著者
井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.89-95, 2010-03-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
26
被引用文献数
3

タケ類の生活史は、長期間にわたる栄養繁殖と、その後の一斉開花枯死で特徴づけられる。タケ類に関しては、地下茎の形態と稈の発生様式、開花周期と同調性、開花後の株の振舞いなどにいくつかのパターンが知られており、それぞれの特徴をもたらした究極要因や至近要因が解析・考察されてきた。しかしながら、タケ群落で観察される繁殖生態上の特性は、種が本来的に持つ特徴というよりは、たまたまその地域に人為的に導入された系統の性質であったり、あるいは群落を構成するクローン数が極端に少ないという事に起因する可能性がある。また、タケ類は開花周期が長いため、世代交代時に働く選択のフィルターが機能する頻度も低く、人為による移植の影響や移植個体群の遺伝的性質が長期間にわたって維持される可能性も高い。本論では、単軸分枝する地下茎を持つマダケ属(Phyllostachys)とササ属(Sasa)、仮軸分枝する地下茎を持つBambusa arnhemicaの事例をとりあげ、群落の遺伝的多様性の多寡と開花同調性の有無に基づいて、開花現象を4つのタイプにわけ、タケ類の繁殖生態研究で留意すべき点を考察した。
著者
海部 健三 水産庁 環境省自然環境局野生生物課 望岡 典隆 パルシステム生活協同組合連合会 山岡 未季 黒田 啓行 吉田 丈人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.43-57, 2018 (Released:2018-04-06)
参考文献数
47

古来より人間は、ニホンウナギから多様な生態系サービスを享受してきたが、国内漁獲量は1961年の約3,400トンをピークに、2015年の70トンまで大きく減少し、2013年には環境省が、2014年には国際自然保護連合(IUCN)が、本種を絶滅危惧IB類およびEndangeredに区分した。本稿は、今後の研究や活動の方向性を議論するための情報を提供することを目的として、現在我が国で行われているニホンウナギの保全と持続的利用に向けた取り組みと課題を整理した。水産庁は、放流と河川生息環境の改善、国内外の資源管理、生態・資源に関する調査の強化等を進めている。環境省は、2ヵ年に渡る現地調査を行なったうえで、2017年3月に「ニホンウナギの生息地保全の考え方」を公表した。民間企業でも、一個体をより大きく育てることで消費される個体数を減少させるとともに、持続的利用を目指す調査研究や取り組みに対して寄付を行う活動が始まっている。しかし、web検索を利用して国内の保全と持続的利用を目指す取り組みを整理すると、その多くは漁業法に基づく放流や漁業調整規則、シンポジウムなどを通じた情報共有であり、生息環境の保全や回復を目的とした実質的な取り組み件数は限られていた。漁業管理を通じた資源管理を考えた場合、本種の資源評価に利用可能なデータは限られており、現時点ではMSY(最大持続生産量)の推定は難しい。満足な資源評価が得られるまでは、現状に合わせて、限られた情報に基づいた漁獲制御ルールを用いるなど、適切な評価や管理の手法を選択することが重要である。本種の生息場所として重要な淡水生態系は劣化が著しく、その保全と回復はニホンウナギに限らず他の生物にとっても重要である。ニホンウナギは水域生態系のアンブレラ種など指標種としての特徴を備えている可能性があり、生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の促進など、水辺の生物多様性の保全と回復を推進する役割が期待される。
著者
西廣 淳 赤坂 宗光 山ノ内 崇志 高村 典子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-154, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
33
被引用文献数
2

種子や胞子などの散布体を含む湖沼の底質は、地上植生から消失した水生植物を再生させる材料として有用である。ただし、底質中の散布体の死亡などの理由により、地上植生から植物が消失してからの時間経過に伴い再生の可能性が低下する可能性が予測される。しかし、再生可能性と消失からの経過時間との関係については不明な点が多い。そこで、水生植物相の変化と底質中の散布体に関する知見が比較的充実している霞ヶ浦(西浦)と印旛沼を対象に、水生植物の再生の確認の有無と、地上植生での消失からの経過時間との関係を分析した。その結果、地上植生から記録されなくなった植物の再生の可能性は時間経過に伴って急激に低下し、消失から40~50年が経過した種では再生が困難になることが示唆された。散布体バンクの保全は、湖沼の生態系修復において優先すべき課題であると考えられる。
著者
片山 直樹 馬場 友希 大久保 悟
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.201, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
121
被引用文献数
2

水田の生物多様性に配慮した農法の実際の保全効果を明らかにするため、三種類のデータソースをもとに整理した:(1)農林水産省委託プロジェクトによる全国規模の調査結果、(2)農林水産省による環境保全型農業直接支払制度の事業効果測定調査結果、(3)既往学術文献。まず委託プロジェクトでは、全国規模の野外調査の結果、有機栽培が慣行栽培と比較して複数の分類群(植物、無脊椎動物、トノサマガエル属および水鳥類)の種数・個体数が多いことが明らかとなった。次に農林水産省の調査結果では、有機栽培、冬期湛水および総合的病害虫・雑草管理(IPM)の取組により無脊椎動物およびカエル類の個体数から計算される生物多様性スコアが増加することが明らかとなった。さらに、既往の学術文献のシステマティックレビューを行い、生物多様性に配慮した農法(有機栽培、冬期湛水、IPMを含む特別栽培、江の設置、休耕田ビオトープ、中干し延期、魚道の設置、畔の粗放的管理)の保全効果について、分類群ごとに知見を整理した。これら全ての知見の質・量および結果の一貫性に基づき、各農法の保全効果を4つの「信頼度」(十分確立している、確立しているが不完全、競合する解釈あり、検証不足)をつけて分類群ごとに評価した。その結果、保全効果は農法ごとに、また一つの農法でも分類群ごとに大きな差があり、結果の信頼度も多様であった。加えて、多くの研究事例が圃場1筆程度の小さな空間スケールでの評価であり、個体群・群集レベルでの保全効果を示唆する知見は非常に少なかった。これらの結果をもとに、今後の生物多様性保全に配慮した農業のあり方や研究の方向性について議論を行った。
著者
門脇 浩明 山道 真人 深野 祐也 石塚 航 三村 真紀子 西廣 淳 横溝 裕行 内海 俊介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1933, (Released:2020-11-10)
参考文献数
100

近年、生物の進化が集団サイズの変化と同じ時間スケールで生じ、遺伝子頻度と個体数が相互作用しながら変動することが明らかになってきた。生物多様性の損失の多くは、生物の進化速度が環境変化の速度に追いつけないことにより引き起こされるため、生物の絶滅リスクを評価する上で進化の理解は必須となる。特に近年では、気候変動・生息地断片化・外来種などの人間活動に関連する環境変化が一層深刻さを増しており、それらの変化に伴う進化を理解・予測する必要性が高まっている。しかし、進化生態学と保全生態学のきわめて深い関係性は十分に認識されていないように感じられる。本稿では、進化の基本となるプロセスについて述べた後、気候変動・生息地断片化・外来種という問題に直面した際に、保全生態学において進化的視点を考慮することの重要性を提示する。さらに、進化を考慮した具体的な生物多様性保全や生態系管理の方法をまとめ、今後の展望を議論する。
著者
粕谷 英一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.179-185, 2015-07-30 (Released:2017-05-23)
参考文献数
6
被引用文献数
6

生態学におけるモデル選択の方法として広く使われている赤池情報量規準(AIC)について、真のモデルを特定するために使うことは本来の目的から離れていることを指摘し、サンプルサイズが大きくてもAIC最小という基準で真のモデルが選ばれない確率が無視し得ないほど大きいことを単純な数値例で示した。また、AICの値に閾値を設けて、AICの値が他のモデルより小さくしかも差の絶対値が閾値を越えているときのみにモデルを選ぶとしても、真のモデルが選ばれない確率が高いという問題点は解決されないことを示した。
著者
エヴァン P. エコノモ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.735-742, 2016 (Released:2016-12-28)

海外滞在は科学者としての人生とキャリアを成長・発展させる重要な期間となり得る。ある意味において科学者は世界中を自由に移動し活動できる存在でなくてはならない。なぜなら科学は境界を超える万国共通の探求活動だからである。しかし、アカデミアは文化と伝統に左右される人間活動で、それが移動を難しくすることがある。本論で私は、西洋アカデミアへの就職に興味があり、その座を勝ち取りたい日本人科学者に幾つかアドバイスしたい。国際的なトップジャーナルに論文掲載される素晴らしい研究を行うことは、もちろん科学者のキャリア向上のための最重要要素である。だが、対策が必要な二番目に重要な要素もある。すなわち日本の研究者にはたぶんあまり知られていない、西洋アカデミアの“暗黙の規則”である。これが日本研究者の潜在能力への足かせになっているかもしれない。ここではポジションの見つけ方、見込みのあるスーパーバイザーへのコンタクトの取り方、そして西洋アカデミア流の良い推薦状の書き方について論じる。
著者
五箇 公一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.123-130, 2012-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

Currently, the conservation of biodiversity ranks alongside the regulation of global warming as the most important global environmental problems. Biological invasions are considered one of the most important causative agents of declines in biodiversity. Therefore, in Article 8 (h), the Convention on Biological Diversity (CBD) specified that each contracting party must undertake efforts to control alien species that threaten ecosystems, habitats, or species. Furthermore, the "Aichi Target," based on the 2010 targets identified during CBD's 10^<th> Conference of Parties (COP10, held at Nagoya, Japan), proposed as Target 9 that, "By 2020, invasive alien species and pathways are identified and prioritized, priority species are controlled or eradicated, and measures are in place to manage pathways to prevent their introduction and establishment." Because the need to control alien species has increased worldwide, each country needs to possess or prepare regulation systems against biological invasions. On the other hand, economic globalization has recently undergone rapid advances, which increases the chances of introductions and transportation of alien species. Japan has a large economy and is simultaneously a resource-poor country that is largely dependent on the importation of foods and natural resources from abroad. Therefore, our country can be considered to have a constant high risk of invasion by alien species. Of course, Japan has some quarantine systems and regulations to counter alien species. However, the risk of invasion by alien species continues to rise irrespective of efforts to prevent their arrival and establishment. The World Trade Organization (WTO) is confronting the control of alien species by applying immense diplomatic pressure.
著者
渡辺 黎也 日下石 碧 横井 智之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.49-60, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
55

コウチュウ目やカメムシ目などの水生昆虫は、水田やため池を主な生息場所としているが、圃場整備や近代農法への転換によって生息環境が改変され、全国的に減少傾向にある。そのため近年では慣行農法の水田に対し、殺虫剤や除草剤の使用を抑えた環境保全型農業の水田を推進する動きが高まっている。水生昆虫群集の動態に影響を与える要因としては、農法以外にも水田内外における生息環境に関わる複数の要因が挙げられるが、それら要因についての知見は少なく総合的な解決が求められている。本研究では、水田内の環境要因および景観要素が水生昆虫群集(コウチュウ目、カメムシ目)に与える影響について調査した。 調査は2017年4月から9月に、茨城県つくば市近郊の5地域から環境保全型水田と慣行水田を1組以上、計16枚を対象に行なった。タモ網を用いた掬い取りを行ない、水生昆虫と餌生物(両生類幼生、ユスリカ科、カ科等)の個体数を種もしくは分類群ごとに記録した。水田内の環境要因として、調査地ごとに水質(水温、水深、電気伝導度、pH)と水田内に生育する植物の植被率、薬剤使用の有無、湛水日数を調査した。また地理情報システム(GIS)を用いて、調査水田を中心としてバッファー(半径500、1,000、2,000、3,000、4,000、5,000 m)を発生させ、各バッファーに占める景観要素(水田、その他の水域、森林、人工物、その他)の面積の割合を算出した。 調査の結果、水生昆虫の群集組成は農法によって異なっており、水田内の要因のうち湛水日数と餌個体数、水温が群集組成に影響を与えていた。さらに各要因の効果として、分類群数に対しては餌個体数と水温が正の効果を与えていた。また、慣行農法は水生昆虫の分類群数と個体数の双方に負の効果を与えていた。分類群数および個体数の決定に有効な空間スケールはそれぞれ水田周囲の半径3,000 mと2,000 mであり、その他の水域や森林が分類群数や個体数に正の効果を与えていた。以上より、水生昆虫の分類群数や個体数の維持には環境保全型農業の推進に加え、水田内への安定した餌生物の供給や、半径2,000または3,000 m内にその他の水域や森林など様々な環境が存在することが重要であることが示された。
著者
渡辺 勝敏
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.683-693, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
12

要旨: 現在、近畿地方に最後に残された絶滅危惧種アユモドキ(淡水魚)の生息地において、京都府と亀岡市によりサッカースタジアムを含む大規模な都市公園建設が計画されており、生物多様性および湿地生態系保全の観点から大きな問題となっている。アユモドキは国の天然記念物に指定され、種の保存法の指定種であるが、この計画は専門家や環境・文化財行政との協議を経ることなく、府・市の行政により決定されたものである。建設の決定後(2012年末)、府・市は環境保全対策のための専門家会議を立ち上げ、自然環境の基礎調査から始めたが、開始から2年半を経た2015年11月現在、環境影響評価の実施には至っていない。そのような中、計画発足からわずか4年後(現在6年後以降に延長;2018年以降)の完成を目指して、都市計画決定、用地買収、道路整備、一帯の営農放棄などが進行し、周辺の環境変化が大きく進んでいる。アユモドキは雨季の氾濫原を繁殖・初期生育に利用する東アジアモンスーン気候に典型的に適応した魚種であり、同様な湿地性動植物とともに、従来の水田営農とどうにか共存してきた。府・市は「共生ゾーン」とよぶ縮小された代替地の整備により保全に務めるとしているが、その実現性は日本生態学会をはじめ、多くの学術団体、自然保護団体等から疑問をもたれている。さらに治水、水道水源の問題、交通問題等、地域住民への悪影響に対する懸念もあり、建設場所の変更を含む計画の再検討が求められている。しかし、府知事や市長をはじめとする行政によるこの貴重な湿地生態系保全に対する認識は十分でなく、強い開発圧の中、環境保全において重要であるべき予防原則はないがしろにされてきた。その結果、たとえ開発計画が見直されても、自然環境およびそれを取り巻く社会状況は、すでに水田営農と共生した湿地生態系の保全を困難とする状況に陥っている。早急に周辺地域環境の保全等を含めた、包括的で永続的な保全方策を模索・構築しなければならない。
著者
小沼 明弘 大久保 悟
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.217-226, 2015-11-30 (Released:2017-05-23)
参考文献数
28
被引用文献数
1

多くの植物は繁殖のための花粉の授受粉を動物による送粉に依存しており、農作物もまた例外では無い。近年、世界的なハナバチ類の減少による農業生産への悪影響が懸念される中で、送粉サービスが農業に対して提供する経済的価値への関心が高まっている。しかしながら、我が国においては、これまでセイヨウミツバチやマルハナバチのような飼養された送粉昆虫による送粉サービスの経済性評価のみで、野生送粉者による貢献は評価されていなかった。そこで我々は、飼養された送粉者と野生送粉者の両方を含む、我が国の農業分野に対する送粉サービス全体の推計を試みた。その結果、2013年時点の日本における送粉サービスの総額は約4700億円であり、これは日本の耕種農業産出額の8.3%に相当する。その内訳は、約1000億円がセイヨウミツバチ、53億円がマルハナバチそして3300億円の送粉サービスが野生送粉者によって提供されていた。送粉サービスへの依存度は作目毎に異なっているが、サービスへの依存度が高く産出額が大きいのはバラ科の果実、ウリ科およびナス科の果菜類であった。また、送粉サービスに対する依存度には地域的な偏りがあり、自治体毎に大きく異なっていた。最も依存度が高い県は耕種農業産出額の27%を送粉サービスに依存していた。我が国の農業全体を長期的に見た場合、送粉サービスへの依存度は増加する傾向にあり、その理由としてコメの生産額の減少と他作目への生産のシフトが考えられた。現在のような社会経済的な状況が継続した場合、我が国農業の送粉サービスへの依存度が今後も漸増することが示唆される。
著者
井上 奈津美 井上 遠 松本 斉 境 優 吉田 丈人 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2019, (Released:2021-05-24)
参考文献数
61

樹洞は、多くの生物がねぐらや営巣場所として利用する森林生態系における重要なマイクロハビタットである。気候帯や地域に応じて樹洞の現存量や、樹洞の形成に関わる要因は大きく異なっており、樹洞利用生物の保全のためにはそれらを明らかにすることが重要である。本研究では、奄美大島の世界的にも希少な湿潤な亜熱帯照葉樹林を対象に、伐採履歴が異なる 2つの森林タイプ(成熟林と二次林)において、樹木サイズや樹種構成、樹洞の現存量を明らかにするとともに、樹種ごとに形成される樹洞の特徴を把握した。奄美大島の亜熱帯照葉樹林は、他の地域の熱帯林または亜熱帯林と比較して樹洞の現存量は多く、キツツキの穿孔による樹洞と比べて腐朽による樹洞が高い割合を占めていた。胸高直径( DBH)30 cm以上の樹木において、成熟林では二次林と比較して、ヘクタールあたりの幹数、樹洞を有する幹数、樹洞数が有意に多かった。いずれの森林タイプにおいてもスダジイが最も優占しており(胸高直径 15 cm以上の幹に占める割合は成熟林で 48%、二次林で 66%)、成熟林では次いでイジュ( 10.8%)とイスノキ(10.3%)、二次林ではイジュ( 9.9%)とリュウキュウマツ( 7.6%)が優占していた。記録された樹洞について、一般化線形混合モデルを用いて幹ごとの樹洞数に影響する要因を検討したところ、胸高直径が大きくなるほどそれぞれの幹が有する樹洞数が多かったほか、樹種ではイスノキで最も樹洞数が多く、スダジイ、イジュがそれに続いた。確認された樹洞の 90%はスダジイとイスノキに形成されており、イスノキに形成された樹洞はスダジイに形成された樹洞よりも地面から入口下端までの高さが有意に高かった。 CCDカメラを用いて一部の樹洞の内部を観察したところ、ルリカケスもしくはケナガネズミの利用の痕跡および、リュウキュウコノハズクの繁殖が確認された。樹洞が形成されやすいイスノキの大径木を含めて成熟した亜熱帯照葉樹林を優先的に保全することが、樹洞を利用する鳥類や哺乳類の重要な繁殖・生息場所の維持、保全につながると考えられた。
著者
加藤 雅也 中濵 直之 上田 昇平 平井 規央 井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2032, (Released:2021-05-24)
参考文献数
39

生息域外保全とは、野外集団で個体数が急減・絶滅した際の備えとして個体を飼育・栽培する活動のことをいい、絶滅危惧種を中心に多数の生物で実施されている。ヤシャゲンゴロウは福井県南越前町夜叉ヶ池でのみ生息が知られており、その希少性から国内希少野生動植物種に選定され、 2015年当時石川県ふれあい昆虫館、越前松島水族館、福井県自然保護センターの 3施設で生息域外保全が実施されている。本研究では、ヤシャゲンゴロウの野生集団(1995年以前に採集された標本を含む)、生息域外保全系統、また比較対象として近縁種であるメススジゲンゴロウの野生集団について 14座を用いたマイクロサテライト解析を行い、ヤシャゲンゴロウの生息域外保全による遺伝的多様性の保持効果について明らかにした。ヤシャゲンゴロウ野生集団の遺伝的多様性は、メススジゲンゴロウと比較して低かったものの、 1995年以前と 2016年で対立遺伝子多様度やヘテロ接合度期待値の大きな減少は見られなかった。ヤシャゲンゴロウの生息域外保全を実施している 3施設ではいずれも野外集団よりも遺伝的多様性が低かった。しかし、これらを混合して解析した場合、対立遺伝子の減少は 1つのみに留まり、野生集団が持つ対立遺伝子をほぼ保持していた。本研究から、遺伝的多様性を保持するためには、系統の絶滅に対するリスク分散のための複数施設で独立した生息域外保全の実施、また施設間の定期的な生息域外保全個体の交換・混合が重要であることが示された。
著者
船越 公威
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.125-140, 1977
被引用文献数
1

Female P.jenynsii deposits prepupa on the host-roosting quarter except host-hibernating quarter. Intervals between depositions were about 5 days. Pupal period was about 20 days. Both the interval and period of prepupal deposition became shortened with the rise of experimental temperature. After the bat died away, the majority of flies also died within 24 hours. This indicates that blood-sucking is necessary at least once a day. Wintering flies sucked blood intermittently and lived for at least 4 months, but did not propagate. Average infestation number per host was 0.1-0.3 in winter and 0.2-0.7 in the other seasons. The low density per host throughout the year may primarily be due to host-predation and secondly due to density effect of fly. Periodic fluctuation of the average infestation number from April to September is largely caused by synchronization with the breeding cycles starting soon after awakening. The more bats grew, the more they were infested, its tendency being marked in adult females. Infestation degree corresponded presumably with the degree of hosts' activity at their roost. It was considered that specific and adaptive host-parasite relationship was ecologically influenced by duration of bats' roost utilization, activity at roost, size of cluster and flying pattern, together with the life history of flies.
著者
青山 夕貴子 吉村 正志 小笠原 昌子 諏訪部 真友子 エコノモ P. エヴァン
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.3-14, 2020 (Released:2020-05-21)
参考文献数
36

ハワイにヒアリSolenopsis invictaが侵入・定着した場合の経済的損失額を推定した既存文献をもとに、沖縄県にヒアリが侵入・蔓延した場合の経済的損失額を推定した。試算は、行政による根絶や分布拡大防止のための積極的な対策が行われず、ヒアリは沖縄県の生息可能な地域全域に拡大したと仮定して行った。その結果、市民生活や農業、インフラ整備、ゴルフ・リゾート等の娯楽に係る損害と、行政による最小限の対策費用を足し合わせた直接的な経済的損失は、約192億4,800万円と算出された。またヒアリによって阻害される、地域住民および旅行者による野外活動の経済的価値は、約246億1,000万円と算出された。合計で、年間の損失額は約438億5,800万円と推定された。本試算結果は、ヒアリ対策の必要性や予算を検討するにあたって、その経済的インパクトを評価する重要性を示すものである。ただし、日米間の社会構造の違いなどのため評価しきれなかった部分も多く、日本におけるより正確な被害額の推定のためにはさらなる精査が必要である。
著者
松田 裕之 矢原 徹一 竹門 康弘 波田 善夫 長谷川 眞理子 日鷹 一雅 ホーテス シュテファン 角野 康郎 鎌田 麿人 神田 房行 加藤 真 國井 秀伸 向井 宏 村上 興正 中越 信和 中村 太士 中根 周歩 西廣 美穂 西廣 淳 佐藤 利幸 嶋田 正和 塩坂 比奈子 高村 典子 田村 典子 立川 賢一 椿 宜高 津田 智 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-75, 2005-06-30 (Released:2018-02-09)
被引用文献数
22

【自然再生事業の対象】自然再生事業にあたっては, 可能な限り, 生態系を構成する以下のすべての要素を対象にすべきである. 1生物種と生育, 生息場所 2群集構造と種間関係 3生態系の機能 4生態系の繋がり 5人と自然との持続的なかかわり 【基本認識の明確化】自然再生事業を計画するにあたっては, 具体的な事業に着手する前に, 以下の項目についてよく検討し, 基本認識を共有すべきである. 6生物相と生態系の現状を科学的に把握し, 事業の必要性を検討する 7放置したときの将来を予測し, 事業の根拠を吟味する 8時間的, 空間的な広がりや風土を考慮して, 保全, 再生すべき生態系の姿を明らかにする 9自然の遷移をどの程度止めるべきかを検討する 【自然再生事業を進めるうえでの原則】自然再生事業を進めるうえでは, 以下の諸原則を遵守すべきである. 10地域の生物を保全する(地域性保全の原則) 11種の多様性を保全する(種多様性保全の原則) 12種の遺伝的変異性の保全に十分に配慮する(変異性保全の原則) 13自然の回復力を活かし, 人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則) 14事業に関わる多分野の研究者が協働する(諸分野協働の原則) 15伝統的な技術や文化を尊重する(伝統尊重の原則) 16目標の実現可能性を重視する(実現可能性の原則) 【順応的管理の指針】自然再生事業においては, 不確実性に対処するため, 以下の順応的管理などの手法を活用すべきである. 17事業の透明性を確保し, 第3者による評価を行う 18不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる 19将来成否が評価できる具体的な目標を定める 20将来予測の不確実性の程度を示す 21管理計画に用いた仮説をモニタリングで検証し, 状態変化に応じて方策を変える 22用いた仮説の誤りが判明した場合, 中止を含めて速やかに是正する 【合意形成と連携の指針】自然再生事業は, 以下のような手続きと体制によって進めるべきである. 23科学者が適切な役割を果たす 24自然再生事業を担う次世代を育てる 25地域の多様な主体の間で相互に信頼関係を築き, 合意をはかる 26より広範な環境を守る取り組みとの連携をはかる
著者
亘 悠哉 永井 弓子 山田 文雄 迫田 拓 倉石 武 阿部 愼太郎 里村 兆美
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.28-35, 2007-05-31 (Released:2018-02-09)
参考文献数
17
被引用文献数
1

2000年5月から2006年11月までの間に、奄美大島の森林で採集した135個のイヌの糞の内容物分析を行った。出現頻度では、アマミノクロウサギが45.2%、アマミトゲネズミが23.7%、ケナガネズミが20.0%と高い値を示し、これらの種がイヌの影響を最も受けやすい種であると考えられた。これらの種は特別天然記念物および天然記念物に指定されており、イヌ対策の重要性はきわめて高いといえる。奄美大島では現在までに森林でのイヌの繁殖は確認されていない。この理由として、奄美大島では、大型の餌動物が少なく、繁殖に十分な餌資源を得られないことが考えられた。一方で毎年多数のイヌが人間の管理下を離れている。このような状況は、ペット管理のモラルが森林のイヌの個体数、ひいては在来種への影響を大きく左右することを示唆している。これを受けて、本論文ではイヌ対策における方策を以下に提言する。1)長期的な方策:森林へのイヌの供給を絶つための方策。ペットや猟犬の管理に関わる現行法や罰則の周知、適切な法の運用、飼い主のモラル向上のための普及啓発の推進などが強く望まれる。これらは森林のイヌを減少させる根本的な解決策であり、最も優先順位の高い方策である。2)短期的な方策:すでに森林に生息するイヌに対する方策。イヌや糞などの目撃情報の提供先の明確化、情報提供後のすみやかな捕獲が可能なシステム作りが重要である。