著者
今井 晋哉
出版者
帯広畜産大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

形成期の近代ドイツ市民社会における「市民的公共」の正と負の両面の解明を目指し、今年度は1840年代のハンブルクを例に、市民的公共の担い手としての啓蒙主義的市民結社「パトリオット協会」と、同結社の援助・指導の下、活動を始めた初期の「労働者教育協会」との相互関係を直接の対象として、文献・史料の蒐集・分析に取りかかった。この間、ハンブルクの文書館・図書館への史料情報の照会、先方からの返答など、発注段階での手続きに思いの外時間がかかり、注文した史料のなかには、なお現地でフィルム化を進めてもらっている最中のものもあり、したがって、今年度内における原史料の入手については計画通りいかなかった面もあるが、一方公刊史料や各種研究・参考文献については、本補助金のおかげで非常に充実した蒐集を行うことができた。パトリオット協会自身による協会史や労働者教育協会会員による新聞への寄稿などを読み進むうち、教育協会の活動についての両協会の交渉過程で鮮明になっていった両者の対立においては、協会構成員の経済的地位の相違に起因したという側面よりも、直接にはむしろ、行われるべき教育を、技術・職業教育や市民として修得すべき生活道徳の面に限定しようとするパトリオット協会と、歴史や社会問題についての講義や討論会をも求める教育協会の手工業職人との間の、教育プログラムをめぐる対立の方が中心的であったことが明らかになってきた。現在、この論点を中心とする論文の原稿を執筆中である。また、教育協会に参加した多様な「労働者」の状況を探るため、19世紀初め以来の社会下層民の、とりわけ手工業職人の状況についても勉強にも取り組んだ。この過程で、社会経済史学会からの依頼もあり、裏面の通り、ドイツにおける労働者階級形成を主題とする近年の歴史研究の動向についてまとめた論考を執筆、発表することとなった。