著者
池端 浩紀 平山 直紀 井村 久則
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.65-70, 2016

非イオン界面活性剤としてTriton<sup>&reg;</sup>X-100,抽出剤としてピロガロール(H<sub>3</sub>PG)を用い,硫酸溶液中からのアンチモン(V)の曇り点抽出(CPE)について研究した.まず,Triton X-100水溶液の曇り点及び相分離後の界面活性剤リッチ相の体積に対する硫酸濃度,H3PG濃度,加温温度・時間の影響を詳細に調べた.曇り点は硫酸濃度の増加とともに上昇したが,H3PGを共存させると著しく低下することを見いだした.0.20 mol L<sup>-1</sup> H<sub>3</sub>PG共存下で曇り点は38℃ も低下し,相分離後の界面活性剤リッチ相が安定化することが分かった.また,曇り点が低いほど,相分離後の界面活性剤リッチ相の体積が小さくなり,より効果的にミセルの凝集と脱水和が進むものと考えられる.これらの相分離現象に基づき,アンチモン(V)のCPEを検討した結果,0.15 mol L<sup>-1</sup>のH<sub>3</sub>PGと0.9 mol L<sup>-1</sup>の硫酸を含む2%(v/v)Triton X-100水溶液を,70℃ で60 min加温することにより,アンチモン(V)を界面活性剤リッチ相中に92% 以上抽出でき,20倍濃縮を達成した.また,このときのアンチモン(V)の抽出種を,エレクトロスプレーイオン化質量分析法により分析し,イオン会合錯体(H<sub>3</sub>O・<i><sub>n</sub></i>Triton X-100)・Sb(HPG)<sub>3</sub>として抽出されることを明らかにした.