著者
石川 大輔 仲澤 一也 鴇田 拓也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101186, 2013

【目的】 脊柱アライメントの変化は、整形的疾患や内科的疾患、また心理面に影響を及ぼし、日常生活動作や生活の質の低下に関与すると報告されている。特に胸椎後彎角の変化は脊柱や骨盤の障害に大きな影響を及ぼすと考える。 脊柱アライメントの改善を目的に用いるツールの1つとして、ストレッチポールがある。 ストレッチポールエクササイズ(以下SPex)が与える影響として先行研究では、杉野らによる脊柱リアライメント効果(2006)、秋山らによる胸郭機能改善(2007)などの報告が散見される。 また、胸椎に関しては、蒲田らがSPex前後において胸郭のスティフネス低下、胸椎伸展へのリアライメントなどの効果があると報告している。 しかし、SPex前後での胸椎可動性の変化について調査した研究は少ない。 そこで、本研究の目的は、SPex前後で胸椎後彎角に与える影響として中間位・屈曲位・伸展位の3つの肢位で調査することである。【方法】 対象は健常成人、10名(男性10名 平均年齢33.5±7歳)とした。本研究ではSPex前後に安静立位姿勢から中間位・屈曲位・伸展位の順で胸椎後彎角を計測した。 安静立位姿勢の規定は、我々の先行研究に準じ、矢状面から観察し耳孔と大転子が同一垂線上になるようにし、足幅は肩幅とし、両手は胸骨部を両手が重なるように触る肢位とした。 胸椎可動性の計測は、自在曲線定規を使用し、予めC7とTh12をランドマークしてから、自在曲線定規を胸椎カーブに当て計測をおこなった。 自在曲線定規のデータは、方眼紙上にC7棘突起とTh12棘突起の位置に印をして胸椎カーブをトレースし、肢位ごとにトレースをおこなった。 胸椎後彎角度については、トレースした用紙から長さと高さを算出し、Milneらの計算方法に準じて後彎角θを求めた。また、屈曲位と伸展位の差をトータルアークとした。 ストレッチポールの課題には、日本コアコンディショニング協会が推奨しているベーシックセブンを使用し、10分程度実施した。 統計処理として、SPex前後で中間位・屈曲位・伸展位の胸椎可動性及びトータルアークをt検定で比較した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究への参加についてヘルシキン宣言に基づき、説明書および同意書を作成し、研究の目的、進行および結果の取り扱いなど十分な説明を行った後、研究参加の意思確認を行った上で同意書へ署名を得た。【結果】 SPex前後で胸椎後彎角は中間位で35.4度から28.1度、屈曲位で50.3度から44.8度、伸展位で26.8度から21.8度と有意に減少した。(p<0.05) トータルアークは、23.7度から22.9度と有意な変化は見られなかった。(p=0.8)【考察】 本研究の結果より、SPex前後で中間位、屈曲位、伸展位の胸椎可動性を有意に減少させた。 この結果は、SPexで胸郭可動性を改善させ、肋椎関節や肋横突関節のモビライゼーション、胸筋群のリラクゼーション効果により胸椎可動性が変化したと考える。また、各肢位において胸椎可動性が減少したにも関わらず、トータルアークが有意な変化が見られなかったことは、立位姿勢において、胸椎アライメントが伸展方向へのシフトしたことも示唆される。 さらに成書にSPexが身体に及ぼす影響として、胸椎伸展へのリアライメントや胸椎のモビライゼーションなどの効果があることを示唆しており、我々の研究結果からも同様な結果であることが証明できた。 今後の課題として、SPexの即時効果だけではなく長期的効果の研究や高齢者や脊柱疾患を有する者などの変化についても行なっていきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究でSPexは胸椎可動性の後彎角および可動性に影響を与えることが示唆された。このことは、胸椎後彎が強いことにより障害や伸展可動域の不足などにSPexを適用することで、臨床上有益な効果が期待できると考える。