著者
井手 智仁
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は,昨年度合成した第1世代大環状化合物をテンプレートとして用いた,より大きな環サイズを有する第2世代大環状化合物の合成を行った.第1世代大環状化合物は,6個のベンジルアルコール側鎖を有しており,これが第2世代大環状化合物の骨格ユニットを取り付ける足場となる.この側鎖をメシル化した後,第2世代の骨格ユニットである,2,6位にフェニレンエチニレン2量体側鎖を有するフェノールを,Williamsonエーテル合成によって導入した.この2段階の反応によって,36%の収率で第2世代大環状化合物の前駆体を得ることに成功した.この前駆体の閉環は,擬希釈条件下において,大過剰量の銅塩を用いたGlaserカップリングにより行った.その結果,収率14%で第2世代大環状化合物を得ることに成功し,新規精密合成法を立証できた.得られた第2世代大環状化合物は,テンプレート部分も含めて分子量11636に達する,単一構造を有する巨大な化合物である.また,2重の環構造と,第1世代大環状化合物合成に用いたヘキサフェニルベンゼンテンプレートをコアに有しており,複数のπ共役系がアルキル鎖・エーテル鎖で隔離された,特徴的な構造を有している.このため,それぞれのπ共役系間でのエネルギーや電荷の移動が期待される.そこで,コアの最大吸収波長を励起波長として蛍光スペクトル測定を行ったところ,コアのテンプレート・第1世代の環骨格からの蛍光は微弱に観察されるのみであり,最も外側の第2世代の環骨格の蛍光が主として観察された.これは,π共役系間における蛍光エネルギー移動が起きていることを示唆する結果である.以上のように,大環状化合物をテンプレートとしてさらに大きな大環状化合物を得るという,新規精密合成法を実証することができ,また,合成した2重大環状化合物において,コアから外周部への放射状の蛍光エネルギー移動を見出すことができた.