著者
伊井 俊貴
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.353-362, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
9
被引用文献数
2

脱フュージョンはアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)における六つの構成要素の一つであり、言語の意味が行動に影響を及ぼす効果を減らして、言語以外の行動基準がその瞬間によりよく機能できるようにすることを目的とする。本論文では脱フュージョンで「漢字」を利用した試みを紹介する。症例は50歳の慢性的なうつ病の患者で主訴は常に恐怖心があり落ち着かないことであった。全12セッションを行った。本症例ではセッションを通じて顕著な改善を認めた第3回目の脱フュージョンで工夫した点について論じる。まず、フュージョンしている言葉「落伍者」を繰り返し声に出してもらうワードリピーティングを行った後「楽娯社」という漢字を当てて再びワードリピーティングを行った。漢字を当てた後のほうが単に繰り返しただけのときよりも「言葉の意味が抜けた」と話し、Acceptance & Action Questionnaire-IIでも第3回以降に大きく改善を認めた。ワードリピーティングにおいて「漢字」を使用することが脱フュージョンの効果を高める可能性が示唆される。