著者
井上 康二郎
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.411-426, 2011

慢性疾患の発生状況を示す罹患率は,通常前向き調査で大きな労力を必要とする.そこで,既存統計データを用いた,経年の連続する集団である年齢階級の有病率の差に死亡率を加算することで計算される式から,この推定の罹患率が計算できないか,糖尿病,高血圧性疾患,脳血管疾患について,その可能性を調べた.まず統計データである患者調査による,経年の有病率と,経年間の死亡率から計算される,理論的な年齢階級別推定罹患率(Age-Specific Estimated Incidence rate ; ASEI)の計算式を導いた.この式により,国際疾病分類での糖尿病,高血圧性疾患,脳血管疾患について,実際のデータを用いてASEIを算出した.また,ある保健所の死亡データから,その疾病の既往はあるが,死亡原因で他の疾患になっているものの総死亡数に対する割合(Rates of Persons who have Died by Another disease : RPDA)を算出し,死亡率にそれらのデータを加算して修正してから,ASEIを再計算した. 糖尿病のASEIは60歳でピークが見られたが,75歳以上で負の値であった.RPDAによる修正により,その負の値は,かなり0に近づいた.高血圧性疾患のASEIは65歳でピークが見られたが,80歳で負であった.RPDAによる修正によっても,その負の値は,ほとんど変わらなかった.脳血管疾患のASEIは80歳でピークが見られた.統計調査での1患者複数疾患のカウントによる有病率の推定や,前調査から現調査までにある疾患に罹っていたが現調査で異なる疾患に変化した人の全疾患に対する割合(Rate of Persons who suffered from the disease but Changed to Another disease : RPCA)を,付加調査として加えることにより,高齢者での負の推定罹患率は是正されるものと考えられた.また,推定治癒率(Estimated Cure Rate ; ECR)についても,実施された患者調査の患者についての後ろ向き調査による算出方法を検討した.また調査期間内に罹患し治癒したものについて,推定潜在罹患者数比(Estimated Potential Incidence Ratio ; EPIR)の算出も検討し,それらを式に組み込み,統計データを用いたASEIの計算式を完成した.