1 0 0 0 OA 人工光合成

著者
今堀 博
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.5_26-5_29, 2011-05-01 (Released:2011-09-15)
参考文献数
5
著者
今堀 博
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

一般に、側壁への共有結合による化学修飾は、パイ共役性を破壊し、単層カーボンナノチューブ(SWNT)の電子状態を大きく変化させることが知られている。一方で、我々はこれまでに、SWNT側壁へのエノラートアニオンの環化付加反応、いわゆるビンゲル反応による修飾は、SWNTの電子状態にほとんど変化を起こさないことを実験的に見出した。本研究では、密度汎関数(DFT)法を用いて、ビンゲル反応修飾により得られるSWNTの構造や電子状態を理論的に考察した。ここで、チューブ軸に対して付加した3員環面が垂直あるいは垂直により近いものをType 1、平行あるいはより平行に近いものをType 2として表記する。Type 1およびType 2の(8,8)SWNTに対して構造最適化を行ったところ、Type 2では反応した側壁上の2つの炭素間の距離が1.57Aであるのに対し、Type 1では2.23Aとなり、結合の切断が示唆された。また、(10,5)SWNTを用いた場合にも、同様にType 1の場合に結合の開裂を伴うことが示唆された。さらに、無修飾およびType 1、Type 2のSWNTモデルに対して電子構造の考察を行ったところ、(8,8)および(10,5)SWNTのいずれにおいても、Type 1では、軌道のエネルギーが無修飾の場合と比べてほとんど変化せず、チューブ全体に電子が非局在化していた。一方Type 2では、付加基付近への電子の局在化が見られ、軌道のエネルギーが無修飾と比べて大きく変化していることがわかった。以上の結果とビンゲル反応修飾後に電子状態が保持されるという実験結果を考え合わせると、実験ではType 1の立体配置での付加反応が優先的に進行したと考えられる。今回、理論的結果とあわせて考察することで、SWNTの側壁化学修飾における結合様式の推定を行うことができた。