著者
京極 大助 川津 一隆
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1-7, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
15

博士課程学生と教員の関係には独特の難しさ-科学研究に不慣れな学生は様々なサポートを必要とする一方で、教員の多くはそのための教育を受けていない-がある。そのため学生・教員ともにどのように振る舞えば良いか悩むことも多いのではないだろうか。より良い博士課程の実現には、現状にある課題を整理し議論することから始めなければならない。こうした問題意識から、筆者らは2017 年3 月の日本生態学会において自由集会「Ph.D の育ちかた、育て方。」を主催した。本稿では自由集会の企画趣旨説明をベースに、学生と教員の関係を考えるためのヒントを提示する。具体的には、1)生態学という分野の特殊性と時代の変化のため、他分野や過去の事例が必ずしも現代生態学の博士課程に適用可能とは限らない;2)「より良い博士課程」は多義的であり、唯一の正解は存在しないだろう;3)学生と教員の関係に影響する要因は多岐にわたり、最低限満たされるべき条件と理想的な状態という少なくとも2 つの異なる視点が存在する、という三点を明確にする。こうした事実を認めたうえで、学生と教員の相性と、双方の資質について考えるための簡単なフレームワークを提示する。本稿の目的は博士課程のあり方に関する議論を喚起することにあるが、こうした議論を行う上での注意点も指摘する。自由集会の準備過程、自由集会で語られたこと、自由集会後に報告された調査結果についても紹介する。