著者
仁藤 二郎 奥田 健次 川上 英輔 岡本 直人 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.187-205, 2021-03-25 (Released:2022-03-25)
参考文献数
123

応用行動分析学はその黎明期において、精神科臨床の領域においても盛んに研究が行われていた。ところが、その流れは1980年代には行動療法の一部としてみなされるようになり、現在では広義には第3世代とされている認知行動療法(CBT)の中で、行動分析学の原理を取り入れた臨床行動分析として発展を続けている。しかし、CBTあるいは臨床行動分析の効果検証は、実証的に支持された治療(EST)の影響を受けて、主に無作為対照化試験(RCT)などのグループ比較デザインにとどまっており、行動分析学の方法論に基づいた実践研究はほとんど行われていない。本論文では、最初に、①精神科臨床における応用行動分析学の歴史を振り返る。次に、②現在の精神科臨床において薬物療法以外で標準治療とされているCBTについて、その歴史と行動分析学との関係について整理する。そして、③CBTが掲げるエビデンスの特徴と問題点を指摘する。最後に、④精神科臨床において、グループ比較デザインの知見とシングルケースデザインの方法論に基づく実践効果検証それぞれの利点を活かして統合し、応用行動分析学に基づく完成度の高い実践(well-established practices)を目指すことが重要であることを論じる。今後、精神科臨床の領域においても行動分析学の方法論を用いた実践を増加させる仕組みづくりが必要である。
著者
仁藤 二郎 奥田 健次
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.80-91, 2013-02-20 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
5

研究の目的 本研究では、嘔吐不安を訴えて来院したひきこもり男性に対して、食事量を指標として、精神科デイケアを利用したエクスポージャーを実施し、その効果を検討することを目的とした。研究計画 基準変更デザインを用いた。場面 精神科クリニックのデイケアにおいて介入を実施した。被験者 介入開始時19歳のひきこもり男性で、特定の恐怖症と診断されていた。介入 標的行動は、「昼食を一定量食べ、その後13時から15時までのデイケアプログラムに参加、あるいは見学する」こととした。基準1では食事量300gを、基準2では400gを目標として、それらの目標を達成するまで、あるいは昼食時間が終了する13時までは食事の部屋にとどまるという取り決めを行った。昼食時間が始まって30分経過しても目標に達しない場合には、もう少し食べるよう口頭で促した。行動の指標 食事量を測定した。結果 基準1では300gを、基準2では400gを食べられるようになった。また、その効果はそれまで対象者が一度も経験したことがなかったデイルーム場面や外食場面にも般化した。結論 嘔吐不安を訴える男性に対して、不安そのものへの介入ではなく食事量を指標としたエクスポージャーの適用が有効であった。