著者
大高 明史 井上 忍 宮崎 葉子
出版者
日本陸水學會
雑誌
陸水學雜誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.241-254, 2010-12-25
参考文献数
31
被引用文献数
1

青森県・津軽十二湖湖沼群の越口の池水系は,湧水から始まり湖沼と河川が連続する短い水系で,水温の年間変動幅は流程に沿って顕著に増幅する。この水系の河川で,水温がヤマトヨコエビ(アゴナガヨコエビ科サワヨコエビ属)の分布や生活史に与える影響を調べた。ヤマトヨコエビは,水温が通年約10℃に保たれている源頭部の2湖沼とそれに流出入する2河川では通年繁殖が見られ,一方,水系の中ほどに位置する3河川では繁殖が冬季に限定されていた。さらに,下流側の2河川には分布しないことが分かった。現地調査と室内実験から,ヤマトヨコエビの生息や繁殖期間の違いには,生存と繁殖に関わる,いずれも高温で抑制される2種類の温度条件が関係していると推測された。ヤマトヨコエビは水温が約25 ℃以上にならず,かつ約12 ℃以下になる水域に生息可能で,このうち,夏期の水温が約12 ℃を越える場所では低水温期に繁殖が同調し,常に約12℃を下回る場所では繁殖が通年起こると考えられる。国内3種のサワヨコエビ属はいずれも湧水域を中心に分布するが,早期の繁殖と高い高温耐性を伴った柔軟な生活史変異を持つヤマトヨコエビは,この中で最も分散能力の高い種類だと考えられる。