著者
山田 博 杉野 信孝 井本 廣麿 今田 吉紀
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州歯科学会雑誌 (ISSN:03686833)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-8, 1980-05-25 (Released:2017-12-22)

我々は南米インカ人骨と思われる頭蓋骨1コ, 下顎骨5コについて調査した.その結果を要約すると次のごとくである.1. 頭蓋骨の計測結果によると, 頭長幅示数では短頭型, 頭長高示数では高頭型であった.またコルマン氏上顔示数では中上顔型, 眼窩は高眼窩型, 鼻は広鼻型, 口蓋は広口蓋型であった.2. 後頭部においてはインカ骨ならびに多くの縫合骨が認められ, 骨全般の縫合状態はきわめて緩かであった.3. 頭蓋骨に残存している6本の歯はやや大きく, 咬耗も少なく, 且つ智歯はまだ萌出していない.従って, 頭蓋骨は20才前後の若年者ではないかと思われる.4. 5コの下顎骨はいずれもがっしりした構造をしており, 特に下顎枝の発達がよく, 咀嚼筋の停止部は強い粗面を呈していた.また, 下顎切痕示数値は低い数値を示し, 切痕が浅いことが認められた.5. 歯は現代人にくらべやや大きく, 特に智歯が大きく, 退化的形態はあまり認められなかった.また歯の咬耗は, No.1, 2, 3が最も強く, いずれも40才代前後の熟年者だと考えられる.No.4は咬耗が少なく, 智歯も未萌出で, 20才前のものと考えられる.No.5は30才代以上の熟年者ではないかと思われる.