著者
五味 紀真
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

特別研究員報告書にも書いた通り、当初の研究実施計画を変更する必要があった。なお、変更に当たって研究の最終的な目標、および概略に関しては一切変更していない。本年度は第一に、一神教・多神教問題と精神分析との関係性についての基礎的な文献や先行研究を分析した。4月に行った発表「Den Entzug eines Gottes nachbereiten一神教の脱構築とエクリチュールの歴史についての覚書」では、デリダの脱構築と、フロイトの『モーセと一神教』を中心とした問題との関係性をある程度明確に分析することができた。また、レヴィ=ストローズから始まりジャン=ピエール=ヴェルナン、ピエール・ヴィダル=ナケに至る構造主義的な神話分析の研究を読解することによって、これまで本研究が主に依拠してきたハイデガー-キトラーによる「解釈学的・存在論的神話分析」と前者との差異を子細に分析することができた。後者においては木庭顕『政治の成立』から多くの示唆を得ることができた。また、精神分析に関しては、これまで主に分析してきたフロイト、ラカンに加え、メラニー・クラインら対象関係論の分析家たちの著作の読解も始めた。対象関係論は、研究実施計画にも記したドゥルーズらによる資本主義分析において大きな役割を果たしているため、デリダの脱構築と一神教の問題、およびドゥルーズの資本主義分析を関連付けて論じるために、ラカン派に劣らず重要であると思われる。残念ながら計画に記したように本年度中に以上の研究を博士論文としてまとめることはできなかった。今後も研究を継続し、実施計画にある通りの研究を完遂することを目指し、本研究を続けていきたいと思う。