著者
新田 祐子 鈴木 竜太 野宮 博子 井上 麻美 萩原 良治 岡 亨治 武田 利兵衛 中村 博彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E0723, 2008

【はじめに】脳卒中片麻痺患者において、より高位の移動手段を獲得することは、QOL拡大に必要不可欠である。しかし、立位や歩行時に足趾の筋緊張が亢進し屈曲変形をおこす患者も少なくない。これにより、足尖部への荷重が生じ疼痛が誘発され、歩行時の疼痛や歩行能力を低下させる要因になっていると考えられる。この屈曲変形の抑制により、裸足歩行で趾腹接地となり疼痛抑制し、足趾の正常なアライメントに整えることで安定性が増し、歩行能力拡大へつながるのではないかと考えた。claw toe を呈している脳卒中患者に、前足部のみの足趾伸展・外転装具(以下、簡易装具)を作製・使用することで、良好な結果を得られた。今回抄録では一症例を示す。<BR>【症例A】左被殻出血の30代女性、趣味は温泉や旅行。Br.stageは上肢・手指2、下肢3、表在・深部覚共に重度鈍麻。裸足歩行時、遊脚期にてclaw toe(MAS:3)、内反尖足出現し、足尖外側接地となる。自重ではclaw toe抑制困難であり、足尖部に疼痛出現。移動はプラスチック製AFOを使用し、屋内T-cane歩行自立、屋外は車椅子併用。ADLは入浴・階段以外自立レベル。<BR>【装具検討】裸足での長距離・長時間歩行は、claw toeにより生じる足尖部痛のため困難であった。歩行速度向上には背屈を可能にし、歩幅増大を図ることが必要であった。また、本人の希望もあり、より軽量かつ簡易的で温泉で使用可能な装具を検討した。これらを考慮し、市販の足趾パッドを使用し片手で着脱可能な簡易装具を作成した。<BR>【結果】簡易装具装着により立脚期のclaw toeが抑制され、前足部での接地へと変化し疼痛が軽減した。また、前足部接地になったことで自重により内反も抑制されやすくなった。10m歩行では、簡易装具は裸足よりも歩行速度と重複歩距離で増加が見られた。退院後、簡易装具使用によりclaw toeが減弱し疼痛は消失。歩行のしやすさなどの主観的変化も大きく改善し、趣味であった温泉にも足を運ぶことができたようで、QOL向上につながった。現在では装具使用せず歩行している。<BR>【考察・まとめ】足趾の運動時筋緊張が高く足趾変形が出現する脳卒中片麻痺患者に、簡易装具を使用したことで、足趾の伸展・外転筋を持続的に伸張することとなり、痙性抑制効果が得られ、claw toeも抑制されたと考えられる。また、足趾を伸展位に固定したことで、疼痛が軽減され、足趾の接地・荷重が簡易装具を介して可能となった。これにより、足底の支持面積が増加し足趾のアライメントが矯正されたと考えられる。その結果、歩行速度の向上がみられ、主観的変化も大きく改善し、退院後自宅内で日常的に使用し、裸足に近い状況での歩行が獲得されたと考えられる。このような症例では、歩行能力・QOL向上に有用と考えられる。今後、症例数を重ね有用性・妥当性の検討を行いたい。<BR>