著者
井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.89-95, 2010-03-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
26
被引用文献数
3

タケ類の生活史は、長期間にわたる栄養繁殖と、その後の一斉開花枯死で特徴づけられる。タケ類に関しては、地下茎の形態と稈の発生様式、開花周期と同調性、開花後の株の振舞いなどにいくつかのパターンが知られており、それぞれの特徴をもたらした究極要因や至近要因が解析・考察されてきた。しかしながら、タケ群落で観察される繁殖生態上の特性は、種が本来的に持つ特徴というよりは、たまたまその地域に人為的に導入された系統の性質であったり、あるいは群落を構成するクローン数が極端に少ないという事に起因する可能性がある。また、タケ類は開花周期が長いため、世代交代時に働く選択のフィルターが機能する頻度も低く、人為による移植の影響や移植個体群の遺伝的性質が長期間にわたって維持される可能性も高い。本論では、単軸分枝する地下茎を持つマダケ属(Phyllostachys)とササ属(Sasa)、仮軸分枝する地下茎を持つBambusa arnhemicaの事例をとりあげ、群落の遺伝的多様性の多寡と開花同調性の有無に基づいて、開花現象を4つのタイプにわけ、タケ類の繁殖生態研究で留意すべき点を考察した。
著者
杉浦 真治
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.347-359, 2012-11-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
80
被引用文献数
2

一般に、島の面積が広くなればそこに生息する動植物の種数は増加する。このような島の種数-面積関係を生み出すメカニズムに関する研究には、Robert MacArthurとEdward Wilsonによる島嶼生物地理学の理論の提唱以来40年の蓄積がある。彼らの理論は、島だけでなく断片化した森林パッチなどの種数-面積関係にも適用されてきた。また、種数-面積関係はさまざまな視点から拡張されてきた。例えば、島の種数-面積関係に種間相互作用を考慮するという試みがある。種間相互作用は、古くは食物網、最近では動物と植物の相利共生系ネットワークとして注目されている。一般に、種数が増加すると種間の相互作用数も多くなる。このため、種間相互作用数は島面積とともに増加すると予測される。また、種間相互作用ネットワークの構造は構成種数に強く影響されるため、ネットワークの構造は島面積に関連することが予測される。これらの予測は、小笠原諸島における植物とアリとの種間相互作用ネットワークで確かめられた。こうした種間相互作用ネットワークと面積の関係は、島の種数-面積関係と同様に、大陸における植生パッチなどにも適用できる。実際、南米大陸における植物-訪花昆虫のネットワークや植物-潜葉性昆虫-捕食寄生性昆虫の食物網で確認された。さらに、北米大陸における植物-訪花昆虫とのネットワークの解析によって、特定の空間スケールにおいて種間相互作用数やネットワークの構造が森林面積と強く関係することが示唆された。このように、種間相互作用数およびネットワーク構造は、島面積や植生パッチ面積といった生息地の大きさに深く関連している。
著者
早矢仕 有子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2036, (Released:2022-04-15)
参考文献数
31

絶滅危惧種シマフクロウ Ketupa blakistoniに対する国の保護増殖事業は、 1984年の事業開始時から一貫して生息地を非公開とすることで、バードウォッチャーや写真撮影者の接近がシマフクロウの採餌や繁殖に悪影響を及ぼす危険性を回避しようとしてきた。しかし、接近が容易な一部の生息地では次第に人の入り込みが増加し、とくに 2010年代に急増した。シマフクロウを餌付けして観察や撮影の場を提供している宿泊施設も複数存在し、生息情報が拡散し続けている。インターネット上に公開されているシマフクロウの写真を掲載した個人のブログを検索すると、 47.4%に撮影地が明記されており、シマフクロウが見られることを宣伝材料にしている宿泊施設で撮影されていた。これら 4軒の宿泊施設のうち 3軒はシマフクロウを餌付けしており、残りの 1軒は、宿を取り囲む国有林で採餌や繁殖している個体を見せていた。インスタグラムでは 55.1%の投稿で撮影地が記載されており、そのすべてがシマフクロウを餌付けしている宿であった。ブログに掲載されている写真の 87.3%は夜間に撮影されており、光源にはストロボあるいは宿泊施設が撮影や観察のために設置した照明を使用していた。昼間に自然光の下で撮影された写真は全体の 12.7%で、そのうち 32.9%は飛翔能力の未熟な巣立雛とそれを守る親鳥に接近して撮影していた。野生個体の生息地訪問者は、動物園でシマフクロウを見るガイドツアーに参加していた来園者と比較すると北海道外に居住する年長の男性が多かった。国の保護増殖事業内容についての認知度を比較すると、野生個体生息地の訪問者は、生息地で実施されている保護施策への知識があり、逆に動物園来園者は、飼育下で実施されている保護施策をより知っていた。さらに、野生個体生息地訪問者は、動物園訪問者よりも撮影や観察にまつわる行為がシマフクロウに及ぼす影響を小さいと考える傾向があり、とくに餌付けを問題視しない者が多数を占めた。本研究結果より、現状のシマフクロウ野生個体の観光利用については以下の問題点が導き出された。すなわち、 1)生息地情報の拡散、 2)餌付け、 3)人工照明の使用、 4)人工的環境への馴化、 5)保護増殖事業との軋轢、である。
著者
海部 健三 水産庁 環境省自然環境局野生生物課 望岡 典隆 パルシステム生活協同組合連合会 山岡 未季 黒田 啓行 吉田 丈人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.43-57, 2018 (Released:2018-04-06)
参考文献数
47

古来より人間は、ニホンウナギから多様な生態系サービスを享受してきたが、国内漁獲量は1961年の約3,400トンをピークに、2015年の70トンまで大きく減少し、2013年には環境省が、2014年には国際自然保護連合(IUCN)が、本種を絶滅危惧IB類およびEndangeredに区分した。本稿は、今後の研究や活動の方向性を議論するための情報を提供することを目的として、現在我が国で行われているニホンウナギの保全と持続的利用に向けた取り組みと課題を整理した。水産庁は、放流と河川生息環境の改善、国内外の資源管理、生態・資源に関する調査の強化等を進めている。環境省は、2ヵ年に渡る現地調査を行なったうえで、2017年3月に「ニホンウナギの生息地保全の考え方」を公表した。民間企業でも、一個体をより大きく育てることで消費される個体数を減少させるとともに、持続的利用を目指す調査研究や取り組みに対して寄付を行う活動が始まっている。しかし、web検索を利用して国内の保全と持続的利用を目指す取り組みを整理すると、その多くは漁業法に基づく放流や漁業調整規則、シンポジウムなどを通じた情報共有であり、生息環境の保全や回復を目的とした実質的な取り組み件数は限られていた。漁業管理を通じた資源管理を考えた場合、本種の資源評価に利用可能なデータは限られており、現時点ではMSY(最大持続生産量)の推定は難しい。満足な資源評価が得られるまでは、現状に合わせて、限られた情報に基づいた漁獲制御ルールを用いるなど、適切な評価や管理の手法を選択することが重要である。本種の生息場所として重要な淡水生態系は劣化が著しく、その保全と回復はニホンウナギに限らず他の生物にとっても重要である。ニホンウナギは水域生態系のアンブレラ種など指標種としての特徴を備えている可能性があり、生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の促進など、水辺の生物多様性の保全と回復を推進する役割が期待される。
著者
髙久 宏佑 諸澤 崇裕
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2109, (Released:2021-10-31)
参考文献数
27

日本における観賞魚飼育は古くから一般的なものであり、近年では希少性や美麗性から日本に生息する絶滅危惧魚類も取引対象として扱われるようになってきた。さらにネットオークションによる取引の増加に伴い、個人等による野外採集個体の消費的な取引の増加も懸念されているが、一方で絶滅危惧種の捕獲、流通に係る定量的データの収集は難しく、種ごとの取引現況について量的な把握が行われたことはない。そこで本研究では、環境省レッドリストに掲載されている 184種の絶滅危惧魚類の取引の実態把握を目的として、ネットオークションにおける 10年間分の取引情報を利用した大局的な集計と分析を行うとともに、取引特性の類型化を試みた。取引データ集計の結果、ネットオークションでは 88種の取引が確認された。また、全取引数の過半数以上は取引数の多い上位 10種において占められており、さらにアカメ、オヤニラミ、ゼニタナゴの 3種の取引が、そのうちの大部分を占めていた。取引数や取引額、養殖や野外採集と思われる取引数等を種ごとに集計した 6変数による階層的クラスター分析の結果では、 8つのサブグループに分けられ、ネットオークションでの取引には、主流取引型、薄利多売型、高付加価値少売型等のいくつかの特徴的な類型を有することが分かった。また、特に多くの取引が確認されたタナゴ類の中には、養殖個体として抽出された取引が多く認められる種がおり、一部の種については、他の観賞魚のように養殖個体に由来する取引が主流になりつつある可能性が考えられた。
著者
篠原 直登 山道 真人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.35-65, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
116

単一の資源をめぐって競争する種は共存できない、という競争排除則に反して、野外の生態系では少数の資源を共有する多数の種が共存しているように見える。このパラドックスは、古くから群集生態学の中心的な問いであり続けてきた。近年になって、複数の多種共存メカニズムの効果を統一的に説明する考え方として、Peter Chessonが提唱した共存理論が注目を浴びている。この理論的枠組みでは、安定化効果(負の頻度依存性)と均一化効果(競争能力の差の減少)のバランスによって多種が共存するか決まるとされる。さらに侵入増殖率を分解することで、定常環境下で働くプロセス(資源分割や種ごとに異なる捕食者等)と、時空間的に変動する環境で働くプロセス(相対的非線形性・ストレージ効果)を統一的に捉え、それらの相対的な重要性を調べることができる。その数学的な複雑さにもかかわらず、Chessonの共存理論は大きな広がりを見せ、実証的な知見も蓄積されてきた。さらに近年では、他の群集生態学理論との関連性が明らかにされつつあり、群集生態学という研究分野を統合する理論として発展していく可能性がある。本稿では、なるべく多くの図を用いて変動環境における多種共存メカニズムを整理し、Chessonの共存理論の解説を試みるとともに、今後の群集生態学研究の方向性について議論する。
著者
片山 直樹 馬場 友希 大久保 悟
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.201, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
121
被引用文献数
2

水田の生物多様性に配慮した農法の実際の保全効果を明らかにするため、三種類のデータソースをもとに整理した:(1)農林水産省委託プロジェクトによる全国規模の調査結果、(2)農林水産省による環境保全型農業直接支払制度の事業効果測定調査結果、(3)既往学術文献。まず委託プロジェクトでは、全国規模の野外調査の結果、有機栽培が慣行栽培と比較して複数の分類群(植物、無脊椎動物、トノサマガエル属および水鳥類)の種数・個体数が多いことが明らかとなった。次に農林水産省の調査結果では、有機栽培、冬期湛水および総合的病害虫・雑草管理(IPM)の取組により無脊椎動物およびカエル類の個体数から計算される生物多様性スコアが増加することが明らかとなった。さらに、既往の学術文献のシステマティックレビューを行い、生物多様性に配慮した農法(有機栽培、冬期湛水、IPMを含む特別栽培、江の設置、休耕田ビオトープ、中干し延期、魚道の設置、畔の粗放的管理)の保全効果について、分類群ごとに知見を整理した。これら全ての知見の質・量および結果の一貫性に基づき、各農法の保全効果を4つの「信頼度」(十分確立している、確立しているが不完全、競合する解釈あり、検証不足)をつけて分類群ごとに評価した。その結果、保全効果は農法ごとに、また一つの農法でも分類群ごとに大きな差があり、結果の信頼度も多様であった。加えて、多くの研究事例が圃場1筆程度の小さな空間スケールでの評価であり、個体群・群集レベルでの保全効果を示唆する知見は非常に少なかった。これらの結果をもとに、今後の生物多様性保全に配慮した農業のあり方や研究の方向性について議論を行った。
著者
西廣 淳 赤坂 宗光 山ノ内 崇志 高村 典子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-154, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
33
被引用文献数
2

種子や胞子などの散布体を含む湖沼の底質は、地上植生から消失した水生植物を再生させる材料として有用である。ただし、底質中の散布体の死亡などの理由により、地上植生から植物が消失してからの時間経過に伴い再生の可能性が低下する可能性が予測される。しかし、再生可能性と消失からの経過時間との関係については不明な点が多い。そこで、水生植物相の変化と底質中の散布体に関する知見が比較的充実している霞ヶ浦(西浦)と印旛沼を対象に、水生植物の再生の確認の有無と、地上植生での消失からの経過時間との関係を分析した。その結果、地上植生から記録されなくなった植物の再生の可能性は時間経過に伴って急激に低下し、消失から40~50年が経過した種では再生が困難になることが示唆された。散布体バンクの保全は、湖沼の生態系修復において優先すべき課題であると考えられる。
著者
長野 康之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2031, (Released:2022-04-15)
参考文献数
99

環境省「ライチョウ保護増殖事業実施計画」の一環として実施されている中央アルプスへのライチョウ移植事業について、北米での先行事例をもとに作成されたライチョウ移植プロトコルと、 IUCN(国際自然保護連合)が発行する生物の移植のためのガイドラインに基づいて比較検討した。その結果、中央アルプスへの移植事業は北米のプロトコルや IUCNガイドラインが推奨する内容と重要な点において合致していなかった。移植先である生息地の事前評価が重要とされている中、捕食が原因で絶滅したとされる移植先の中央アルプス木曽駒ヶ岳において、事前に捕食者の現状を把握するなどの生息地評価は行われず、結果として導入後 1ヶ月のヒナの死亡率は 100%であった。また、ライチョウが属するキジ目鳥類では死亡率が高いためにヒナの移植は推奨されないが、 2019年には卵が、 2020年にはヒナが主として移植されていた。さらにできるだけ多くの個体(成鳥ペア)を移植するのが望ましいとされているが、 2019年に 6卵(移植失敗)、2020年には 8卵(移植失敗)のほか成鳥メス 3羽とヒナ 16羽の計 19羽の放鳥にとどまった。このほかライチョウの生息域内保全に関する調査や事業に関しても、日本全体のライチョウの個体数推定が不確かであること、生息域全体の生息環境の把握が不十分であること等の課題が見られ、合理的な保全策を計画するための調査になっていなかった。今後のライチョウ保全のために有効だと思われる方策について、北米のプロトコルや IUCNガイドラインが推奨する内容に沿って提言した。
著者
畑 啓生 東垣 大祐 小笠原 康太 松本 浩司 山本 貴仁 村上 裕 中島 淳 井上 幹生
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2111, (Released:2021-10-31)
参考文献数
35

イシガイ科マツカサガイは、本州、四国、九州に分布する日本固有の淡水性二枚貝である。流水のある淡水域を選好し、現在ではその主な生息地は農業用水路となっている。本研究では、愛媛県の道前平野における農業用土水路にて、マツカサガイの新たな生息地が確認されたため報告する。愛媛県では、マツカサガイは、松山平野南部と宇和盆地のみに生息が知られていたが、それらの地域では分布域と密度が急速に減少しており、愛媛県特定希少野生動植物として条例で保護されている。道前平野において、圃場整備の一環として流路が変更される予定である農業用水路で調査した結果、水面幅約 1m、流路長 440 mの範囲の土水路ほぼ全域にわたって、最大密度 20個体 /m2で、計 651個体の生息が確認され、 1249個体の生息が推測された。土水路中で一部、二面コンクリート護岸が施されている場所では、確認された個体数は著しく少なかった。マツカサガイの殻長は 41.7 ± 5.8 mm(平均 ±標準偏差)で、松山平野の国近川の個体群と比較すると、平均値に対する標準偏差の値が大きく、 20 mm程度の幼貝もみられたため、本土水路では、国近川に比べマツカサガイの寿命は短いものの、複数回の再生産が生じていると考えられる。この農業用の水路網は一級河川が作る扇状地に網目状に広がり、周辺は一面に水田が広がるが、圃場整備により、土水路が残されるのは本研究地区のみとなっており、最後に残されたマツカサガイ生息地の断片と考えられる。マツカサガイは全国的にみても準絶滅危惧であり、この個体群の保全が求められる。淡水性二枚貝類は人為的影響により減少が危惧されるため、圃場整備を行いながらの保全の実践は、他地域のためにも先行例となる。
著者
門脇 浩明 山道 真人 深野 祐也 石塚 航 三村 真紀子 西廣 淳 横溝 裕行 内海 俊介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1933, (Released:2020-11-10)
参考文献数
100

近年、生物の進化が集団サイズの変化と同じ時間スケールで生じ、遺伝子頻度と個体数が相互作用しながら変動することが明らかになってきた。生物多様性の損失の多くは、生物の進化速度が環境変化の速度に追いつけないことにより引き起こされるため、生物の絶滅リスクを評価する上で進化の理解は必須となる。特に近年では、気候変動・生息地断片化・外来種などの人間活動に関連する環境変化が一層深刻さを増しており、それらの変化に伴う進化を理解・予測する必要性が高まっている。しかし、進化生態学と保全生態学のきわめて深い関係性は十分に認識されていないように感じられる。本稿では、進化の基本となるプロセスについて述べた後、気候変動・生息地断片化・外来種という問題に直面した際に、保全生態学において進化的視点を考慮することの重要性を提示する。さらに、進化を考慮した具体的な生物多様性保全や生態系管理の方法をまとめ、今後の展望を議論する。
著者
エヴァン P. エコノモ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.735-742, 2016 (Released:2016-12-28)

海外滞在は科学者としての人生とキャリアを成長・発展させる重要な期間となり得る。ある意味において科学者は世界中を自由に移動し活動できる存在でなくてはならない。なぜなら科学は境界を超える万国共通の探求活動だからである。しかし、アカデミアは文化と伝統に左右される人間活動で、それが移動を難しくすることがある。本論で私は、西洋アカデミアへの就職に興味があり、その座を勝ち取りたい日本人科学者に幾つかアドバイスしたい。国際的なトップジャーナルに論文掲載される素晴らしい研究を行うことは、もちろん科学者のキャリア向上のための最重要要素である。だが、対策が必要な二番目に重要な要素もある。すなわち日本の研究者にはたぶんあまり知られていない、西洋アカデミアの“暗黙の規則”である。これが日本研究者の潜在能力への足かせになっているかもしれない。ここではポジションの見つけ方、見込みのあるスーパーバイザーへのコンタクトの取り方、そして西洋アカデミア流の良い推薦状の書き方について論じる。
著者
杉田 典正 海老原 淳 細矢 剛 神保 宇嗣 中江 雅典 遊川 知久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2038, (Released:2021-08-31)
参考文献数
62

環境省レッドリストに掲載された多くの分類群は、個体数が少ない、生息地がアクセス困難であるなどの理由から保全管理計画の策定に必要な情報が不足している。博物館は過去に採集されたレッドリスト掲載の分類群の標本を所蔵している。ラベル情報に加え形態・遺伝情報を有する標本は、保全に関する様々な情報を供給可能である。しかし、標本の所在情報は各博物館の標本目録や台帳に散在しており標本の利用性は低かった。これらの情報は公開データベース等で共有化されつつあるが、情報の電子化・共有化は不完全であり、依然として利用性が低い状況にある。本研究は、環境省レッドリスト 2019ならびに海洋生物レッドリスト 2017に掲載の絶滅危惧種(絶滅と野生絶滅、絶滅危惧 I類のみ対象)の標本所在情報を集約するために、国立科学博物館の標本データベースおよびサイエンスミュージアムネット( S-Net)の集計と聞き取り等による標本所在調査をおこなった。国内の博物館は、約 95.9%の絶滅危惧種につき標本を 1点以上保有し、少なくとも 58,415点の標本を所蔵していた。海外の博物館も含めると約 97.0%の絶滅危惧種の標本所在が確認された。約 26.5%の絶滅危惧種が個体群内の遺伝的多様性の推定に適する 20個体以上の標本数を有した。本研究により絶滅危惧種標本へのアクセスが改善された。これらの標本の活用により、実体の不明な分類群の検証、生物の分布予測、集団構造、生物地理、遺伝的多様性の変遷といった保全のための研究の進展が期待される。一方でデータベースの標本情報には偏りが認められ、例えば脊椎動物はほとんどの高次分類群で 50%以上の絶滅危惧種の所蔵があったが、無脊椎動物では全く所蔵のない高次分類群があった。採集年代と採集地にも偏りがあり、 1960 -1990年代に標本数が多く、生息地間で標本数が異なる傾向があった。データベースの生物名表記の揺れや登録の遅延は、検索性を低下させていた。利用者が標本情報を使用する際は情報の精査が必要である。保全への標本利用を促進するために、データベースの網羅性と正確性を向上させる必要がある。博物館は、絶滅危惧種に関する標本の体系的な収集、最新の分類体系に基づいた高品質データの共有化、標本と標本情報の管理上の問題の継続的な解決により、絶滅危惧種の保全に標本が活用される仕組みを整えることが求められる。
著者
粕谷 英一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.179-185, 2015-07-30 (Released:2017-05-23)
参考文献数
6
被引用文献数
6

生態学におけるモデル選択の方法として広く使われている赤池情報量規準(AIC)について、真のモデルを特定するために使うことは本来の目的から離れていることを指摘し、サンプルサイズが大きくてもAIC最小という基準で真のモデルが選ばれない確率が無視し得ないほど大きいことを単純な数値例で示した。また、AICの値に閾値を設けて、AICの値が他のモデルより小さくしかも差の絶対値が閾値を越えているときのみにモデルを選ぶとしても、真のモデルが選ばれない確率が高いという問題点は解決されないことを示した。
著者
志賀 隆 横川 昌史 兼子 伸吾 井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.33-44, 2013-05-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

シモツケコウホネNuphar submersa Shiga & KadonoとナガレコウホネN.×fluminalis Shiga & Kadonoは残存集団がそれぞれ4集団のみであり、絶滅が危惧されている水生植物である。それぞれの生育面積はわずかであるにもかかわらず、近年、群落の一部を根こそぎ持ち去るような、園芸目的の盗掘と思われる被害が確認されるようになった。本研究では、形態形質の調査とマイクロサテライトマーカー15遺伝子座の遺伝子型解析を行うことにより、市場に流通しているシモツケコウホネ、ナガレコウホネ、これに加え「ナガバベニコウホネ」の流通名で販売されている植物についてC社とT社から購入し、産地の特定を試みた。ナガレコウホネについては現存個体の多座位遺伝子型を明らかにするために、全ての現存集団から合計59サンプルを得て遺伝子型解析を行った結果、19種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株の形態形質を調査した結果、T社の「シモツケコウホネ」(T1)はシモツケコウホネであったのに対し、C社の流通株(C1〜C9)は全てナガレコウホネであった。また、流通株の遺伝子型を決定した結果、2種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株から得られた多座位遺伝子型に対応するものが野生集団で確認されるか検討したところ、T1は日光市(NIK)のシモツケコウホネ(NIK-25)と、C1〜C9は同一クローンであり、佐野市(SAN)のナガレコウホネ(SAN-10)と多座位遺伝子型が完全に一致した。日光市と佐野市の各集団において、NIK-25とSAN-10と全く同じ多座位遺伝子型を持つ別個体が集団内の任意交配により生じる確率(PG)はそれぞれ0.00034と0.00030であることから、日光市および佐野市において採集された2種類の株が流通していたことが示唆された。全個体遺伝子型解析に基づく遺伝子型データの整備は流通や盗掘に対して抑制的な効果をもたらすことが期待できる。
著者
五箇 公一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.123-130, 2012-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

Currently, the conservation of biodiversity ranks alongside the regulation of global warming as the most important global environmental problems. Biological invasions are considered one of the most important causative agents of declines in biodiversity. Therefore, in Article 8 (h), the Convention on Biological Diversity (CBD) specified that each contracting party must undertake efforts to control alien species that threaten ecosystems, habitats, or species. Furthermore, the "Aichi Target," based on the 2010 targets identified during CBD's 10^<th> Conference of Parties (COP10, held at Nagoya, Japan), proposed as Target 9 that, "By 2020, invasive alien species and pathways are identified and prioritized, priority species are controlled or eradicated, and measures are in place to manage pathways to prevent their introduction and establishment." Because the need to control alien species has increased worldwide, each country needs to possess or prepare regulation systems against biological invasions. On the other hand, economic globalization has recently undergone rapid advances, which increases the chances of introductions and transportation of alien species. Japan has a large economy and is simultaneously a resource-poor country that is largely dependent on the importation of foods and natural resources from abroad. Therefore, our country can be considered to have a constant high risk of invasion by alien species. Of course, Japan has some quarantine systems and regulations to counter alien species. However, the risk of invasion by alien species continues to rise irrespective of efforts to prevent their arrival and establishment. The World Trade Organization (WTO) is confronting the control of alien species by applying immense diplomatic pressure.
著者
正富 宏之 正富 欣之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.223-242, 2009-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
90

北海道に広く分布していた留鳥性タンチョウGrus japonensis個体群は、生息地開発や狩猟により19世紀末には絶滅寸前まで減少し、20世紀半ばまでその状態が継続した。しかし、1950年代に餌付けが行なわれ、冬の餌不足解消により現在は1,300羽を超すまでに回復した。他方、生息地の湿原は既に70%以上が失われているため、個体数増加に伴い繁殖番いの高密度化と越冬群の集中化が進行し、餌や営巣場所を求めて人工環境へ進出する傾向が顕著となっている。これを容易にしたのが、長年の保護活動によるヒトへの馴れであり、その結果、ヒトとのさまざまな軋轢を生んでいる。そこで、従来の個体数増加に力点を置いた保護方針の再検討を行ない、ヒトとの共存を図る新たな将来像の構築が求められる。それには、現状をふまえながら、タンチョウにややヒトと距離を置く生活習性へ向かわせることを基本姿勢とする。その上で、過剰なヒト馴れを低減する方法を模索すると共に、生息地の拡大・保全・維持を行ない、遺伝的多様性の低さに配慮した個体数の増加を図りながら、集中化によるカタストロフィの危険を避けるため、群れの分散化を目指すことである。これは、従来のように一部のツル関係者や行政担当者でなし得ることではなく、利害を持つ地域住民の主体的参加が不可欠であり、その方策として順応的管理に即した円卓会議の設置を急ぐべきである。
著者
渡辺 黎也 日下石 碧 横井 智之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.49-60, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
55

コウチュウ目やカメムシ目などの水生昆虫は、水田やため池を主な生息場所としているが、圃場整備や近代農法への転換によって生息環境が改変され、全国的に減少傾向にある。そのため近年では慣行農法の水田に対し、殺虫剤や除草剤の使用を抑えた環境保全型農業の水田を推進する動きが高まっている。水生昆虫群集の動態に影響を与える要因としては、農法以外にも水田内外における生息環境に関わる複数の要因が挙げられるが、それら要因についての知見は少なく総合的な解決が求められている。本研究では、水田内の環境要因および景観要素が水生昆虫群集(コウチュウ目、カメムシ目)に与える影響について調査した。 調査は2017年4月から9月に、茨城県つくば市近郊の5地域から環境保全型水田と慣行水田を1組以上、計16枚を対象に行なった。タモ網を用いた掬い取りを行ない、水生昆虫と餌生物(両生類幼生、ユスリカ科、カ科等)の個体数を種もしくは分類群ごとに記録した。水田内の環境要因として、調査地ごとに水質(水温、水深、電気伝導度、pH)と水田内に生育する植物の植被率、薬剤使用の有無、湛水日数を調査した。また地理情報システム(GIS)を用いて、調査水田を中心としてバッファー(半径500、1,000、2,000、3,000、4,000、5,000 m)を発生させ、各バッファーに占める景観要素(水田、その他の水域、森林、人工物、その他)の面積の割合を算出した。 調査の結果、水生昆虫の群集組成は農法によって異なっており、水田内の要因のうち湛水日数と餌個体数、水温が群集組成に影響を与えていた。さらに各要因の効果として、分類群数に対しては餌個体数と水温が正の効果を与えていた。また、慣行農法は水生昆虫の分類群数と個体数の双方に負の効果を与えていた。分類群数および個体数の決定に有効な空間スケールはそれぞれ水田周囲の半径3,000 mと2,000 mであり、その他の水域や森林が分類群数や個体数に正の効果を与えていた。以上より、水生昆虫の分類群数や個体数の維持には環境保全型農業の推進に加え、水田内への安定した餌生物の供給や、半径2,000または3,000 m内にその他の水域や森林など様々な環境が存在することが重要であることが示された。