著者
中屋 宗雄 森田 一郎 奥野 秀次 武田 広誠 堀内 正敏
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.22-28, 2002-01-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

目的: ライフル射撃音による急性音響性難聴の聴力像と治療効果に対する臨床的検討を行った.対象と方法: ライフル射撃音による急性音響性難聴と診断され入院加療を行った53例, 74耳とした. 治療方法別 (ステロイド大量漸減療法群23耳とステロイド大量漸減療法+PGE1群51耳) と受傷から治療開始までの期間別 (受傷から治療開始まで7日以内の群42耳と8日以降の群32耳) に対する治療効果と聴力改善 (dB) についてretrospectiveに検討した. また, 各周波数別に治療前後の聴力改善 (dB) を比較検討した.結果: 全症例の治癒率19%, 回復率66%であった. ステロイド大量漸減療法群では治癒率17%, 回復率78%, ステロイド大量漸減療法+PGE1群では治癒率24%, 回復率63%であり, 両者の群で治療効果に有意差を認めなかった. 受傷から7日以内に治療を開始した群では治癒率21%, 回復率78%, 受傷から8日目以降に治療を開始した群では治癒率16%, 回復率50%であり, 受傷から7日以内に治療を開始した群の方が有意に治療効果は高かった. 入院時の聴力像はさまざまな型を示したが, 2kHz以上の周波数において聴力障害を認める高音障害群が50耳と多く, 中でも高音急墜型が20耳と最も多かった. また, 治療前後における各周波数別の聴力改善 (dB) において, 500Hz, 1kHzの聴力改善 (dB) は8kHzの聴力改善 (dB) よりも有意に大きかった.結論: 今回の検討で, 受傷後早期に治療を行った症例の治療効果が高かったことが示された. また, 高音部より中音部での聴力障害は回復しやすいと考えられた.
著者
向井 將
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.260-270, 1989-01-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
31
被引用文献数
8 14

Historically, the concern of wind instrumentalists has been diaphragm control and embouchure.Laryngeal movement during " blow " has been overlooked or neglected by wind musicians. It has been said that musical tone has to be produced by the resonances of the player's air column by opening his larynx during blow.In the present study, fiberscopic observations of the larynx during blow revealed that musical tones were played with adducted vocal cords. Narrowed glottis appeared to control the airflow of the blow. Persons who could not make musical tone blew with open glottis. Vibrato was also made by rhythmic open and narrowing movements of the glottis. The authors concluded that the larynx regulates the airflow of the " blow ". The authors postulated that the embouchure might be important as the receptor of the airflow rather than controlling the movement for "blow".
著者
伊藤 勇 池田 稔 末野 康平 杉浦 むつみ 鈴木 伸 木田 亮紀
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.165-174, 2001-02-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 9

日本人の耳介に関する計測学的研究の多くは1950年代までに報告されており, それ以降, 本邦における耳介の加齢変化についての詳細な計測学的な検討はほとんど行われていない. 今回, 当時よりも体格が向上し, また, 高齢化の進んだとされる現代日本人の耳介形態について, 乳児から高齢者までの幅広い齢層における詳細な計測学的検討を行ったので報告する. 対象は, 0歳から99歳までの日本人1958名 (女性992名, 男性966名) で, 耳長, 耳幅, 耳介付着部長, 耳介軟骨長, 耳垂長, 耳指数, 耳垂指数, 耳長対身長指数, および耳介の型について検討した. 各計測値はほぼすべての年齢群において男性の方が女性よりも大きく, 10歳代までの年齢群に見られる成長によると思われる急激な計測値の増加傾向に加え, それ以降も高齢者群になるに従い加齢変化によると思われる有意な増加傾向を認めた. 各指数, 耳介の型についても同様に成長によると思われる変化と加齢によると思われる変化を認めた. また, 以前の日本人の耳介を計測した報告に比べて耳介計測値の多くが大きくなっていた.今回の計測学的研究は現代日本人の耳介の大きさについて成長や加齢による変化を検討したものであり, 今後, 日本人の耳介形態についての一つの指標になるものと考える.
著者
小川 佳伸
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.90-101,193, 1995-01-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
27
被引用文献数
1

喉頭室原発の癌の発生母地を解明するために肉眼的に喉頭室に病変を認めない22個のヒト摘出喉頭を用いて臨床病理学的な検討を行い以下の結果を得た. 1) 喉頭室のコンピュータグラフィッタス化を行いその複雑な形状を示した. 2) 著者分類の「浅陥凹型」部分は, 喉頭室の中でも特に扁平上皮化生が強く進み, 発癌の準備段階として重要であると思われた. 3) 「浅陥凹型」部分は喉頭室の前後に分布していた. これは喉頭室原発の癌の臨床的な好発部位とよく一致しており, 喉頭室原発の癌の発生母地として重要であると思われた. 4) 喉頭室粘膜上皮も症例によっては, かなりの範囲で扁平上皮化生が起こり, 喫煙や飲酒の影響で高度に進行することも示された.
著者
斉田 晴仁 岡本 途也 今泉 敏 廣瀬 肇
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.93, no.4, pp.596-605, 1990-04-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
12
被引用文献数
2 4

Past studies on the relationship between mutational voice change and body growth were generally made on grouped subjects and no exact longitudinal observation was performed. In the present report, a longitudinal study was made on 100 young male students in their puberty, in which voice recordings and measurements of physical parameters including body height and weight were performed twice for each subject with yearly interval. Information on subjective evaluation of voice abnormality was also obtained from each subject. The recorded voice samples were subjected to subsequent analysis for obtaining fundamental frequency (F0) and formant values. The following results were obtained.1. A negative correlation in the rate of change was observed between F0 and physical parameters such as body height and weight, and sitting height.2. It was suggested that the mutational period consisted of the rapid and slow phases. The rate of growth in body height and sitting height was more significant in the rapid phase. 3. Subjective voice abnormality and physical growths such as the development of the laryngeal prominence were often noted even before the rapid phase. After the rapid phase was over, all the cases showed secondary sexual characteristics including the laryngeal prominence.4. Before and during the rapid phase, there was a tendency for the values of F1 and F2 to increase, while that of F3 to decrease. After the rapid phases was over, there was a trend that F1 and F2 increased, while F3 remained unchanged.
著者
奥田 稔 宇佐神 篤 伊藤 博隆 荻野 敏
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.12, pp.1181-1188, 2002-12-20
被引用文献数
4 7

アレルギー性鼻炎患者(AR)における昆虫アレルゲンの症状への関与を調べるため,560例のARを対象にしてガ,ユスリカ,ゴキブリを含む13アレルゲンに対するIgE抗体を測定した.また,65例の患者でこれら3種の昆虫の鼻誘発試験を実施した.<br>ガ,ユスリカおよびゴキブリに対するIgE抗体保有率はそれぞれ32.5%,16.1%,13.4%であった.これらIgE抗体保有率には,地域,年齢,治療および合併症による差は認められなかった.<br>鼻誘発試験で陽性と判定される割合は,RASTクラスが高いほど多くなる傾向があった.とくにゴキブリ,ガにおいて,RASTクラス3以上では,各々55.6%および61.5%が鼻誘発試験に陽性を示した.<br>昆虫間のIgE抗体価の相関を検討したところ,ガ,ユスリカ間には強い相関が認められ共通抗原性を示唆したが,ゴキブリ,ガ間およびゴキブリ,ユスリカ間では強い相関は認められなかった.また,いずれの昆虫もヤケヒョウヒダニおよび室内塵に対するIgE抗体価との相関は認めなかった.<br>以上の結果,日本においてガ,ユスリカ,ゴキブリは,アレルギー性鼻炎を起こす原因となっていることが示された.
著者
五島 史行 浅間 洋二 中井 貴美子
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.108, no.12, pp.1171-1174, 2005-12-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
9
被引用文献数
3 2

線維筋痛症とは, 全身に強い痛みを起こす原因不明の疾患である. めまい, 耳鳴などの蝸牛前庭症状を主訴として耳鼻咽喉科を初診することがある. 症例は38歳女性, 主訴はめまい, 全身の痛み. 聴覚, 平衡機能検査では明らかな異常を認めなかった. 外来加療中に痛みが増悪し, カウンセリング, 自律訓練法を導入した. 入院し, A型ボツリヌス毒素注射, プレドニゾロン点滴などの治療を行い軽快退院となった. 入院中も嘔吐を伴う回転性めまい発作が定期的に認められたが, 明らかな眼振は観察されなかった. 神経の統合異常, 体性感覚の異常などがめまいの原因と考えられた. 薬物治療や心理的治療により疼痛を緩和することが結果的にめまいを抑制したと考えられた.
著者
岸部 幹 斎藤 滋 原渕 保明
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.8-14, 2005-01-20
被引用文献数
4 11

鼻骨骨折は, 顔面骨骨折のうち最も頻度の高いものであり, 一般および救急外来でよく遭遇する疾患のひとつである. 鼻骨骨折は, 骨折による偏位がある場合や, 鼻閉や嗅裂の狭窄により嗅覚障害が惹起される可能性がある場合に整復する必要がある. しかし, 整復の成否については, 客観的に判断していない症例が多いと思われる. この理由として, 救急外来受診者が多いこと, 骨折の診断で単純X線検査やCTを使用した場合の被曝への配慮などが考えられる. しかし, 小さな偏位を見逃す例, 後に鼻閉や嗅覚障害を来す例もあり, 整復の成否について確かめる必要がある. 当科では徒手的整復を行う際に, 整復の成否を被曝のない超音波検査装置 (エコー) にて判定し有用な結果を得ている. その方法として, 特別な用具等はいらず, 鼻背にエコーゼリーを塗りプローブを置くだけで鼻骨を描出できている. これにより, real timeに鼻骨を描出しながらの整復が可能であった. また, 腫脹が強い場合は, 外見上, 整復がなされたか判定できないとして, 腫脹が消退するのを待ってから整復を施行する症例もあるが, エコーを用いれば腫脹が強い時でも整復が可能である. また, CTとほぼ同様にエコーでも鼻骨の輪郭が描出されることを考えると, その診断にも用いることが可能と考える. 以上から, エコーは診断から治療判定, 再偏位の検出といった鼻骨骨折診療の一連の流れに有用であり, 特に整復時の指標については, 現在のところ客観的にreal timeに判定できる機器はエコーのみであり, これを整復時に用いることは特に有用と考えられた.
著者
Minoru Okuda Atsushi Usami Hirotaka Itoh Satoshi Ogino
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
Nippon Jibiinkoka Gakkai Kaiho (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.12, pp.1181-1188, 2002-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
29
被引用文献数
4 7

アレルギー性鼻炎患者(AR)における昆虫アレルゲンの症状への関与を調べるため,560例のARを対象にしてガ,ユスリカ,ゴキブリを含む13アレルゲンに対するIgE抗体を測定した.また,65例の患者でこれら3種の昆虫の鼻誘発試験を実施した.ガ,ユスリカおよびゴキブリに対するIgE抗体保有率はそれぞれ32.5%,16.1%,13.4%であった.これらIgE抗体保有率には,地域,年齢,治療および合併症による差は認められなかった.鼻誘発試験で陽性と判定される割合は,RASTクラスが高いほど多くなる傾向があった.とくにゴキブリ,ガにおいて,RASTクラス3以上では,各々55.6%および61.5%が鼻誘発試験に陽性を示した.昆虫間のIgE抗体価の相関を検討したところ,ガ,ユスリカ間には強い相関が認められ共通抗原性を示唆したが,ゴキブリ,ガ間およびゴキブリ,ユスリカ間では強い相関は認められなかった.また,いずれの昆虫もヤケヒョウヒダニおよび室内塵に対するIgE抗体価との相関は認めなかった.以上の結果,日本においてガ,ユスリカ,ゴキブリは,アレルギー性鼻炎を起こす原因となっていることが示された.
著者
岩淵 康雄 花牟礼 豊 廣田 常治 大山 勝
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.12, pp.2195-2201, 1994-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

The detection of lesions of the paranasal sinuses as incidental findings during magnetic resonance imaging of patients suspected of intracranial disease who have no nasal symptoms has been far more common than we expected. The present study was performed on 325 patients a mean age of 60.7 years. Medical histories were taken whether they had any nasal symptoms or not. Asymptomatic sinus disease was present in 41.6% of the 257 patients who had no nasal symptoms, and 9.7% of the patients had either marked mucosal thickening, excessive fluid or polyps in the maxillary sinuses. Although the mean age of these patients was comparatively high, we can infer that 1 in 10 have relatively severe sinus lesions. Mucociliary transport time was measured using the saccharin method in 15 patients who had sinus disease but no nasal symptoms. The mean transport time was 15.6 minutes and within normal limits. Routine ENT examination revealed no lesions in the nasal cavity of any of the subjects.We classified the patients with asymptomatic sinus disease into two groups; group A: patients with sinus disease associated with some nasal manifestations but who do not complain about them, group B: patients who have sinus disease but do not have any nasal problems. Group B represents genuine asymptomatic sinus disease in the narrow sense. Most asymptomatic patients in this study appeared to belong to group B. They had some sinus disease, but because their mucociliary function in their nasal cavity was normal, they did not have any nasal symptoms. When we find patients with asymptomatic sinus disease, we have to determine which group they belong to by examining their nasal cavity and measuring their saccharin time. Patients in group A should be medically treated, but those in group B should be followed without medical treatment.
著者
森園 徹志
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.94, no.7, pp.938-948, 1991-07-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
52
被引用文献数
3 1

To investigate the influence of the cervical input to the equilibrium, the effect of neck vibratory stimulation on body sway was analyzed in 49 normal human subjects.Body perturbations during standing posture were recorded by a force platform with or without vibratory stimulus on the upper cervical region, and analyzed by computer.During the neck vibratory stimulation, the center of gravity was shifted to the forward, and the amplitude of the body sway was increased especially along the front-rear axis.These results indicate that the proprioceptive inputs from the cervical receptors largely modifies the body equilibrium in normal subjects.
著者
佐川 雄一 大谷 巌 鈴木 聡明
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.739-749, 2003-07-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

ヒト側頭骨病理標本を用い,耳小骨靱帯周囲の硬化性病変について観察を行い.次の結果を得た.1. 非炎症群では前ツチ骨靱帯,後キヌタ骨靱帯で,30歳未満の群と30歳以上の群の間で硬化性所見に有意差を認めた.このことは,硬化性所見は加齢とともに増加することを意味している.2. 慢性炎症群では前ツチ骨靱帯,後キヌタ骨靱帯について,非炎症群に比較し,各年代とも硬化性変化の程度が強く,また.年代間に有意差を認めなかった.炎症の影響が加齢の影響よりも強く,炎症が起きると加齢と関係なく硬化性変化が進むと考えられた.硬化性変化を進行させないためには,中耳炎,特に小児の中耳炎の治療の際に.炎症を速やかに改善させ,慢性期に至らせないよう注意が必要である.3. 輪状靱帯については,非炎症群,慢性炎症群のいずれについても,各年齢間で有意差を認めなかったが,前ツチ骨靱帯,後キヌタ骨靱帯よりも硬化性所見は少なかった.また,非炎症群と慢性炎症群の比較でも,60歳代の群を除き,有意差を認めなかった.このことから,輪状靱帯は,加齢や炎症の影響を受けにくく,硬化性変化が進行しにくいことが示唆された.4. 輪状靱帯よりも前ツチ骨靱帯や後キヌタ骨靱帯で硬化性変化が起きる頻度が高いことは,ツチ骨とキヌタ骨を残した手術では伝音系全体の可働性が制限され,十分聴力が改善しない可能性があることを意味し,炎症耳の手術の際は,年齢に関係なく前ツチ骨靱帯,後キヌタ骨靱帯の可動性を確認し,可動性が損なわれている場合には,これらの靱帯を切離するような術式が有効であると考えられた.
著者
佐藤 美奈子 松永 達雄 神崎 仁 小川 郁 井上 泰宏 保谷 則之
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.192-197, 2001-03-20
被引用文献数
8 8

突発性難聴の重症度分類は, 初診時の5周波数平均聴力レベルを4段階に分類し (Grade 1: 40dB未満, Grade 2: 40dB以上60dB未満, Grade 3: 60dB以上90dB未満, Grade 4: 90dB以上), めまいのあるものをa, ないものをbとして, 初診時に突発性難聴のグレーディングを行う方法である. しかし臨床データによる研究は少なく, その有用性・問題点については未知の部分が多い.<BR>本研究では, 発症後1週間以内に治療を開始した初診時聴力レベル40dB以上の突発性難聴263例を, 前述の重症度分類に基づき6群に分類, 聴力回復との関係を検討した. 固定時聴力の比較では, 予後良好な順にGrade 2b>2a>3b>3a>4b>4aであった. 初診時聴力レベルに影響を受けない予後の定量的評価の方法として, 聴力改善率と各群の治癒症例の割合を用いて検討すると, 予後は良好な順に, Grade 2b, 3b>2a>3a>4b>4aの5段階に位置づけられ, Grade 4aの予後が顕著に不良であった. Grade 2, 3では, 初診時聴力レベルよりめまいの有無の方が予後に対する影響が大きいと考えられた. Grade 4を聴力レベル100dBで分けた場合の聴力予後は, 4aでは100dBを境に大きな差が見られ, 100dB未満の4aは3aと同程度であった. しかし4bでは, 100dB以上の予後がやや悪いものの, その差は小さかった. 今回の検討により, 発症後1週間以内に治療を開始した突発性難聴では, 初診時聴力にかかわらず, ほぼ同程度の聴力改善が望めるレベルが存在し, このレベルはめまいのない場合40-89dB, めまいのある場合60-99dBであると考えられた. 各々の予後は, めまいのない場合, 治癒する可能性約60%, 聴力改善率平均80%以上, めまいのある場合, 治癒する可能性約40%, 聴力改善率平均60%程度と推察された. また, 初診時Gradeと重症度分類に準じた固定時Gradeを比較すると, 初診時Grade 2, 3では, 固定時Grade 1, Grade 4では, 固定時Grade 3の症例が多かった.
著者
久我 むつみ 池田 稔 久木元 延生 安孫子 譲
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.11, pp.1321-1327, 1998-11-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
12
被引用文献数
4 5

本研究は顔面神経麻痺の発症と肉体的および精神的ストレスの間に,何らかの関連性が存在するか否かを検討することを目的に行われた.対象は発症7日以内に日本大学医学部附属板橋病院耳鼻咽喉科外来を受診した顔面神経麻痺患者55例(男性23例,女性32例):Bell麻痺32例,Ramsay Hunt症候群23例である.初診時に麻痺発症前の1週間に肉体的あるいは精神的ストレスが存在していたかを問診した.また精神的ストレスに関して,新名の心理的ストレス反応尺度(Psychologi-cal Stress Response Scale 50 Items Revised:以下PSRS-50R)に従った問診も行った.肉体的あるいは精神的ストレスの有無についての問診では52例の症例で回答が得られた.麻痺発症前の1週間に肉体的疲労を感じていた症例は76.9%(40/52例)と高く,肉体的ストレスと顔面神経麻痺の発症の間には何らかの関連性が存在する可能性が推察された.一方精神的ストレスを有していたと回答した症例は51.9%(27/52例)であった.またPSRS-50Rによる精神的ストレスに関する問診の結果では,顔面神経麻痺患者の発症前の心理的ストレスレベルが非常に高いという結果は得られなかった.初診時の麻痺の程度と麻痺の経過および予後に影響を与える因子について,肉体的•精神的ストレスに関する問診結果を含めて重回帰分析を行った.その結果,発症前に肉体的疲労を有していたと回答した症例の方がNETが異常値を示しやすく,神経障害程度が高度であるという結果が得られた.
著者
堀口 申作
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.1-82, 1966 (Released:2008-03-19)
参考文献数
157
被引用文献数
4

The eipharyngeal cavity, which is situatedbehind the nasal cavity, is often affected by infla-mmation which is not always noticed even by thepatient himself. This inflammation is also diffi-cult to discover by routine observation methodssuch as posterior rhtnoscopy or epipharyngealendoscopy. The only method of ascertainingthis inflammation is the direct method ; touchingthe epipharynx wall, especially the backside ofthe soft palate, directly with a cotton applicator.If there exists inflammation in the epipharynx, the patient feels severe pain and sometimes evenbleeding is seen as a result of slight rubbing ofthe wall. The smear which is made from thisinserted cotton applicator shows the approximatedegree of inflammation.The exact diagnosis of epipharyngitis can bemade only by this direct procedure. Also by thisprocedure, many cases of epipharyngitis whichusually show no local symptoms are found.
著者
正木 義男 古川 朋靖 渡辺 道隆 市川 銀一郎
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.102, no.7, pp.891-897, 1999-07-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

はじめに: 鼻副鼻腔手術後のガーゼ抜去時に患者が失神様の発作を起こすことがある. この状態は神経原性失神の1つである三叉・迷走神経反射が原因と言われている. 三叉神経が刺激されることにより, 迷走神経が反応して心拍数, 血圧が急激に低下する現象であるが, 我々は疼痛や緊張で上昇するアドレナリン (Adrenaline, 以下Adr. と略す) に着目し, ネコ10匹を使用して迷走神経反射におけるAdr. の効果を調べた.目的: 迷走神経刺激時にAdr. が脳血流に及ぼす影響を調べる.対象と方法: 実験には成猫10匹を用いた. 頸部で迷走神経を露出し, 末梢側に白金電極を装着した. さらに頭部を30度挙上した. コントロール群 (迷走神経を1分間電気刺激). Adr. +神経刺激群 (Adr. を30秒間静注した後, 迷走神経を1分間電気刺激) の2群に分け, 刺激前後の前庭神経核, 下オリーブ核, 小脳室頂核の脳血流量, 及び心拍数, 動脈圧を比較した. 脳血流の測定には水素クリアランス法を使用した.結果: コントロール群, Adr. +神経刺激群ともに刺激前と比較し, 刺激後は有意に脳血流量が低下した. さらに, 両群の脳血流量の変化を比較したところ, いずれの部位においてもAdr. +神経刺激群の方が, コントロール群と比較し有意に脳血流量が低下していた. 心拍数, 動脈圧についてはコントロール群は刺激後有意に低下したが, Adr. +神経刺激群では, より大きな脳血流量低下があったにもかかわらず有意な変化はなかった.考察: Adr. +神経刺激群ではAdr. のβ2作用で末梢欠陥抵抗が低下し, 迷走神経を電気刺激した際に, より大きな脳血流量低下が起きたのではないかと考えられた. この結果より疼痛や緊張で上昇したAdr.が, 三叉・迷走神経反射による脳血流量低下を増強しているのではないかと考えられた.
著者
將積 日出夫 渡辺 行雄 丸山 元祥 本島 ひとみ 十二町 真樹子 安村 佐都紀
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.9, pp.880-883, 2003-09-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

(目的)Meniett20Rはメニエール病の携帯型中耳加圧治療器具である,本論文では,本邦で初めてMeniett20Rを薬物療法に抵抗する難治性めまいを反復し,人退院を繰り返す高齢メニエール病患者に対して用い,めまいに対する治療効果を報告した.(方法)対象は,高齢重症メニエール病患者2例であった.Meniett20Rによる治療開始から1年間の経過を評価した.(結果)治療開始からめまい発作消失までは約3カ月であり,めまい係数からいずれも改善と評価された.(結論)Meniett20Rは,鼓室換気チユーブ留置術を必要とするが,めまい制御に対する有効性が期待でき,簡便で安全性が高い.したがって,薬物療法に抵抗する重症メニエール病に対する治療方法の選択肢の一つとなる可能性がある.
著者
服部 謙志
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.1412-1422, 1998-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
30
被引用文献数
8 6

IgA腎症に対する口蓋扁桃摘出術(以下扁摘)の長期的な臨床効果と長期予後を左右する因子について検討した.対象は腎生検後5年以上経過を観察できたIgA腎症扁摘例71例とした.予後予測因子については,性別,発症年齢,腎病理所見,腎生検時臨床検査所見(血清クレアチニン値,クレアチニンクリアランス,1日尿蛋白量,血清IgA値,高血圧の有無),扁桃炎の既往,扁桃誘発試験,経過(発症から扁摘までの期間,発症から現在までの期間)について検討した.各々の因子について,寛解率(寛解群/全症例×100),腎機能保持率{(寛解群+腎機能保持群)/全症例×100}を求め,Fisherの直接確率計算法を用いて統計学的に検討した.全症例の予後は,寛解率28.2%,腎機能保持率90.1%であり,長期的な臨床効果が期待できると考えた.予後予測因子については,発症年齢が20歳以上,腎病理組織障害度が高度,血清クレアチニン値が1.3mg/dl以上,1日尿蛋白量が1.0g/日以上,血清IgA値が350mg/dl以上で,有意に予後不良であった.性別,クレアチニンクリアランス(80ml/min以上と未満),高血圧の有無,扁桃炎の既往の有無,扁桃誘発試験陽性項目の有無,経過の長短については有意差は認めなかった.IgA腎症に対する扁摘の適応については,腎病理組織障害度が軽度な症例は,扁摘により腎機能低下への進行を抑制する効果が期待できると考えた.腎病理組織障害度が高度な症例は,腎生検時すでに腎機能が低下していれば積極的な扁摘の適応はないが,腎機能が比較的保持されていれば扁摘を含めた治療の効果が期待できると考えた.