を用いたウェスタンブロット法では、 Cry j 1_<158-329>-LLO導入株で約60kDaのバンドを、LLO導入株では約40kDaのバンドを検出した。この分子量の違いはCry j 1_<158-329>(20kDa)の分子量と一致することから、導入したCry j 1_<158-329>は発現していると予想される。また、LLOからCry j 1_<158-329>にわたるシークエンスを増幅するようにデザインされたプライマーペアを用いたRT-PCRによって、Cry j 1_<158-329>mRNAの発現も確認した。これらの結果は、この組換えL.. caseiにおけるCry j 1_<158-329>の発現を示している。このリコンビナント乳酸菌によるIL-12P70誘導能をBALB/cマウスの脾臓細胞で検討した結果、 LLOの発現によってIL-12の産生が増強されることが明らかになった。