著者
石田 洋一 榊原 陽一 山崎 正夫 森永 浩通 赤松 絵奈 柚木崎 千鶴子 酒井 美穂 鳥居 絵里 西山 和夫 水光 正仁 坪内 博仁 岡山 昭彦 片岡 寛章
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集 日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
巻号頁・発行日
pp.84, 2007 (Released:2007-08-29)

成人T細胞白血病(Adult T-cell leukemia; ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス(Human T-cell leukemia virus type 1; HTLV-1)の感染によって引き起こされる悪性腫瘍であり、未だ有効な予防・治療法は確立されていない。HTLV-1に感染したウイルスキャリアの内、ごく一部(3~5%)が、長い期間(30~50年)を経て、ATLを発症する。我々は、宮崎県地域結集型共同研究事業「食の機能を中心としたがん予防基盤技術創出」の研究の一環として、食品の機能性を活用したATL予防法の開発を進めている。本研究では、古来より様々な生理活性が知られているハーブ類に着目し、ATL細胞増殖抑制活性を有する高機能性食品の探索と作用機序の解析を行った。 まず、数種のハーブの80%エタノール抽出物を用い、ATL細胞株(ED細胞、S1T細胞)の増殖抑制活性を調べた。その結果、抗炎症効果などで有名なローズマリー(Rosmarinus officinalis)の抽出物において、最も強い活性が認められ、アポトーシスの生化学的指標であるカスパーゼの活性化が検出された。更に、ローズマリー含有生理活性物質の一種であるカルノソールにおいて、アポトーシス誘導活性が検出されたことから、カルノソールはローズマリーのアポトーシス誘導活性本体の一つであることが示唆された。 次に、カルノソールのアポトーシス誘導機構を明らかにすべく、カルノソール-ED細胞系を用い、蛍光ディファレンシャル2次元電気泳動法で網羅的蛋白質発現解析を行った。カルノソール処理により発現変動を示す蛋白質については、PMF法とMS/MSイオンサーチ法で同定した。その結果、発現増加が見られた蛋白質の多くは、三つのカテゴリー、即ち、1)解糖系に関わる酵素、2)ペントース-リン酸経路に関わる酵素、3)酸化還元反応に関わる蛋白質に分類された。解糖系とペントース-リン酸経路は連動して機能し、グルタチオンなどの細胞内抗酸化反応に寄与する。そこで、グルタチオンの関連性を検討したところ、カルノソール処理細胞では細胞内グルタチオンが減少することが分かった。 以上、ATLの予防に有用な高機能性食品を探索した結果、ローズマリーとその含有成分の一種であるカルノソールにアポトーシス誘導活性を見出した。更に、カルノソールの作用機序解析より、細胞内グルタチオンの減少がアポトーシス誘導の一因であることが示唆された。
著者
川崎 ナナ 橋井 則貴 松石 紫 伊藤 さつき 原園 景 川西 徹
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.27, 2005

生体内のタンパク質には様々な糖鎖が結合している。この中のいくつかの糖鎖構造は、活性や疾患等と密接な関わりがあることが明らかとなってきた。しかし、それらの糖鎖の体内分布やその糖鎖が結合しているタンパク質は一部が明らかにされたにすぎない。我々は、生物活性や疾患等に関連する糖鎖の特異的検出、及び糖鎖結合タンパク質の同定を目的として、糖鎖及び糖ペプチド混合物の中から、任意の構造を有する糖鎖及び糖ペプチドを選択的に検出し、解析する方法を検討している。<BR> Galbeta1-4(Fucalpha1-3)GlcNAc (Le<SUP>x</SUP>)は、発生や接着等に関与している部分糖鎖構造で、特にシアル酸が結合したLe<SUP>x</SUP>は癌診断マーカーとして利用されている。しかし、Le<SUP>x</SUP>は抗体との反応性を利用して検出されているため、糖鎖全体の構造、及びLe<SUP>x</SUP>結合タンパク質等については不明な点が多い。MS/MSは糖鎖配列解析用ツールとして広く利用されているが、Le<SUP>x</SUP>には位置異性体Galbeta1-3(Fucalpha1-4)GlcNAc (Le<SUP>a</SUP>)が存在するため、MS/MSによるグリコシド結合の開裂だけではLe<SUP>x</SUP>を特定することは難しい。位置異性体が多く存在する糖鎖の特定には、多段階MS (MS<SUP>n</SUP>)によって生じた環開裂イオンが決め手になる場合がある。本研究では、Le<SUP>x</SUP>をモデル糖鎖とし、MS<SUP>n</SUP>によって生じたLe<SUP>x</SUP>特異的環開裂イオンを指標としてLe<SUP>x</SUP>結合糖鎖を選択的に検出する方法を検討した。<BR> はじめに、ESI-ITMS装置(LTQ-FT, Thermo Electron)を用いてピリジルアミノ化Le<SUP>x</SUP>を分析し、フルMS<SUP>1</SUP>、データ依存的MS<SUP>2</SUP>、MS<SUP>3</SUP>(前駆イオン:Gal1-4(Fuc1-3)GlcNAc)、及びMS<SUP>4</SUP>(前駆イオン:Gal1-4GlcNAc)の連続スキャンによってLe<SUP>x</SUP>特異的な環開裂イオンが検出されることを見出した。そこで、モデル組織マウス腎臓から切り出した糖鎖混合物をLC/ESI-ITMS装置を用いて連続スキャン分析し、複数のLe<SUP>x</SUP>結合糖鎖を検出すると同時に、その糖鎖構造を明らかにすることができた。<BR> 本連続スキャン分析は他の糖鎖の構造特異的検出にも応用可能であり、また、本分析法を糖ペプチド解析に応用することができれば、Le<SUP>x</SUP>結合タンパク質の特定につながるものと期待される。
著者
白鳥 美和 江口 睦志 仲 大地
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.119, 2005

生命活動において蛋白質は様々な相互作用を介して機能しており,今後,膨大なゲノム情報を生かしつつ,新たな機能を有する蛋白質を効率的かつ有効に見出す手法が望まれる。特にDNAやRNAの解析が,PCR等によりin vitroで簡便に増幅して行うことが出来るのに対し,目的とする活性を指標に精製された蛋白質は直接増幅させる手段はなく,その過程で収量が減少するなど解析は一般的に容易ではない。この問題を解決するアイディアとして,蛋白質とそのアミノ酸配列情報をコードした遺伝子が直接結合している分子の利用が考えられる。なぜなら蛋白質の機能に基づいて選択操作の後,その核酸部分を増幅させることにより,選択された蛋白質を簡便に同定することが可能となるからである。 無細胞タンパク質ディスプレー法(CFPD法/IVV法)は,生物由来あるいはランダムに合成された核酸ライブラリーを用い,これらから転写されたmRNAとその翻訳産物である蛋白質が共有結合した分子(対応付け分子)をin vitroで形成させる技術である。本技術はチロシルtRNAの3'末端と類似した構造をもつピューロマイシンの特性を利用している。この分子をリンカーを介してmRNA の3'末端に連結し,これを無細胞蛋白質合成系で翻訳させると,mRNAと結合したピューロマイシンは合成されたペプチド鎖のC末端に取り込まれる。その結果,mRNAと翻訳された蛋白質が共有結合で連結した分子が形成されるのである。例えば,この技術を利用して対応付け分子のライブラリーを調製後,目的の物質に対する選択操作とその核酸部分の増幅による再ライブラリー化の工程(濃縮サイクル)を繰り返すことによって,この物質に対して相互作用する蛋白質を高度に濃縮し,これを同定することが可能となる。さらにこの技術は全ての操作を無細胞系で行うため,細胞を使用する際に生じる形質転換効率等の制限が全く生じない。そのため,一度に大規模な分子数を有する核酸ライブラリー(約1013分子_から_)を対象に,簡便かつ迅速に目的とする蛋白質を選択し,これを増幅することができる。本発表ではこの技術の応用例として,創薬ターゲット分子に対して相互作用する蛋白質の解析例,薬剤標的蛋白質の解析例を紹介するとともに,蛋白工学的手法として機能性ペプチドを探索したり,高活性な蛋白質を創造したりするための様々な応用について紹介する。
著者
今井 直 堤 康央 長野 一也 杉田 敏樹 吉田 康伸 向 洋平 吉川 友章 鎌田 春彦 角田 慎一 中川 晋作
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.151, 2007

現状のプロテオーム解析では、疾患組織あるいは対照となる健常組織由来の蛋白質サンプルを二次元ディファレンシャル電気泳動(2D-DIGE)法で分離した後に、質量分析計を用いて個々の発現変動蛋白質を同定することにとどまっている。そのため、同定された膨大な数の変動蛋白質の中から、発現や変動を詳細に機能解析することで、病態の発症や悪化に中心的な役割を果たしている創薬ターゲット・蛋白質を効率よく絞り込むこが次のステップとして期待されている。その点において、ELISAなどの抗原-抗体反応を利用した解析手法は、特定蛋白質を特異的かつ高感度に検出できることから、プロテオミクス研究においても蛋白質の機能解析を進める上で極めて有用である。しかし、従来のように数十g以上の蛋白質を動物個体に免疫する必要があるハイブリドーマ法では、上述の2D-DIGEによって得られる極微量(数十ng程度)かつ多種類の蛋白質サンプルに対する抗体作製に対応することは不可能である上、この方法ではプロテオミクスの最大の利点である網羅性を著しく損なってしまう。そこで我々は、これらの課題を克服するために、ファージ抗体ライブラリと2D-DIGE法を組み合わせた新しいモノクローナル抗体(Mab)作製技術の確立を試みた。一般に、ファージ抗体ライブラリからのMabのセレクションは、プラスチックプレートなどに固定化した数g~数百g程度の標的抗原に対してファージ抗体ライブラリを反応させ、抗原に結合するファージのみを選択・増幅する、という方法(パンニング法)を用いる。既に我々は、ニトロセルロースメンブランを固相化担体として利用することで蛋白量がわずか0.5 ng程度であっても効率よくMabを選別できるパンニング法の開発に成功している。今回は、ヒト乳癌・乳腺細胞株の2D-DIGE解析により得られた発現変動スポットから蛋白質を抽出し、この蛋白質をダイレクトに抗原として用い、メンブランパンニングを行った。その結果、メンブランパンニング法を適用することで、今回得られた全てのスポットに対してMAbを単離することが出来た。以上、2D-DIGEによる変動蛋白質の同定と抗体作製を一挙に達成できる本手法は、プロテオミクスによる創薬ターゲットや疾患の早期診断・治療マーカーの同定に大きく貢献するものと期待される。
著者
大橋 和也 前田 忠計 小寺 義男 丸橋 正弘 大谷 真理 大石 正道 伊藤 一郎 佐藤 絵里奈 大草 洋 松本 和将 馬場 志郎
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.18, 2009

シスプラチンやタキソールは優れた抗腫瘍効果から、悪性腫瘍の治療において頻用されている抗癌剤であり、膀胱癌においても一般的な化学療法に組み込まれている。これら抗癌剤の有効性は証明されているものの、徐々に抵抗性を示す症例を経験する。これは膀胱癌がシスプラチンやタキソールに対して耐性を獲得したことが原因の一つとして考えられる。そのため、これら抗癌剤に対する耐性獲得機序の解明が求められている。しかし、膀胱癌において薬剤耐性を獲得する機序は未だ不明な点が多い。そこで、我々は予後因子としてのマーカーの発見ならびに薬剤耐性獲得機序解明を目的として研究を進めている。本研究では、膀胱癌細胞株 T24 、膀胱癌細胞株 T24 より樹立されたシスプラチン 26.6μM の培地で成育された T24 シスプラチン耐性株を用いた。これらを二次元電気泳動法により定量分析し、シスプラチン耐性関連タンパク質を探索した。二次元電気泳動法は一般的な方法よりも高分子量タンパク質を分析可能なアガロース二次元電気泳動法を用いた。二次元目の SDS-PAGE 用ゲルのアクリルアミド濃度は 12% 均一ゲルと、高分子領域の分離能が高い 6-10% 濃度勾配ゲルを用いた。また、二次元電気泳動ではゲル毎の泳動パターンの差が問題となるので、再現性確認のため、T24 、T24 シスプラチン耐性株を各 3 回独立に電気泳動し、解析した。T24 と T24 シスプラチン耐性株を比較分析した結果、12% 均一ゲルにおいて約 300 スポット中 22 スポット、6-10% 濃度勾配ゲルにおいて約 150 スポット中 9 スポットのシスプラチン耐性獲得関連タンパク質を検出した。これらを LC-MS/MS により分析した結果、最終的に 25 種類のタンパク質の同定に成功した。同定されたタンパク質はシスプラチン耐性関連として報告されているものが 3 種類、報告されていないものが 22 種類であった。現在、22 種類のタンパク質から T24 シスプラチン耐性株において増加した 5 種類、消失した 1 種類、大きく減少した 2 種類の合計 8 種類のタンパク質に注目し、発現量解析を Western Blotting 法により行っている。発表ではこれらの結果をタキソール耐性株の分析結果と共に報告する。
著者
梁 明秀
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集 日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
巻号頁・発行日
pp.108, 2009 (Released:2009-09-14)

タンパク質のリン酸化は増殖や分化といった数多くの細胞の機能を調節する上で極めて重要なメカニズムの1つである。しかしながら、いかにしてリン酸化されたタンパク質がリン酸化に引き続いて機能を大きく変化させるかという機構については不明な点が多かった。ペプチジルプロリルイソメラーゼPin1はリン酸化されたセリン/スレオニン-プロリン(Ser/Thr-Pro)というモチーフに結合し、そのペプチド結合を介してタンパク質の構造をシス・トランスに異性化させることにより、リン酸化タンパク質の機能を調節する新しいタイプのレギュレータである。 この 新規の“リン酸化後”調節機構は標的タンパク質の活性、細胞内局在、安定性等を変化させ、リン酸化タンパク質の機能発現に重要な役割を果たす。最近の研究により、Pin1は乳癌や前立腺癌などの悪性腫瘍およびアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の病態形成に極めて重要な役割を果たすことが明らかになった。また、Pin1ノックアウトマウスを用いた研究により、Pin1は上記疾患のみならず、網膜変性症、精子低形成症、自己免疫疾患などの難治性疾患の形成に関与することも示唆されている。このようにPin1が多くの疾患に関与するのはなぜであろうか? それはPin1がエフェクター因子として直接疾患形成に関与するわけではなく、あくまでもリン酸化タンパク質の調節因子として、リン酸化を介した疾患形成因子の機能発現に関与しているからであると考えられる。実際に、Pin1 の基質となる機能タンパク質は、臓器、細胞ごとにその種類が異なり、また同一の組織や細胞内においても正常時と疾患時ではPin1基質タンパク質のリン酸化状況やPin1との結合性も異なる。 我々はこのPin1 の特性を生かし、Pin1を分子プローブとして用いることにより、難治疾患の形成に直接関与する責任分子や関連するシグナル伝達系の同定を試みている。本演題ではPin1のベーシックな機能や構造について概説するとともに、Pin1を介した疾患形成の分子メカニズムについて最近の知見を紹介する。