- 著者
-
五十嵐 雅之
- 出版者
- 公益社団法人 日本農芸化学会
- 雑誌
- 化学と生物 (ISSN:0453073X)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.1, pp.37-42, 2015-12-20 (Released:2016-12-20)
- 参考文献数
- 38
3大感染症(エイズ,マラリア,結核)および顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs, 17疾患群)は,患者の多くが途上国に偏在するため,先進国で爆発的に蔓延したエイズを除き,長い間新薬研究開発の対象としては顧みられてこなかった.近年,これら3大感染症およびNTDsに対し革新的な新薬をより効率的に開発し蔓延国に供給する目的で,国際機関,各国政府あるいは官民が連携し研究開発の支援組織が発足している(1).この支援のもとで国際的に新薬の開発が進められているが,なかでも天然物からの治療薬探索は有用かつ革新的な新薬を開発しうるアプローチとして大きな期待を受けている.この分野で先駆的な成功を収めた大村らに2015年のノーベル医学生理学賞が授与されることもその期待の表れと言えよう.大村らが発見した放線菌Streptomyces avermitilisの生産するエバーメクチン(avermectin)の誘導体イベルメクチン(2)(ivermectin,図1)が線虫に起因するオンコセルカ症などの治療薬として開発され,またTuらによりマラリア治療薬としてアルテミシニン(3)(artemisinin,図1)が植物成分より単離されいずれも有用性の高い革新的な新薬として使用されている.本稿では,3大感染症の一つである結核の治療薬の開発状況を天然物の視点で紹介したい.