著者
仁保 正和
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.84, no.7, pp.703-708, 1981
被引用文献数
3

Maxillary sinus irrigation with a Schmidt's maxillary antrum trocar was applied to 47 patients with chronic sinusitis, including 2 with dental sinusitis, between the ages of 13 and 74 years; forty-six received the treatment 10 to 342 times, averaging 55 times in past 4 years; one received it 166 times in past 9 years.<br>Two patients with dental lesions were cured, and the others were not cured but their symptoms and findings were greatly improved.<br>It was observed that nasal obstruction due to sinusitis was chiefly related to the degree of stricture of the orifice of the maxillary antrum rather than to the changes of the nasal cavity. Frequent sinus irrigation may cure this stricture. The changes in the nasal cavity were improved, and rhinorrhea was decreased by this procedure. This treatment was superior to the other conservative treatments for chronic sinusitis.
著者
仁保 正和 木村 繁
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.668-677, 1971

いわゆる慢性中耳炎の病態は,中耳腔の炎症が含気蜂巣腔を経,或いは骨質のHavers管,骨髄腔を経てリンパ行性に全側頭骨に及ぶものであつて,病変は含気蜂巣被覆組織のみならず骨組織にも認められる.即ち側頭骨炎である.従つて慢性側頭骨炎を手術する場合にはその完全治癒を望むならば全側頭骨の全病巣を徹底的に除かねばならない.<br>最近我々は興味ある慢性側頭骨炎の1例に,仁保正次によつて創られた側頭骨炎根治手術を施行し治癒せしめることができたので,ここに報告する.<br>症例,24才,女子.生来健康であつた.昭和44年6月3日右耳の激痛が起つたが,当日バレーの試合に出場した.翌日某耳鼻科で鼓膜切開,抗生物質投与を受けたが,激痛は全く去らず,9月末迄とにかく頭が痛く寝たきりであつた.この間発病1ヶ月後にほとんど聾と言われ,4ヶ月後に顎関節拘縮が明らかとなつている.昭和44年12月13日,右難聴,耳鳴,右顎関節運動障害及び鈍痛等を主訴として来院した.初診時右外耳道前壁にゆるやかな骨性膨隆があり,鼓膜後半部の所見は軽度発赤肥厚,弛緩部膨隆,槌骨柄直立であり,レ線学的に慢性側頭骨炎及び右顎関節拘縮が証明された,右殆んど聾,完全半規管機能麻痺も証明された.第8脳神経以外の脳神経に異常は認められなかつた.<br>慢性側頭骨炎の診断の下に側頭骨炎根治手術を施行した.乳突部,鱗部及び錐体部蜂巣の発育は極めて良く,乳突部各蜂巣には何れも黄色粘稠膿汁,暗黒色の肉芽が充満し,含気蜂巣被覆組織は強い浮腫性肥厚を示し,骨は脆弱であつた.迷路周囲の錐体蜂巣開口部の発育も良く同様膿汁の貯溜が認められた.しかし鼓室,耳管,錐体尖蜂巣には淡紅色の肉芽が充満していたが,膿汁は全く認められなかつた.耳小骨は何れも肉芽の中で離断され,肉芽と共に簡単に除かれた.<br>病理組織学的に骨病変の最も強い部は外耳道後壁で破骨細胞が至る所に認められ,軟部組織の病変の最も強い部は頬骨蜂巣及び上鼓室であり,乳突部の他部位は何れも中等度の病変であつた.外耳道前壁上皮下組織に膿瘍形成が認められ,鼓室及び錐体部の肉芽も高度の慢性炎症或いは急性増悪像の混つた所見であつた.<br>以上の手術及び病理組織学的所見より,迷路炎及び頬骨蜂巣,上鼓室,外耳道前壁骨,下鼓室,耳管,中頭蓋窩底等の病変が顎関節周囲組織に波及し,顎関節拘縮に至つたことは明白となつた.術後,耳鳴,頭重感,頸肩部の強い凝り,開口障害は軽快し,6ヶ月後には顎関節運動は正常に復した.本症例の顎関節周囲炎の発生機序は骨質のHavers管,骨髄腔を経る感染経路を知らねば理解できず,更に側頭骨炎の概念により側頭骨の全病巣を除去しなかつたならば,本症例を治癒せしめることはできなかつたであろう.