著者
山本 亮 佐々木 直美 中島 由美 橋本 康子 伊勢 昌弘 吉尾 雅春
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0277-B0277, 2005

【はじめに】<BR> 今回,脳梗塞による注意障害は徐々に改善し,院内生活では問題とならなくなったが,自動車運転において障害が表面化し,結果的には運転を断念した症例を担当した.その注意障害を,テスト上や院内生活時と自動車運転時との差について検討し報告する.<BR>【症例紹介】<BR> 46歳女性,右中大脳動脈領域の広範な梗塞により,左片麻痺・半側空間無視を呈した.発症後約2ヶ月で当院へ転院,理学療法を開始した(以下,初期評価時).発症後4ヶ月頃より1ヵ月半かけて自動車学校にて教習を4回行った.教習終了時では,Brunnstrom stage左上肢2・下肢3,感覚障害は中等度鈍麻であり,日常生活自立度はFIMにて101点で,清拭動作と階段昇降で3~4点,その他は6~7点と自立レベルであった.<BR>【注意障害の変化について】<BR> 半側空間無視:初期評価時は,線分抹消テストでの消し忘れは無かったが,院内生活において左側の部屋や人・物を見落とす場面を認めた.教習終了時には院内生活での空間の障害はみられなくなった.しかし自動車運転時は,左折時に左折した先の左車線を見落とし,大きく膨らんで反対車線に侵入する等を認めた.<BR> 選択性の障害:初期評価時は,日常動作が会話等で容易に中断される場面が多く認められたが,教習終了時の院内生活では行動の一貫性は保たれ特に問題は見られなくなった.自動車運転時では,車の発車時に周囲の確認ばかりを行い,自分でなかなか動き出せない等を認めた.<BR> 分配性の障害:Trail Making Testでは,初期評価時Part A 1分45秒,Part B 4分30秒,教習終了時Part A 1分18秒,Part B 3分5秒と改善を認めた.院内生活では,調理場面にて複数の動作を並行して行えるようになった.自動車運転時では,ハンドル操作に集中すると足でのペダル操作がおろそかになる等の場面を認めた.<BR> また,4回の教習にて運転動作の向上は認められたが,注意障害の改善はほとんど認められずに同じ失敗を何度も繰り返し,最終的に教官の判断にて運転を断念した.<BR>【考察】<BR> 方向性注意については,院内生活には身体動作や時間の余裕があり,意識付けにより代償しているが,自動車運転時では動作が重複することや時間の経過が速いことから,その代償が十分に行えないのではないかと考えた.<BR> 全般性注意については,自動車運転時は院内生活に比べ,対象とする「空間の広さ」や必要となる「情報量の増加」と,その「情報処理の速さ」が同時に要求されるために,注意障害があたかも増悪したような結果になったと思われる.<BR> これらのことより,院内だけで評価やアプローチを行うには注意機能面だけにおいても限界があり,自動車運転などのように,より実際的な場面での評価の重要性を認識させられた.