著者
白鳥 美和 江口 睦志 仲 大地
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.119, 2005

生命活動において蛋白質は様々な相互作用を介して機能しており,今後,膨大なゲノム情報を生かしつつ,新たな機能を有する蛋白質を効率的かつ有効に見出す手法が望まれる。特にDNAやRNAの解析が,PCR等によりin vitroで簡便に増幅して行うことが出来るのに対し,目的とする活性を指標に精製された蛋白質は直接増幅させる手段はなく,その過程で収量が減少するなど解析は一般的に容易ではない。この問題を解決するアイディアとして,蛋白質とそのアミノ酸配列情報をコードした遺伝子が直接結合している分子の利用が考えられる。なぜなら蛋白質の機能に基づいて選択操作の後,その核酸部分を増幅させることにより,選択された蛋白質を簡便に同定することが可能となるからである。 無細胞タンパク質ディスプレー法(CFPD法/IVV法)は,生物由来あるいはランダムに合成された核酸ライブラリーを用い,これらから転写されたmRNAとその翻訳産物である蛋白質が共有結合した分子(対応付け分子)をin vitroで形成させる技術である。本技術はチロシルtRNAの3'末端と類似した構造をもつピューロマイシンの特性を利用している。この分子をリンカーを介してmRNA の3'末端に連結し,これを無細胞蛋白質合成系で翻訳させると,mRNAと結合したピューロマイシンは合成されたペプチド鎖のC末端に取り込まれる。その結果,mRNAと翻訳された蛋白質が共有結合で連結した分子が形成されるのである。例えば,この技術を利用して対応付け分子のライブラリーを調製後,目的の物質に対する選択操作とその核酸部分の増幅による再ライブラリー化の工程(濃縮サイクル)を繰り返すことによって,この物質に対して相互作用する蛋白質を高度に濃縮し,これを同定することが可能となる。さらにこの技術は全ての操作を無細胞系で行うため,細胞を使用する際に生じる形質転換効率等の制限が全く生じない。そのため,一度に大規模な分子数を有する核酸ライブラリー(約1013分子_から_)を対象に,簡便かつ迅速に目的とする蛋白質を選択し,これを増幅することができる。本発表ではこの技術の応用例として,創薬ターゲット分子に対して相互作用する蛋白質の解析例,薬剤標的蛋白質の解析例を紹介するとともに,蛋白工学的手法として機能性ペプチドを探索したり,高活性な蛋白質を創造したりするための様々な応用について紹介する。