著者
川崎 ナナ 橋井 則貴 松石 紫 伊藤 さつき 原園 景 川西 徹
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.27, 2005

生体内のタンパク質には様々な糖鎖が結合している。この中のいくつかの糖鎖構造は、活性や疾患等と密接な関わりがあることが明らかとなってきた。しかし、それらの糖鎖の体内分布やその糖鎖が結合しているタンパク質は一部が明らかにされたにすぎない。我々は、生物活性や疾患等に関連する糖鎖の特異的検出、及び糖鎖結合タンパク質の同定を目的として、糖鎖及び糖ペプチド混合物の中から、任意の構造を有する糖鎖及び糖ペプチドを選択的に検出し、解析する方法を検討している。<BR> Galbeta1-4(Fucalpha1-3)GlcNAc (Le<SUP>x</SUP>)は、発生や接着等に関与している部分糖鎖構造で、特にシアル酸が結合したLe<SUP>x</SUP>は癌診断マーカーとして利用されている。しかし、Le<SUP>x</SUP>は抗体との反応性を利用して検出されているため、糖鎖全体の構造、及びLe<SUP>x</SUP>結合タンパク質等については不明な点が多い。MS/MSは糖鎖配列解析用ツールとして広く利用されているが、Le<SUP>x</SUP>には位置異性体Galbeta1-3(Fucalpha1-4)GlcNAc (Le<SUP>a</SUP>)が存在するため、MS/MSによるグリコシド結合の開裂だけではLe<SUP>x</SUP>を特定することは難しい。位置異性体が多く存在する糖鎖の特定には、多段階MS (MS<SUP>n</SUP>)によって生じた環開裂イオンが決め手になる場合がある。本研究では、Le<SUP>x</SUP>をモデル糖鎖とし、MS<SUP>n</SUP>によって生じたLe<SUP>x</SUP>特異的環開裂イオンを指標としてLe<SUP>x</SUP>結合糖鎖を選択的に検出する方法を検討した。<BR> はじめに、ESI-ITMS装置(LTQ-FT, Thermo Electron)を用いてピリジルアミノ化Le<SUP>x</SUP>を分析し、フルMS<SUP>1</SUP>、データ依存的MS<SUP>2</SUP>、MS<SUP>3</SUP>(前駆イオン:Gal1-4(Fuc1-3)GlcNAc)、及びMS<SUP>4</SUP>(前駆イオン:Gal1-4GlcNAc)の連続スキャンによってLe<SUP>x</SUP>特異的な環開裂イオンが検出されることを見出した。そこで、モデル組織マウス腎臓から切り出した糖鎖混合物をLC/ESI-ITMS装置を用いて連続スキャン分析し、複数のLe<SUP>x</SUP>結合糖鎖を検出すると同時に、その糖鎖構造を明らかにすることができた。<BR> 本連続スキャン分析は他の糖鎖の構造特異的検出にも応用可能であり、また、本分析法を糖ペプチド解析に応用することができれば、Le<SUP>x</SUP>結合タンパク質の特定につながるものと期待される。
著者
白鳥 美和 江口 睦志 仲 大地
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.119, 2005

生命活動において蛋白質は様々な相互作用を介して機能しており,今後,膨大なゲノム情報を生かしつつ,新たな機能を有する蛋白質を効率的かつ有効に見出す手法が望まれる。特にDNAやRNAの解析が,PCR等によりin vitroで簡便に増幅して行うことが出来るのに対し,目的とする活性を指標に精製された蛋白質は直接増幅させる手段はなく,その過程で収量が減少するなど解析は一般的に容易ではない。この問題を解決するアイディアとして,蛋白質とそのアミノ酸配列情報をコードした遺伝子が直接結合している分子の利用が考えられる。なぜなら蛋白質の機能に基づいて選択操作の後,その核酸部分を増幅させることにより,選択された蛋白質を簡便に同定することが可能となるからである。 無細胞タンパク質ディスプレー法(CFPD法/IVV法)は,生物由来あるいはランダムに合成された核酸ライブラリーを用い,これらから転写されたmRNAとその翻訳産物である蛋白質が共有結合した分子(対応付け分子)をin vitroで形成させる技術である。本技術はチロシルtRNAの3'末端と類似した構造をもつピューロマイシンの特性を利用している。この分子をリンカーを介してmRNA の3'末端に連結し,これを無細胞蛋白質合成系で翻訳させると,mRNAと結合したピューロマイシンは合成されたペプチド鎖のC末端に取り込まれる。その結果,mRNAと翻訳された蛋白質が共有結合で連結した分子が形成されるのである。例えば,この技術を利用して対応付け分子のライブラリーを調製後,目的の物質に対する選択操作とその核酸部分の増幅による再ライブラリー化の工程(濃縮サイクル)を繰り返すことによって,この物質に対して相互作用する蛋白質を高度に濃縮し,これを同定することが可能となる。さらにこの技術は全ての操作を無細胞系で行うため,細胞を使用する際に生じる形質転換効率等の制限が全く生じない。そのため,一度に大規模な分子数を有する核酸ライブラリー(約1013分子_から_)を対象に,簡便かつ迅速に目的とする蛋白質を選択し,これを増幅することができる。本発表ではこの技術の応用例として,創薬ターゲット分子に対して相互作用する蛋白質の解析例,薬剤標的蛋白質の解析例を紹介するとともに,蛋白工学的手法として機能性ペプチドを探索したり,高活性な蛋白質を創造したりするための様々な応用について紹介する。
著者
今井 直 堤 康央 長野 一也 杉田 敏樹 吉田 康伸 向 洋平 吉川 友章 鎌田 春彦 角田 慎一 中川 晋作
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.151, 2007

現状のプロテオーム解析では、疾患組織あるいは対照となる健常組織由来の蛋白質サンプルを二次元ディファレンシャル電気泳動(2D-DIGE)法で分離した後に、質量分析計を用いて個々の発現変動蛋白質を同定することにとどまっている。そのため、同定された膨大な数の変動蛋白質の中から、発現や変動を詳細に機能解析することで、病態の発症や悪化に中心的な役割を果たしている創薬ターゲット・蛋白質を効率よく絞り込むこが次のステップとして期待されている。その点において、ELISAなどの抗原-抗体反応を利用した解析手法は、特定蛋白質を特異的かつ高感度に検出できることから、プロテオミクス研究においても蛋白質の機能解析を進める上で極めて有用である。しかし、従来のように数十g以上の蛋白質を動物個体に免疫する必要があるハイブリドーマ法では、上述の2D-DIGEによって得られる極微量(数十ng程度)かつ多種類の蛋白質サンプルに対する抗体作製に対応することは不可能である上、この方法ではプロテオミクスの最大の利点である網羅性を著しく損なってしまう。そこで我々は、これらの課題を克服するために、ファージ抗体ライブラリと2D-DIGE法を組み合わせた新しいモノクローナル抗体(Mab)作製技術の確立を試みた。一般に、ファージ抗体ライブラリからのMabのセレクションは、プラスチックプレートなどに固定化した数g~数百g程度の標的抗原に対してファージ抗体ライブラリを反応させ、抗原に結合するファージのみを選択・増幅する、という方法(パンニング法)を用いる。既に我々は、ニトロセルロースメンブランを固相化担体として利用することで蛋白量がわずか0.5 ng程度であっても効率よくMabを選別できるパンニング法の開発に成功している。今回は、ヒト乳癌・乳腺細胞株の2D-DIGE解析により得られた発現変動スポットから蛋白質を抽出し、この蛋白質をダイレクトに抗原として用い、メンブランパンニングを行った。その結果、メンブランパンニング法を適用することで、今回得られた全てのスポットに対してMAbを単離することが出来た。以上、2D-DIGEによる変動蛋白質の同定と抗体作製を一挙に達成できる本手法は、プロテオミクスによる創薬ターゲットや疾患の早期診断・治療マーカーの同定に大きく貢献するものと期待される。
著者
大橋 和也 前田 忠計 小寺 義男 丸橋 正弘 大谷 真理 大石 正道 伊藤 一郎 佐藤 絵里奈 大草 洋 松本 和将 馬場 志郎
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.18, 2009

シスプラチンやタキソールは優れた抗腫瘍効果から、悪性腫瘍の治療において頻用されている抗癌剤であり、膀胱癌においても一般的な化学療法に組み込まれている。これら抗癌剤の有効性は証明されているものの、徐々に抵抗性を示す症例を経験する。これは膀胱癌がシスプラチンやタキソールに対して耐性を獲得したことが原因の一つとして考えられる。そのため、これら抗癌剤に対する耐性獲得機序の解明が求められている。しかし、膀胱癌において薬剤耐性を獲得する機序は未だ不明な点が多い。そこで、我々は予後因子としてのマーカーの発見ならびに薬剤耐性獲得機序解明を目的として研究を進めている。本研究では、膀胱癌細胞株 T24 、膀胱癌細胞株 T24 より樹立されたシスプラチン 26.6μM の培地で成育された T24 シスプラチン耐性株を用いた。これらを二次元電気泳動法により定量分析し、シスプラチン耐性関連タンパク質を探索した。二次元電気泳動法は一般的な方法よりも高分子量タンパク質を分析可能なアガロース二次元電気泳動法を用いた。二次元目の SDS-PAGE 用ゲルのアクリルアミド濃度は 12% 均一ゲルと、高分子領域の分離能が高い 6-10% 濃度勾配ゲルを用いた。また、二次元電気泳動ではゲル毎の泳動パターンの差が問題となるので、再現性確認のため、T24 、T24 シスプラチン耐性株を各 3 回独立に電気泳動し、解析した。T24 と T24 シスプラチン耐性株を比較分析した結果、12% 均一ゲルにおいて約 300 スポット中 22 スポット、6-10% 濃度勾配ゲルにおいて約 150 スポット中 9 スポットのシスプラチン耐性獲得関連タンパク質を検出した。これらを LC-MS/MS により分析した結果、最終的に 25 種類のタンパク質の同定に成功した。同定されたタンパク質はシスプラチン耐性関連として報告されているものが 3 種類、報告されていないものが 22 種類であった。現在、22 種類のタンパク質から T24 シスプラチン耐性株において増加した 5 種類、消失した 1 種類、大きく減少した 2 種類の合計 8 種類のタンパク質に注目し、発現量解析を Western Blotting 法により行っている。発表ではこれらの結果をタキソール耐性株の分析結果と共に報告する。