著者
井山 慶信
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.153-156, 2001

第1章緒言 地球環境問題の解決策の一つとして注目されているものに,環境マネジメントシステムがある。環境マネジメントシステムとは,組織がその活動及び提供する製品やサービスが環境に与える負荷を常に低減するように配慮し,継続的にその改善を続けられるようにするための組織的な仕組みのことである。それを国際規格として発効したものがISO14001であり,特徴としては,(1)法律ではなく民間の任意規格であり,(2)一般の環境法規のような数値による規定ではなく,システムについての規格であり,(3)厳密に準拠が要求される事項で構成された規格(仕様書)である。また,(4)業種や規模に左右されず,あらゆる組織に対して適用可能であり,(5)汚染物質の排出といった末端部分の管理だけでなく,方針の設定から計画・実行・結果の評価・フィードバックなど全てのプロセスを対象とした幅広い規格である。現在,一部の大企業や大組織で認証取得を行っている場合が多く,数多くの中小企業や小規模オフィスでは,人材の配置や費用負担などが原因で導入が困難な状態であり,情報開示の点においても課題が多く残されている。本研究では,一般のオフィスにおいて,環境マネジメントシステムを構築・運営し,実測調査から環境負荷のパフォーマンス評価を行うことを目的とする。第2章環境マネジメントシステムの立ち上げ 一般のオフィスにおいて環境マネジメントシステムを立ち上げるため,1995年6月,広島県内の企業200社(出先機関)に対し依頼を行った。その結果,58社から回答をもらい,承諾した企業は19社であった。環境マネジメントシステムの立ち上げにあたっては,管理のサイクル(PDCA)に沿って,計画(Plan),実施及び運用(Do),点検及び是正処置(Check),経営層による見直し(Action)を行っていく必要がある。本研究では,オフィスの環境側面(環境と相互に影響し得る,組織の活動,製品又はサービスの要素)として紙類に着目し,使用・廃棄される紙に関して環境マネジメントシステムを立ち上げた。承諾企業19社で計画(Plan)について話し合った結果,内部監査人の負担の大きさや,社員全員にシステムの把握をさせる手間など様々な問題点が生じ,最終的に組織トップのゴーサインが出ず,実施及び運用(Do)にまで至らなかった企業が11社あった。残りの8社においても負担などに関して意見が出たが,組織トップと監査人の協力により環境マネジメントシステムを立ち上げることができた。組織トップの意志はシステムの立ち上げにおいて重要な要素であった。立ち上げた環境マネジメントシステムに基づき,8社において一週間実施及び運用(Do)を行った。環境側面として,導入される紙類や使用されるコピー用紙,うら紙の発生量や使用量,送出される紙類や可燃ごみ・資源ごみについて重量を測定し,監査人が調査票に記入した。そして紙の出入りをまとめた環境収支簿記を作成した。次に,環境マネジメントシステムの点検及び是正処置(Check)を行った。それにより,1社で担当者不在による運用の不備が一部見つかり,経営層による見直し(Action)として,改めて社員全員へのシステムの徹底を求めた。他の7社では実施期間において順調にシステムは運用され,紙類の収支や今後の環境への取り組みなどの報告を行うことができた。第3章環境マネジメントシステムの再構築 環境マネジメントシステムにおいて重要な点は,PDCAのサイクルにおけるActionによって継続的に改善が行われることである。このシステムに基づき,1995年に環境マネジメントシステムを構築した8社に対し,1997年1月にシステムの再構築を依頼した。その結果,5社がYes,3社がNoの返事であった。環境マネジメントシステムにとって「継続」は重要なポイントである。環境マネジメントシステムを維持するには労力が必要であるが,現状として3社が維持できなかった。逆に再構築が可能であった5社からは,前回の環境マネジメントシステムに対して「ごみの多さを実感した」など,積極的な意見が出ていた。5社の中には組織のトップが代わった所もあったが,簡単な話し合いを行うだけで,Plan・Do・Checkのサイクルをスムーズに行うことができた。Checkの段階において,5社中2社でオフィス内にシステムの大きな変化が見られた。環境収支簿記を用いた環境パフォーマンス評価により,2社では新たにシュレッダーを導入したことから,焼却されるごみが大幅に増加していた。Actionとして,シュレッダー処理量を低減するよう報告を行った。システムの維持・継続という点で5社で環境マネジメントシステムの再構築を行うことができた。これにより,本研究での環境マネジメントシステムが,単に一度だけではなく継続して運用できることが示された。