著者
奥田 健次 井上 雅彦 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.7-22, 1999-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究では、文章中の登場人物の情緒状態の原因を推論する行動について高次条件性弁別の枠組みから分析を行った。そして、中度精神遅滞を持っ発達障害児2名を対象に、文章課題において登場人物が表出している情緒状態に対して、その原因について適切な感情表出語を用いて応答する行動を形成した。そのために、課題文に対して感情表出語カードを選択する条件性弁別訓練が行われ、さらに文中の感情を引き起こした出来事と感情表出語を組み合わせて応答するための条件性弁別訓練が行われた。その結果、課題文の登場人物の情緒状態にっいて、原因となる出来事と感情表出語を組み合わせて応答することが可能となり、未訓練の課題文に対しても適切な応答が可能となった。これらの結果から、発達障害児に対する文章理解の指導において条件性弁別訓練の有効性が示され、さらに文章理解を促進するために文中の文脈刺激への反応を強化することの重要性が示唆された。
著者
三田村 仰 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.257-270, 2009-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

発達障害児の保護者は子どもが通う学校の教師に対し、しばしば子どものニーズに応じた支援について依頼・相談を行う。より円滑で効果的な教師とのコミュニケーションを目指し、5名の発達障害児の保護者を対象に機能的アサーション・トレーニング(以下、トレーニング)を行った。トレーニングは、間接表現をも丁寧な自己表現として教える機能的アサーションの枠組みに基づいていた。保護者から得たアセスメント結果をもとに、トレーニングでは、保護者から教師への機能的なコミュニケーションを目標として、参加者に丁寧な表現と具体的な表現のスキルをトレーニングした。トレーニング効果は、担任教師との面談場面をイメージしての面談ロールプレイ・アセスメントをもとにABデザインで評価された。その結果、5名の参加者いずれも介入期においてべ一スライン期よりも丁寧で具体的な依頼・相談を行っており、介入期の依頼・相談がべ一スライン期の依頼・相談よりも望ましいと現役教師によって評定された。
著者
土屋 政雄
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.107-116, 2015-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
12

質問票による測定指標についての尺度研究は、医療や心理学の分野をはじめ、認知・行動療法の研究においても広く行われてきた。しかし類似概念尺度の乱立や、尺度は開発されたものの科学的に明らかにすべき尺度特性が十分に検討されていないなどの問題がある。こうした現状を変えるため健康における測定の分野を中心にCOSMIN(COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments)チェックリストがさまざまな領域の研究者らの合意に基づき作成された。本稿では、COSMINチェックリストの概要を紹介するとともに、これに準拠し尺度研究において失敗しない研究計画を立てるため、特に重要な四つの留意事項((1)例数設計、(2)再検査信頼性・測定誤差の評価、(3)仮説の設定、(4)反応性・解釈可能性の評価)の解説と、その具体的な記載事例を紹介することを目的とする。
著者
大対 香奈子 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.43-55, 2010-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
7

本研究の目的は、小学3年生の学級を対象に感情理解・感情統制の訓練を含めた学級単位の社会的スキル訓練(SocialSkillsTraining;SST)を実施し、その結果、標的スキル、仲間からの受容度、および主観的な学校適応感に向上がみられたかを検討することであった。対象は3年生の2学級であり、学級Aを介入群(η=37)、学級Bを対照群@=35)とした。学級Bの児童は通常の授業を受けた。学級Aの担任教師から報告された仲間関係の問題を行動分析した結果、「感情理解スキル(感情読み取り・感情統制)」「頼むスキル」「断るスキル」を標的スキルとした。SSTの結果、介入群では標的スキルの獲得が確認され、学級全体の仲間関係にも改善がみられた。また、特に介入前に学校適応感が低かった児童について、対照群では学校適応感に有意な変化がみられなかったのに対し、介入群では介入から3か月後のフォローアップにかけて学校適応感に向上がみられた。
著者
谷 晋三
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.13-18, 2015-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
5

認知行動療法においては、臨床的な症例報告は多くの臨床家に重要な情報を提供する。しかし、雑誌「行動療法研究」に掲載される論文の数は限られている。本研究では二つのガイドライン(Ortega & Rodriguez, 2008; Gagnieretal., 2013)が推奨する臨床的な症例報告の目的とその内容を紹介している。Robey (2004)は臨床研究における五つのフェイズモデルを提案している。臨床的な症例報告はそのフェイズI、IIとIVに含まれている。Robeyの五つのフェイズモデルでの臨床的なケースレポートの目的について最初に紹介する。次に、二つの臨床的なガイドライン、CAREガイドラインとGuidelines for clinical reports in behavioral clinical psychologyを紹介し、最後に本誌「行動療法研究」の編集者の一人として、読者に臨床的な症例研究の投稿することを推奨する。
著者
山本 哲也 山野 美樹 田上 明日香 市川 健 河田 真理 津曲 志帆 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.33-45, 2011-01-31 (Released:2019-04-06)

本論考では、うつ病の再発に影響を及ぼすと考えられる認知機能障害について概観し、認知機能障害に焦点を当てた心理学的介入方法の有用可能性について考察を行うことを目的とした。まず、うつ病の寛解者において、記憶、注意、遂行機能の障害が持続する可能性に着目し、これらが寛解者の適応にもたらす影響について考察した。次に、認知機能障害のアセスメント、および認知機能障害自体を治療対象とすることの有用性について検討を行い、従来の認知行動療法にこれらの神経心理学的アプローチを加えることによって再発予防効果が増大する可能性を提起した。最後に今後の課題として、(1)対象サンプルや方法論の統制の必要性、(2)薬物療法が寛解後の認知機能に及ぼす影響について整理する必要性、(3)うつ病の寛解者が示す認知機能障害の特徴に特化した介入方法の開発と効果検討の必要性について論じた。
著者
谷口 敏淳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.247-257, 2012-09-30 (Released:2019-04-06)
参考文献数
19
被引用文献数
1

自己臭恐怖症とは、自分は悪臭を放っているという思考から生じる、対人恐怖の一病型とされる。しかし、DSMやICDにおいて明確に分類されておらず、認知行動療法による症例報告もわずかである。本研究の目的は、自己臭恐怖症により社会参加が困難であった男性に対して行った認知行動療法の治療過程より、その効果を検討することであった。アセスメントの結果、さまざまな外的刺激に対して"自分は臭っている"と解釈する一貫した認知と、社会的状況への回避行動により、不適応状態が形成されていると考えられた。そこから、症状の低減と社会適応を目標に、標準的な認知再構成法に加え、認知変容および回避行動への対処に向けた複数の行動実験、対人場面を想定したSSTなどを行った。その結果、全16回の介入により、症状の低減と社会活動の広がりを認めた。本例より、自己臭恐怖症への介入における認知行動療法の有効性が示唆された。
著者
稲田 尚子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.117-125, 2015-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
11

患者報告式アウトカム尺度が翻訳されることにより、研究成果の国際比較および国際共同研究が可能となる。翻訳された尺度から得られるデータの質は、その翻訳の正確さに依存する。ISPOR(International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research)タスクフォースによるガイドラインは、患者報告式アウトカム尺度の翻訳に関する質を担保し、ひいては研究報告の質を高めるうえで有用となる。本稿では、当該ガイドラインに従って、推奨される10の手続き((1)事前準備、(2)順翻訳、(3)調整、(4)逆翻訳、(5)逆翻訳のレビュー、(6)調和、(7)認知デブリーフィング、(8)認知デブリーフィング結果のレビューと翻訳終了、(9)校正、(10)最終報告)について解説した。また、当該ガイドラインに基づく具体的な記載事例の紹介を行い、尺度翻訳の際の留意事項について考察した。
著者
佐藤 正二 佐藤 容子 高山 巌
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.71-83, 1998
被引用文献数
1

本研究は、3名の引っ込み思案幼児の社会的スキルの長期的維持を出現させるために、(1)社会的スキル知識を促進する訓練室でのコーチング、(2)社会的スキル実行を促す自由遊び場面でのコーチング、(3)トレーナーによる構造化された遊び場面の設定、(4)訓練場面への仲間の参加とを組み合わせた社会的スキル訓練(SST)を構成した。15セッションからなるSSTを受けた訓練対象児は、訓練終了後、仲間に対する働きかけ、仲間からの働きかけ、協調的行動を増加させ、社会的孤立行動を減少させた。さらに、一年後のフォローアップ査定では、3名中2名の訓練対象児が、訓練効果を維持していることが分かった。これら2名の訓練対象児のポジティブな行動変容は、担任教師による社会的行動評定得点にも反映されており、本研究で実施されたSSTが長期的維持を効果的に促進していたことが実証された。
著者
坂野 朝子 武藤 崇 酒井 美枝 井福 正貴
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.123-138, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本研究の目的は、慢性腰痛患者(40歳代・女性)に対するアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の治療プログラムの効果を検討することであった。プログラムは全10回であり、ABデザインにより、患者の価値に基づく活動や生活の質に及ぼす効果を調査した。その結果、患者の価値に基づく活動が増加した。また、SF-36の全体的健康感、活力、役割機能(精神)、心の健康の得点がプログラム終了後に増加し(RCI=3.23, 4.84, 2.08, 2.12)、身体機能の得点が4カ月後フォローアップに増加した(RCI=2.89)。さらに、腰痛による生活障害度を測るRDQの得点も減少した(RCI=2.97)。そのほか、痛みに対する破局的思考、不安や抑うつ、ACTのプロセス指標の得点も有意に改善し、4カ月後フォローアップまで維持した。これより、ACTの治療プログラムは、この慢性腰痛患者の痛みや痛みに関する思考・感情が行動に及ぼす影響を低減させ、機能的な活動を増加させることに有効であったと考えられる。
著者
岡嶋 美代 原井 宏明
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.171-183, 2007-09-30

特定の恐怖症の血液・注射・外傷型は血管迷走神経性失神という特有な反応を伴う。これに対し筋緊張とエクスポージャーを用いた行動療法(applied tension)が有用とされる。この論文は注射恐怖の20代女性患者に対する行動療法の報告である。失神の予防が重要であること、重症例に対する治療には工夫が必要であることを論じた。症例は小児期から注射恐怖があり、受診時には注射だけでなく、恐怖対象に関連した写真や医療行為全般を見ること、恐怖対象を表現することばを読み書きすること、話したり聞いたりすること、また思い浮かべることも避けていた。治療当初、筋緊張による血圧維持の練習を行った。次にエクスポージャーの計画を立てた。しかし、恐怖対象に関する話し合いは不可能で、不安階層表は治療者側が作成したものになった。治療目標としていた採血行為が行えるようになるためには、替え歌を利用したことばに対するエクスポージャーと、3回の現実エクスポージャーセッションが必要であった。セルフエクスポージャーをするようになり、1年後は医療従事者としての仕事が可能な水準まで到達した。
著者
土屋 政雄
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.107-116, 2015-05-31

質問票による測定指標についての尺度研究は、医療や心理学の分野をはじめ、認知・行動療法の研究においても広く行われてきた。しかし類似概念尺度の乱立や、尺度は開発されたものの科学的に明らかにすべき尺度特性が十分に検討されていないなどの問題がある。こうした現状を変えるため健康における測定の分野を中心にCOSMIN(COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments)チェックリストがさまざまな領域の研究者らの合意に基づき作成された。本稿では、COSMINチェックリストの概要を紹介するとともに、これに準拠し尺度研究において失敗しない研究計画を立てるため、特に重要な四つの留意事項((1)例数設計、(2)再検査信頼性・測定誤差の評価、(3)仮説の設定、(4)反応性・解釈可能性の評価)の解説と、その具体的な記載事例を紹介することを目的とする。
著者
竹林 由武
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.167-175, 2014-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

観察研究は、無計画に実施すると研究成果の解釈が困難になることが多い。観察研究によって有意味な知見を産出するためには、研究段階で測定誤差や交絡を最小にする必要がある。観察研究の報告法のガイドラインであるSTROBE声明(Strengthening the Reporting of OBservation studies in Epidemiology statement)は、有意味な知見を得るための研究計画を立てる一助となる。本稿では、STROBE声明に準拠し、観察研究の研究計画段階で留意すべき事項((1)研究目的の明確化、(2)研究を実施する科学的背景と論拠の説明、(3)例数設計の実施、(4)信頼性と妥当性のある測定指標の選択、(5)交絡要因の測定)の解説と、その具体的な記載事例を紹介することを目的とする。
著者
稲田 尚子
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.117-125, 2015-05-31

患者報告式アウトカム尺度が翻訳されることにより、研究成果の国際比較および国際共同研究が可能となる。翻訳された尺度から得られるデータの質は、その翻訳の正確さに依存する。ISPOR(International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research)タスクフォースによるガイドラインは、患者報告式アウトカム尺度の翻訳に関する質を担保し、ひいては研究報告の質を高めるうえで有用となる。本稿では、当該ガイドラインに従って、推奨される10の手続き((1)事前準備、(2)順翻訳、(3)調整、(4)逆翻訳、(5)逆翻訳のレビュー、(6)調和、(7)認知デブリーフィング、(8)認知デブリーフィング結果のレビューと翻訳終了、(9)校正、(10)最終報告)について解説した。また、当該ガイドラインに基づく具体的な記載事例の紹介を行い、尺度翻訳の際の留意事項について考察した。
著者
岡島 義 金井 嘉宏 陳 峻雲 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-12, 2007-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、社会不安障害(SAD)を対象として、安全確保行動のひとつである「恐怖場面内での回避行動」を測定する尺度(Avoidance Behavior In-Situation Scale:ABIS)を作成することであった。健常大学生121名とSAD患者10名を対象に、不安喚起場面とその場面内で用いる「恐怖場面内での回避行動」について自由記述による回答を求め、項目を作成した。次に、健常大学生470名とSAD患者46名を対象に自己記入式によるABI尺度を実施した。探索的因子分析を行った結果、2因子28項目が抽出され、十分な信頼性を有していた(α=.90)。妥当性は、内容妥当性と基準関連妥当性の観点から確認された。以上の結果から、ABISは高い信頼1生と妥当性を有することが明らかにされた。
著者
古川 洋和
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.213-222, 2010-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、歯科恐怖症に対する認知行動療法(CBT)の効果研究について展望を行うことであった。文献検索の結果、12編の研究が抽出された。主な結果は、以下のとおりであった。(1)CBTの技法として、エクスポージャー、リラクセーション(応用リラクセーションを含む)、認知的再体制化、ストレス免疫訓練、系統的脱感作が行われていた。(2)すべての治療技法は、治療前後にかけて主要評価項目の値を改善していた。(3)治療後において、エクスポージャーと系統的脱感作は、統制条件と比較して大きな効果サイズが認められた。(4)治療後において、応用リラクセーションは、統制条件と比較して中程度以上の効果サイズが認められた。(5)治療後において、認知的再体制化は、統制条件と比較して中程度以下の効果サイズが認められた。最後に、わが国においても統制研究を行うことの必要性が提示された。
著者
酒井 美枝 伊藤 義徳 甲田 宗良 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-11, 2013-01-31 (Released:2019-04-06)
参考文献数
27

「創造的絶望(絶望から始めよう) : Creative Hopelessness(CH)」とは、不快な私的事象を制御することへの動機づけの低減を目的としたアクセプタンス&コミットメント・セラピーにおける治療段階、および、その介入によって獲得されたクライエントの姿勢を指す。CHの獲得の効果を検討した研究はなく、その理由としてその弁別法がない点が挙げられた。そこで、本研究では、行動分析学における「言行一致」を用いて、CHの獲得を弁別し、その効果を検討することを目的とした。社会的場面への回避傾向の高い大学生17名に対して、CH Rationale(講義とエクササイズ)を実施した。結果として、CHが獲得された言行一致群は他群と比べ、介入後のRationaleに関する習得度が最終的に高くなる傾向が示唆された。また、言行一致群では介入前後で社会的場面への苦痛度や精神的健康が改善することが示された。
著者
松永 美希 鈴木 伸一 貝谷 久宣 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.157-166, 2006-09-30 (Released:2019-04-06)

われわれは、腹痛への予期不安が強い全般性社会不安障害の28歳男性患者を経験した。患者は、他者からの否定的評価を恐れて、10年近く社会的交流を回避していた。この症例に対して、認知行動療法(リラクセーション、社会的スキル訓練SST、認知再構成法、エクスポージャー)を行った。その結果、リラクセーションを用いて不安に伴う身体症状に対処できるようになり、SSTでは、社会的交流に必要な振る舞いを獲得し、認知再構成法やエクスポージャーを通して、不合理な思い込みや他者からの否定的評価に対する不安が低減した。全13回の面接終結後、社会的機能は著しく改善し、フォローアップ期においてもその改善が維持されていた。本報告では、本症例の治療経過と、社会不安障害に対する認知行動療法の効果について検討した。