著者
仲尾 友貴恵
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.23-40, 2019-02-01 (Released:2021-07-10)
参考文献数
24

自らの労働で生計を立てられない人々による経済活動である「物乞い」は、「自分がいかに悲惨な境遇にあるかを、金を恵んでくれる側にアピールすること」と同視されてきた。それを行う人々である「物乞」については、対面する人々とはほどんど会話もせず、困窮性の訴えに徹する存在というイメージが共有されてきた。しかし、こうしたイメージに反し、タンザニアのダルエスサラームという都市の路上では、彼らが朗らかに通行人と挨拶を交わし、談笑に興じる姿が見られる。 物乞いという営みの理論的説明を試みた先行研究は、それを匿名的関係性においてなされると前提して議論を蓄積してきた。しかし、この前提は人類学的研究をはじめとする経験的知見と矛盾する。先行研究は物乞いを「匿名的関係性において困窮性をアピールする営み」と「顔馴染みから支援を受けられる営み」とする二つの見解を提示したが、これらの接続作業は十分になされていない。 本稿はダルエスサラームの住民が一年以上に亘り同じ場所で行う物乞いに着目し、ここでみられる物乞―非物乞のやり取りを相互行為論的知見に照らして解釈することで、先行研究の溝を埋める作業に貢献する。本稿の分析から、常に相手を適切に尊重した所作を返すことで出会った相手との関係性をより友好的なもの、つまり、より継続可能なものへと維持または変化させる営みとしての物乞いの側面が明らかとなった。住民が継続的に行う物乞いとは、匿名的関係性を個別的なものに変化させ、その個別性の獲得によって、贈与が含まれる物乞いという営みの継続可能性を高めていくような、具体的文脈に即した個別的な相互行為の集積である。