著者
三宅誠 井上 公俊 新開 健司 長野 有宏
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.87, 1989
被引用文献数
1

米国のMedical Information Bureauをはじめ,一部欧州に於いても,生保会社が医学的情報を交換出来る制度が確立されている。しかし,我国ではこの制度は存在しない。今回,医学情報交換制度の具体的な実施要領をはじめ,種々の問題点,また,はたして我国で当制度が実施可能か否かについて検討した。我国では,行政機関の保有する個人情報の保護を目的とするプライバシー保護法はあるが,民間の保有する個人情報を保護する法律は無いので,当制度構築にあたっては,OECDの個人情報保護に関するガイドラインに基づき,充分な配慮をした。当制度の概略は,「当制度の存在を広く公示し,診査時に被保険者の同意を得た後に,各種医的情報を,生命保険協会内に設置した選択情報登録センターに登録する。また,入院給付金支払い情報も登録する。各社はこの情報を保険契約諾否決定時,保険金給付金支払い時の参考に利用出来るが,この情報のみでの判断,決定はしない事とする。」と,いったものである。当制度最大の問題点は,我国の保険契約時の現状をみる限り,かなりの被保険者が登録に同意しないのではないかという点であり,この不同意を謝絶とした場合,販売サイドより激しい抵抗が予想される点である。当制度は,生命保険制度が健全に運営され公平性を保つためには欠かせない制度である。尤も,一部の不心得な契約者排除の目的の為に,殆ど本人に責任は無く,ある意味ではハンディキャップでもある善良な人々の医的情報を登録される事自体に抵抗は多いと考えられる。しかし,逆選択を防止し的確な選択は,寧ろ善良な契約者の利益であり,プライバシー保護のもと正確かつ完全な情報の収集は,会社の義務であると共に両者の利益でもある。業界としては,まず保険金詐欺を許すべきでないという公共的な要請を惹起させ,当制度の社会的コンセンサスを得た後に,当制度を制定する事が最も望ましいと思われる。