著者
仲田 光樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の最重要課題であった「非平衡グリーン関数に基づく微視的なスピンポンピング理論の構築」については初年度に達成することができた。そこで最終年度はその発展研究「準平衡マグノン凝縮中の超スピン流の電磁力学的制御方法の確立:幾何学的位相を活用して」についてバーゼル大学(スイス)に長期滞在し、Daniel Loss教授、 Pascal Simon教授(パリ11大学)、 Kevin A. van Hoogdalem博士と共同で研究を発展させた。強磁性絶縁体中の巨視的量子効果である「マグノン凝縮」はある種の「スピン波の超伝導体」と位置づけることができる。さらに従来の超伝導体にはない、磁気双極子であるマグノンに特有の特徴としてAharonov-Casher位相と呼ばれる一種のBerry位相が挙げられる。この種の幾何学的位相は電場を通じて制御可能であることに着目し、マグノン凝縮流、特に超スピン流の一種である永久マグノン凝縮流の電磁気的制御方法および直接検出方法を理論的に提案した。この研究は近年発展目覚ましいスピントロニクス(マグノニクス)分野で注目されている超スピン流の一種である`Magnon-Supercurrent'のさきがけとなるものである。現在はドイツのグループによって2015年に世界で初めて観測されたMagnon-Supercurrentの実験結果を踏まえ、「熱的Magnon-Supercurrent」の理論を構築している。マグノン凝縮状態は巨視的量子状態であり、情報の損失に対して安定であることが期待されるため、量子スピントロニクスデバイス開発へ向けての基礎研究にも大きく貢献することが期待される。現在はこれらの研究成果を糧に、更なる発展研究として「マグノン超流のac/dc変換機構」および「熱的マグノン流の熱磁気的性質」の微視的解明にも取り組んでおり、着実な成果を得ている。