著者
井上 要二郎
出版者
久留米大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

<はじめに>代用音声の開発は、当初興味を示したR社の協力が昨今の不景気で得られないため、発声源の開発より先に発声源を取り付ける位置について検討した。<目的>どの部に発声源を置けば口腔内に音を導けるか、骨の厚み・空洞・口腔への伝導に着目して検討した。<方法>骨導補聴器の振動体を発声源の代用に用いた。これを合成樹脂の頭蓋骨モデル(頭蓋のみ空洞)、人体頭蓋骨モデル、及び被験者を対象に各頭頂部、側頭部、前額部(前頭洞前壁)、頬部(上顎洞前壁)にあて、各部位5回調べた。骨導補聴器のマイクより同じ大きさの音を入れ、その振動体を接触させ最も共鳴した(音の大きい)部を調べた。さらに、被験者では5人に口の形で音が変化するかも調べた。<結果>大きい順は、合成樹脂:側頭部>頭頂部>前額部>頬部。人体頭蓋:側頭部>頭頂部>前額部=頬部。被験者:頬部>前額部>側頭部>頭頂部。口の形により音が変化:頬部のみ。<考察>最も共鳴したのは壁が薄く、空洞のある部であった。模型は両方とも頭蓋に大きな空洞があり、頭頂部と側頭部で最も共鳴した。頭頂部が劣るのは骨が厚いためと考えられた。人体頭蓋と被験者は、前額部(前頭洞)と頬部(上顎洞)に空洞をもつため大きく共鳴する。実際の人(被験者)では頭蓋は空洞でないため、前額部・頬部が優り、より空洞の大きい頬部が最も共鳴する。頬部は口腔に近いこと、共鳴腔の上顎洞は中鼻道を介して口腔とつながっていること等もその原因と考える。これは口を開けると頬部だけ音が大きくなること、さらに口の形に合わせて小さな母音が聞こえる事などからも説明できる。頬部(上顎洞前壁)は、音響学的にダクト(共鳴音を排出する穴)をもつバスレフ型スピーカーボックスに近い形をしている。解剖学的にも口腔内から簡単にアプローチでき、厚い軟部組織で覆われるため、代用音声の装着部位に適していると考える。