著者
大久保 賢一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.127-141, 2015-02-25 (Released:2017-06-28)

本論文では、日本行動分析学会「体罰に反対する声明」を受け、学校場面における「体罰」に依存しない行動問題に対する適正手続きについて解説する。まず、わが国における児童生徒が示す行動問題に対する懲戒や出席停止、あるいは有形力の行使などの適正手続きについて紹介し、「体罰」と懲戒の線引きに関する課題を明らかにする。そして、タスクフォースが声明において何に反対し、何に反対しないのかということをより明確にする。さらに、声明において推奨されているポジティブな行動支援の一例として、米国において普及しつつあるSchool-wide Positive Behavior Support (SWPBS)について紹介し、行動問題に対する予防的で階層的、そしてシステムワイドな支援モデルについて紹介する。米国の「障害のある個人教育法」(individuals with Disabilities Education Act: IDEA)において定められている学校教育における懲戒ルールについて解説し、適切な支援を行うことを前提とした行動問題への適正手続きについて言及する。
著者
平澤 紀子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.119-126, 2015-02-25 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

「体罰」をなくすためには、望ましくない行動を減少させる、より望ましい方法が必要である。本報では、その中心となるポジティブな行動支援について取り上げ、その特徴や方法、研究成果について解説した。ポジティブな行動支援は、個人の生活の質を向上し、それによって問題行動を最小化するための教育的方法とシステム変化の方法を用いる応用科学である(Carr et al., 2002)。その焦点は、その人の望ましくない行動を引き起こし、強化している要因の分析をもとに、望ましい行動を教え、その人の生活環境を再構築するところにある。このような予防的・教育的アプローチは、米国では、障害児教育制度に位置づけられ、個人に対する個別的な支援だけでなく、学校規模の支援として多くの研究成果が蓄積されている。今日、われわれは、「体罰」ではない、確かな教育的方法を有するのである。
著者
吉野 俊彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.108-118, 2015-02-25 (Released:2017-06-28)

弱化(罰)は、直接に反応抑制をもたらす行動随伴性である。行動の直後の環境変化によって将来的なその行動の生起頻度が下がることと定義される。副次的な作用があっても、体罰であっても、どんな手続きであれこの定義を満たせば弱化である。けれども、反応抑制を確実にもたらすためにはさまざまな厳密な条件統制が必要である。また、直接に反応を抑制する効果をもつと同時に、弱化、特に嫌子出現による弱化は、さまざまな望ましくない副次的な効果を伴う。体罰は、社会的な場面で使用されて効果がある手段であると間違って認識されることがある。弱化の効果とは別に、体罰の使用行動自体は、ほかの要因、セルフコントロールやルール支配行動などとの関連を考慮する必要がある。体罰は問題行動の抑制を目的とした場合であっても、ほかのより問題の少ない手段もあるため、使用されるべきではない。弱化は、適用する際に第一に選択されるべきものではなく、反応抑制をもたらす手続きでありながら反応抑制を目的とした手続きとしては使うべきでないという自己矛盾をはらんでいると考えられる。
著者
望月 昭
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.4-11, 1995-06-15 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

当論文は、今回の特集号を編集するにあたって、行動分析と行動分析者が、ノーマライゼーションの原理や運動に対して、どのように貢献できるかについて確認したものである。これまで行動分析は、一般的には、障害分野において個人の行動を現実環境へ適応させたり、地域化というノーマライゼーションの大きな方針のもとで問題行動を減じる為などに用いられるテクニックとして捉えられてきた。しかし、三項随伴性に代表される行動に対する関係的な枠組みや、行動とそれに対する徹底的な正の強化の配置を尊重するスキナーの「倫理観」は、それ自体が単なるテクニックを越えた、哲学から方法論までを備えた、既成のノーマライゼーション原理に匹敵する体系として考える事ができる。この行動分析的ノーマライゼーションにおいては、"正の強化を受ける行動の選択肢の拡大"と運動の目標を表現することができる。そして、この目標達成に向けて、障害を持った個人に対して、従来の「教育・療育」のみでなく、適正な「援助・援護」行動や、環境設定の実験的分析としてのシミュレーションの方法が検討される必要がある。
著者
出口 光
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.48-60, 1988-03-31 (Released:2017-06-28)

行動修正という分野が存在するためには, 社会的に重要な行動修正の実践を行動修正家に力づけるためのコンテクストが必要である。このコンテクストとして, 人間は「行動存在の場」であるという人間観と, その行動は徹底的に環境の随伴性によって制御されるという立場をとることが有効である。さらに, このコンテクストを基礎に, 社会的に機能するレベルの行動修正を確立するために, 行動修正家を取り巻く環境随伴性とその随伴性を変容するための自己環境変容スキルについて分析する。さらに行動修正の価値を, 社会的妥当性に関する言語行動の分析によって考察する。本論文は, 行動修正を存在させ, 行動修正家を力づけるコンテクストに関して, ひとりの行動修正家の視点から一貫した考え方を述べる。
著者
望月 要 佐藤 方哉
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.42-54, 2003-04-20 (Released:2017-06-28)

本稿は行動分析学の立場から"パーソナリティ"の概念的分析と実証的研究の展望を試みたものである。従来、人間の個体差を示すパーソナリティ"という概念は、個体の内部にあって、その人間の行動を決定する仮説構成体と考えられてきた。この定義は現在でも広く用いられているが、言うまでもなく、行動の内的原因を排除する行動分析学からは容認できない。しかし、"パーソナリティ"について行動分析学の立場から新たな定義を与えることは不可能ではない。本橋ではパーソナリティ"に対して「特定個人の行動レパートリーの総体」という定義を、まだパーソナリティ特性"に対して「個人において安定している共通の制御変数によって制御されるレスポンデントおよびオペラントのクラス」という行動分析学的な定義を提案し、これに基づいてパーソナリティ特性"の概念的分析を行なうとともに、行動分析学的立場から行なわれた幾つかの実証的研究について展望を試みた。行動分析学は行動を制御する主要な制御変数の探求を完了しつつあり、今後は、制御変数間の相互作用の分析に力を注ぐべき段階にさしかかっている。制御変数の相互作用を解明するとき、同一環境下で発生する行動の個体差は研究の重要な糸口となり、その意味においても行動分析学における個体差研究の意義は大きい。
著者
高砂 美樹
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.128-134, 2019-02-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
16

John B. Watsonの条件性情動反応の研究(Watson & Rayner, 1920)に出てくるAlbert B.として知られるLittle Albertは本当は誰だったのだろうか。この9か月齢の子どものことは心理学史ではよく知られてきたが、Albertは実験の後に生後ずっと暮らしていた大学病院から連れていかれ、その後どうなったかについては何の手掛かりもなかった。近年になって、Beck et al. (2009)は、Little Albertは実際にはDouglas Merritteという名前の子どもで、1922年に水頭症を患い、1925年に亡くなっていると主張した。さらに2012年の研究でBeckのグループはAlbertの神経学的障害の徴候を見落としていたと報告し、もしそれが事実であったならばWatsonがこの子どもを虐待していたことになることを示唆した。しかしながら、2014年になると、もう一つのグループの心理学者らがAlbert Bargerという別の子どもをより適切なAlbert B.の候補として同定した。本論ではLittle Albertを探す一連の論争について概観する。
著者
C. RICHARD SPATES
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.161-173, 2003-09-05 (Released:2017-06-28)

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、生死に関わるような恐ろしい体験をした人に見られる事の多い、行動的、情動的な反応のことである。全人口のおよそ7%の人がこの障害を持つと言われている。この障害は戦争、火事、交通事故、自然災害、暴力、テロ、などから引き起こされることが多い。この発表では、PTSDにみられる行動や情動などを行動分析の視点から解釈する。行動分析学からの解釈によって、発症のメカニズム、PTSDに対する正しい理解、より優れた治療方法についての幅広い発展が期待できる。治療方法について各種の方法を比較分析したデータも紹介する。
著者
井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.173-183, 2009-03-31 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

本論文では我が国の自閉症支援における行動論研究のエビデンスに基づく実践を確立するための諸条件について提言を行った。研究基盤を作る上では国際研究のゴールデンスタンダードである評価尺度の標準化推進、研究組織の体制整備、マニュアルの整備、セラピストの養成と専門性の基準策定をあげた。またエビデンス研究の効果を伝える仕組みとして、単一被験体法の普及・発展による他の学問分野との交流促進、行政機関の発信行動を促進するためのシンポジウム開催などの諸条件を指摘した。そして最後にエビデンス研究の効果を生かせる環境作りのために、人材養成と教育分野におけるエビデンス研究の推進を取り上げた。自閉症に対する臨床・教育的研究のエビデンスが臨床サービスとして定着するための戦略について考察した。
著者
渡辺 太郎 金山 好美 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-48, 2008-03-30 (Released:2017-06-28)

研究の目的 特別支援のために活動する教員補助者と担任教師とのコミュニケーションを促進・改善することを目的とした。研究計画 参加者(教員補助者)間マルチベースラインデザインを用いた。場面 公立の小学校の通常学級において行われた。参加者 小学校通常学級の5名の担任教師と教員補助者として活動する4名の学生(大学生1名、大学院生3名)が参加した。介入 教師と教員補助者の間で使用していた「コミュニケーション・カード」を、教師の使用コスト低減に配慮して改良した。具体的には、1)教員補助者の報告内容を項目立て、2)記号を用いることによって教師の返答を簡略化した。行動の指標 カードにおける教師からの1)コメントの生起頻度、2)下位コメントの生起頻度とした。結果 介入期では、教師からのコメントの生起頻度が高まり、教師による「要望」や「共感」コメントの生起頻度も高くなった。また、教師から記述コメントが付加されたことにより、教師の教員補助者に対するコメントの情報量が全体的に向上した。結論 記号による返答方法は、教師からのコメントの増大に効果があることが示唆された。また、教師からのコメントの中でも、特に「共感」と「要望」コメントの生起頻度の増加が、教師と教員補助者のコミュニケーションに互恵的な強化関係を生じさせた可能性が考えられた。そして、その結果、介入後では、担任教師からカードの書式に対するアイディアの提案や対象児以外の児童へのサポートの要望が出されるなど、教師と教員補助者のコミュニケーションをさらに発展させる可能性が考えられた。
著者
山田 剛史
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Suppl, pp.219-232, 2015-03-31 (Released:2017-06-28)

本稿の目的は、シングルケース研究(single-case research)のための統計的方法について簡潔なレビューを行うことである。具体的には、(1)シングルケース研究のデータ(以降これをシングルケースデータと呼ぶことにする)の特徴、(2)視覚的判断の精度に関する研究、(3)推測統計的方法(統計的検定)、(4)記述統計的方法(効果量)、(5)統計的方法について学ぶためのリソースの紹介、(6)統計的方法の現状と展望(考察)、からなる。
著者
石井 拓
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Suppl, pp.188-199, 2015-03-31 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

まず、シングルケース実験デザインの基本的な特徴や、その基本的な種類である反転デザイン、基準変更デザイン、多層ベースラインデザイン、処遇交替デザインを紹介した。次に、それらのデザインを用いて得られた実験結果がエビデンスとしていかなる資格をもつかを検討するために、研究の内的妥当性と外的妥当性の問題をどのように取扱うかを解説した。それらの取扱いを群間比較法の場合と比較すると、シングルケースデザインでは実験参加者の選択やその選択と処遇の交絡の影響、および処遇間の干渉に伴う各種の影響を外的妥当性の問題として反復実験で検討しなくてはならないことを指摘した。さらに、反復実験を通してある実験結果のエビデンスを強めていく方略に、現状では問題があることも指摘した。それらの問題に対処するために、今後はシングルケースデザインを用いた複数の研究結果を効率よくまとめることを可能にするようなガイドラインの整備や、実践に基づいた研究ネットワークの仕組みを活用できる可能性を提案した。
著者
内田 一成
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.124-136, 2005-04-30 (Released:2017-06-28)

本論文の目的は、1知的障害者入所施設に導入した、職員のニーズ関連行動の増加とニーズ解決技能の習熟ならびにそれらの組織的結果を強化する6つの行動パッケージからなる、組織的援助システムについての臨床実験の成績を報告し、今後の入所施設サービスについての方法論的枠組みと応用行動分析の役割について議論することである。3ヵ年にわたる研究結果は、この組織的援助システムが施設の専門的援助機能を有意に高め、知的障害や発達障害を有する入所者の適応行動と不適応行動に劇的な改善をもたらすことを示していた。本知見は、この新たなシステムが施設サービスにおいて知的障害や発達障害をもつ人々に最適なQOLを提供するうえで本質的な役割を演じるとともに、地域社会に根ざしたサービスや他の対人援助場面でも適用可能であることを示唆している。