著者
長谷川博 井上雅好
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.301-308, 1980
被引用文献数
6

アジ化ナトリウム(NaN<SUB>3</SUB>)はオオムギにおいて強力な突然変異誘起効果が確かめられているが,一方その然変異誘起効果が認められない植物も知られている。本報告は水稲品種「日本晴」の休眠種子および浸漬種子(0~54時間)に,PH3のリン酸緩衝液中において,アジ化ナトリウムを処理(0~10-1M,1.5~24時間)し,その処理障害および突然変異誘起効果を明らかにしたものである。休眠種子処理における幼苗期の処理障害の指標として,処理後10日目における発芽率,幼苗草丈を調べ,さらに発芽遅延日数についても調査した。処理障害は濃度および処理時間の増加とともに増大した。ことに,幼苗草丈および発芽遅延日数については著者らが前報(HASEGAWA and INOUE 1980)において示したアジ化ナトリウムの``dose"(濃度×処理時間)反応曲線が得られた。M<SUB>1</SUB>種子稔性は各処理区において著しい低下は認められなかった。この結果はアジ化ナトリウムは染色体異常を生じたいという報告を支持するものである。最高葉緑突然変異率はM<SUB>1</SUB>穂あたり11.1%,M<SUB>2</SUB>個体あたり1.22%であり,イネにおけるアジ化ナトリウムの突然変異誘起効果はオオムギにおける効果よりも低いことが明らかになった。M<SUB>2</SUB>代における農業形質の変異もあわせて調査した結果,晩生,短稈,優性,不稔等の変異が多く見い出された。