著者
上野 奨太 髙屋 成利 増田 知子 吉尾 雅春
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.12246, (Released:2022-10-05)
参考文献数
42

【目的】脳卒中患者の歩行練習において,長下肢装具から短下肢装具への移行に要する日数に関連する入院時因子を探索的に調べること。【方法】対象は回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)で長下肢装具を使用して歩行練習を行った片側大脳半球損傷の脳卒中患者200名。長下肢装具を使用した練習日数を目的変数,入院時の各種評価項目を説明変数とする重回帰分析を行って関連する因子を探索した。【結果】下肢Brunnstrom Recovery Stage, Scale for Contraversive Pushing合計点,Functional Independence Measure運動項目および年齢が関連因子として検出された。【結論】回復期病棟入院時の下肢運動麻痺の回復ステージが低く,Pushingの程度が強く,機能的自立度の運動項目が低く,年齢が高いほど,長下肢装具を使用する練習期間が長期に及びやすいことが分かった。
著者
吉尾 雅春
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.110-115, 2022-04-01 (Released:2023-04-15)
参考文献数
5

脳卒中患者において立位で膝関節の伸展保持ができないことは,運動療法の選択の大きな決定因子になる.廃用症候群に陥りやすい遷延性意識障害などの重症例に対しては長下肢装具を用いた立位・歩行による感覚刺激で大脳皮質の覚醒を促す.さらに歩行再建に向けて長下肢装具で膝を固定した上で,股関節に主眼を置いて足関節の動きを伴った積極的な立位・歩行練習を行う.立脚中期~後期に臼蓋から突出した大腿骨頭と伸張された大腰筋とのせめぎ合いこそがヒトの姿勢制御の根幹を作っている.股関節への荷重と筋紡錘の伸張によるこの脊髄小脳路と橋網様体脊髄路の活性化で得られる姿勢制御の場面を作るためには膝の支持性は不可欠である.
著者
佐藤 香緒里 吉尾 雅春 宮本 重範 乗安 整而
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.323-328, 2008 (Released:2008-06-11)
参考文献数
15
被引用文献数
5 1

本研究では,股関節外旋筋群が股関節屈曲に及ぼす影響を検討することを目的とし2つの実験を行った。若年健常男女60名を対象とした股関節回旋角度の違いによる股関節屈曲角度の計測では,股関節内旋角度の増加に伴い股関節屈曲角度は有意に減少し(p<0.001),股関節外旋筋群の伸張が股関節屈曲を制限する因子として考えられた。新鮮遺体1体の両股関節後面各筋を切離するごとに股関節屈曲角度の計測と観察を行った結果,梨状筋と内閉鎖筋に著明な伸張が見られ,これらの切離後に股関節屈曲角度は顕著に増加した。梨状筋と内閉鎖筋は股関節外旋筋であることから,これらが股関節屈曲を制限している可能性があると考えられた。理学療法プログラムとして股関節屈曲可動域を拡大するときには,屈曲角度のみに注目せずに内旋角度にも注意を払う必要があると示唆された。
著者
吉尾 雅春
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.76-79, 2012-04-01 (Released:2014-01-15)
参考文献数
12
被引用文献数
2
著者
吉尾 雅春 西村 由香 松本 拓士 野々川 文子 宇田津 利恵 石橋 晃仁
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0725, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】第39回学術大会において、股関節関節包以外の軟部組織を除去した新鮮遺体骨格標本による股関節屈曲角度が約93度であることを報告した。しかし、生体では股関節周囲の軟部組織の圧迫や筋緊張による抵抗などのために、屈曲角度が減少することが考えられる。そこで、健常成人を対象に、骨盤を徒手的に固定したときと自由にしたときとの他動的股関節屈曲角度を求め、股関節屈曲運動について検討を加えたので報告する。【方法】対象は同意を得た健常成人20名で、平均25.9±3.9歳、男10名、女10名であった。検者Aは対象側股関節内旋外旋・内転外転中間位を保ちながら股関節を他動的に屈曲させた。検者Bは日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じて股関節屈曲角度を測定した。測定は背臥位で両側に対して、Smith & Nephew Rolyan社製ゴニオメーターを用いて1度単位で3回行った。測定1:検者Aが反対側の大腿を固定し、対象側股関節を最大屈曲させ、角度を測定した。測定2:両側股関節を同時に最大屈曲したときの角度を求めた。測定3:まず、股関節屈曲運動に伴って骨盤が後傾しないように、閉眼した検者Cが上前腸骨棘から腸骨稜にかけて徒手的に把持して固定した。検者Aが対象側の股関節をゆっくり屈曲させ、検者Cによる骨盤固定の限界点で屈曲角度を測定した。測定3の値は骨盤の動きの制動に影響される可能性が大きいため、3回測定のICCを求めて再現性の検証を行った。統計学的有意水準は0.05とした。【結果】全員を対象とした測定3の3回のICCは、右0.909、左0.830で再現性は高かった。各測定において有意な左右差がなかったので右について提示する。他動的股関節屈曲3回の平均は測定1が133.1±9.1度、測定2が138.3±7.2度、測定3が70.4±9.0度であった。各測定間で相関はみられなかった。腰椎の動きや骨盤後傾角度などを主に表すと考えられる測定1から測定3を引いた角度Fは62.8±10.6度、測定2から測定3を引いた角度Gは68.0±11.6度であった。角度F、角度Gは測定3の角度との間にそれぞれ負の相関(r=-0.58、-0.78)を認めた。また、角度Fは測定1の角度と正の相関(r=0.59)を、角度Fと角度Gは測定2の角度と正の相関(r=0.50、0.63)を示した。【考察】骨盤をしっかり固定したときの他動的股関節屈曲を示す測定3の角度は、言うなれば「寛骨大腿関節」の最大屈曲角度である。右では股関節屈曲角度133度のうち、寛骨大腿関節は平均70度、腰椎の動きや骨盤後傾を含むその他の角度は平均63度であった。軟部組織を除去した新鮮遺体の寛骨大腿関節が93度であったことから、20度余が軟部組織のための角度と考えられる。これらの特徴を考慮しながらROMテストや運動療法を行う必要がある。
著者
吉尾 雅春 村上 弦 西村 由香 佐藤 香織里 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0826, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】座位で骨盤の傾斜角度を変えて,屍体の大腰筋腱を他動的に牽引して股関節を屈曲する際の張力を調べることによって,座位における大腰筋の機能について検討した。【方法】ホルマリン固定した屍体10体で,明らかな骨変性のない17股関節,男性10股関節,女性7股関節を対象とした。第11,12胸椎間で体幹を切断し,脊椎,骨盤を半切,膝関節で離断,大腰筋腱,股関節の関節包,各靱帯のみを残し,骨格から他の組織を除去して実験標本を作製した。背臥位で両側の上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ面が実験台と水平になるように,実験台に骨盤をクランプで固定した。実験台は股関節部分で角度を任意に調節できるようにし,床面と水平になるように設置した。骨盤側の台を座位方向に起こして,骨盤長軸と大腿骨とで成す股関節屈曲角度を0度,15度,30度,45度,60度,75度,90度に設定した。それぞれの角度で大腰筋腱を起始部の方向から徒手的に牽引して,股関節が屈曲し始めたときの張力を測定した。張力の測定にはロードセル(共和電業,LU-20-KSB34D)を用い,センサーインターフェイスボード(共和電業, PCD-100A-1A)を通してパーソナルコンピュータで解析して求めた。大腿骨の重量や長さなどの個体因子を排除するために,股関節屈曲角度0度での張力を1として,張力の相対値を求めて検討した。牽引時の主観的抵抗感も検討因子に加えた。統計学的検討はt検定により,有意水準を5%未満とした。【結果】各角度での張力の相対値は0度:1.00,15度:1.05±0.08,30度:1.04±0.11,45度:1.07±0.12,60度:1.25±0.11,75度:1.44±0.15,90度:1.82±0.29であった。15度と30度との間で差が認められなかった以外は,0度から45度まで有意に張力は微増,60度,75度で著明に増加,90度で張力は激増し,60度以上での張力はすべての角度との間で有意差がみられた。牽引時の主観的抵抗感は60度以上で強く,75度でかなり強さを増し,90度では股関節屈曲が困難なほど極めて強い抵抗があった。【考察】第40回大会で骨盤を固定した健常成人の他動的股関節屈曲角度が約70度であることを報告した。主観的抵抗感も加味すると,通常の生体座位における自動的股関節屈曲に75度,90度で得られた張力を求めるとは考えにくい。座位で大腰筋を用いて股関節を自動屈曲するためには骨盤後傾位が効率的で,骨盤前傾位では股関節を屈曲することが困難になる。逆の視点で考えれば,骨盤後傾位で体幹を伸展した座位姿勢を保持するためには下肢が挙上しないようにハムストリングなどの作用が求められるが,前傾位では下肢は挙上しにくいために大腰筋の作用によって体幹伸展保持が保障されるという,60度を境にした役割の切り替えがなされる筋機能を有していると考えられた。
著者
田村 哲也 吉尾 雅春
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Be0008, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 放線冠梗塞例における歩行やADLの予後を良好とする先行研究は幾つか散見されるが、その経過に難渋する場合も珍しくはない。放線冠梗塞は他の主幹動脈閉塞に伴う梗塞と比較して病巣のサイズが小さいため軽症に留まることもあるが、神経ネットワークを考慮すれば病巣の局在がどの位置に存在するかは重症度を左右する重要な因子になると考える。今回、放線冠梗塞例の病巣の局在と運動機能を検討し新たな障害の解釈と治療戦略に関する知見を得ることができたので報告する。【方法】 当院に入院した発症後2ヶ月未満の初発放線冠梗塞13例(平均年齢68.5±13.2歳、男性7例、右損傷8例)を対象とした。なお1)20mm以上の梗塞、2)内包におよぶ損傷の進展、3)不明瞭な病巣を除外条件とし、それを満たさない例は予め対象外とした。画像所見は入院時に撮影したCT画像を用い(30.7±14.0病日撮影)、病巣の最大径が確認できた脳梁体部レベルのスライスを採用した。病巣の局在はSong YMの方法に準じ、側脳室外側の最前部(A)と最後部(P)の距離AP、病巣の中心(L)と最後部(P)の距離LPを計測し、LP/APから矢状面における局在を特定した(Anteriority index:A index)。水平面の局在は島皮質(I)と側脳室壁(V)の距離IV、病巣の中心(L)と側脳室壁(V)の距離LVを計測し、LV/IVから特定した(Laterality index:L index)。運動機能の調査は診療録より退院時期に実施した下肢Brunnstrom stage(13例)、Time Up and Go test(11例)の評価結果を採用した(Br-stage:123.2±47.5病日、TUG:110±52.2病日評価)。その他、高次脳機能障害や下肢感覚障害の有無も追加して調査した。統計学的分析は対応のないt検定およびwelch検定を用い有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 対象全例における病巣の最大径は平均13.5±4.7mmで、病巣の局在を示すA indexおよびL indexは0.40~0.70(平均0.54±0.1)、0.15~0.47(平均0.38±0.1)の範囲であり、側脳室近傍の中央付近に病巣は集中した。運動麻痺が残存(Br-stage6未満)した6例のA indexは0.40~0.64(平均0.53±0.1)の範囲であった。しかし同様の範囲でも最大径が15mmに満たないラクナ梗塞例やL indexが0.45以上で外側に病巣が位置する4例は運動麻痺を認めなかった。次にTUGが13.5secの基準値(Shumway-cook)に満たない6例のA indexは0.42~0.64、L indexは0.36~0.46であった。運動麻痺の残存を認めない7例におけるTUG基準値clear群(4例)と非clear群(3例)の病巣の位置関係を比較するとclear群がA index:0.53~0.70、L index:0.15~0.39、非clear群はA index:0.42~0.50、L index:0.45~0.46であり、A indexに有意差を認めた。半側空間無視やpushing現象を有する例は存在せず、下肢感覚障害は2例に認めたが非clear群にその該当例はなかった。【考察】 調査の結果、下肢に運動麻痺が残存する例の病巣はA indexにおいて平均0.53±0.1に集中した。同様の手法で調査したSong YMの結果と比較して病巣が前方に位置した理由としては、Song YMは調査対象を構音障害例、上肢、下肢単麻痺例の3群で比較していることが要因として考えられる。いずれにしても側脳室近傍の中央付近の放線冠を皮質脊髄路が通過することを示唆する本結果は既存の報告と一致する。またラクナ梗塞例やL indexが0.45以上で外側に病巣が位置する例は運動麻痺が残存しなかったことからは皮質脊髄路の直接的な損傷を免れた可能性が推察され、予後を踏まえた治療の一助になると考える。次に運動麻痺の残存を認めない7例におけるTUG基準値clear群と非clear群の病巣の位置関係の比較では、非clear群は病巣が有意に後方に位置すると同時に傾向としてclear群よりも外側に局在することが示唆された。TUGは動的バランスの指標であり、バランス機能の基盤は運動出力系、感覚入力系、予測機構や適応機構等の姿勢制御を支える神経ネットワークに集約される。非clear群に運動麻痺や感覚障害を有する例がないことを考慮すると、バランス障害の背景に高次な神経ネットワークの損傷が関与している可能性が高い。特に非clear群の病巣として集中した側脳室近傍の放線冠の後外側は線条体の上部に位置する。よって運動関連領野および頭頂連合野を起始する皮質線条体投射の損傷の関与を仮定するとバランス機能の問題が誘発されると考えられ、非clear群がTUGの基準値を満たさない要因になったと推察される。【理学療法学研究としての意義】 画像所見は障害の解釈を深めると共に治療戦略を抽出するための一助になるが、神経ネットワークの理解がなければその活用は容易でない。また病巣のサイズだけでなく位置にも着目し症候との関係を分析する取組みは、効果的かつ要素還元的な治療戦略を導くことを可能にすると考える。
著者
上野 奨太 髙屋 成利 増田 知子 吉尾 雅春
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.361-366, 2022-10-20 (Released:2022-10-20)
参考文献数
42

【目的】脳卒中患者の歩行練習において,長下肢装具から短下肢装具への移行に要する日数に関連する入院時因子を探索的に調べること。【方法】対象は回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)で長下肢装具を使用して歩行練習を行った片側大脳半球損傷の脳卒中患者200名。長下肢装具を使用した練習日数を目的変数,入院時の各種評価項目を説明変数とする重回帰分析を行って関連する因子を探索した。【結果】下肢Brunnstrom Recovery Stage, Scale for Contraversive Pushing合計点,Functional Independence Measure運動項目および年齢が関連因子として検出された。【結論】回復期病棟入院時の下肢運動麻痺の回復ステージが低く,Pushingの程度が強く,機能的自立度の運動項目が低く,年齢が高いほど,長下肢装具を使用する練習期間が長期に及びやすいことが分かった。
著者
佐藤 香緒里 吉尾 雅春 宮本 重範 乗安 整而
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.323-328, 2008-04-20
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究では,股関節外旋筋群が股関節屈曲に及ぼす影響を検討することを目的とし2つの実験を行った。若年健常男女60名を対象とした股関節回旋角度の違いによる股関節屈曲角度の計測では,股関節内旋角度の増加に伴い股関節屈曲角度は有意に減少し(p<0.001),股関節外旋筋群の伸張が股関節屈曲を制限する因子として考えられた。新鮮遺体1体の両股関節後面各筋を切離するごとに股関節屈曲角度の計測と観察を行った結果,梨状筋と内閉鎖筋に著明な伸張が見られ,これらの切離後に股関節屈曲角度は顕著に増加した。梨状筋と内閉鎖筋は股関節外旋筋であることから,これらが股関節屈曲を制限している可能性があると考えられた。理学療法プログラムとして股関節屈曲可動域を拡大するときには,屈曲角度のみに注目せずに内旋角度にも注意を払う必要があると示唆された。<br>
著者
吉尾 雅春 西村 由香 村上 弦 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0922, 2004

【目的】 MRI等を用いて股関節屈曲角度の計測結果がいくつか報告されているが,いずれも骨盤の固定に問題を残している。そこで新鮮凍結遺体を用いて,骨盤を機械的に固定した状態で股関節の屈曲角度を求め,制限要因などについて検討したので報告する。<BR>【方法】 札幌医科大学および韓国カトリック大学に献体された平均年齢74.1歳(45~89歳)の新鮮凍結遺体男性11体女性5体21股関節を解凍して用いた。変形性股関節症や骨折の既往を視認できたものは対象から外した。遺体から骨盤と大腿を切離し,股関節関節包以外の軟部組織をすべて除去した。上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ線が固定台と水平になるように台上に骨盤を載せ,クランプを用いて固定した。まず股関節内旋外旋・内転外転中間位(中間位)で検者Aが大腿骨を持って制限があるまで股関節を屈曲させ,検者Bがそのときの最大角度を測定した。さらにそこから股関節を最大外転したとき(外転位)の最大屈曲角度を求めた。屈曲角度は骨盤長軸を基本軸に,大転子と大腿骨外側上顆とを結ぶ線を移動軸にして,Smith & Nephew Rolyan社製ゴニオメーターを用いて1度単位で計測した。最大外転角度は矢状面に対する大腿骨のなす角度とした。角度計測後,股関節関節包を前方から切開して股関節を解放し,屈曲時に何が制限要素になっているか肉眼的に観察した。その後,股関節を離断し,骨盤と大腿骨の形態計測を行い,股関節屈曲角度との関係を調べた。統計学的有意水準は5%とした。<BR>【結果】 股関節中間位における最大屈曲角度は93.0±3.6度であった。外転位の最大屈曲角度は115.4±9.2度で,最大外転角度は23.6±4.7度であった。年齢と中間位での最大屈曲角度との関係はなかった。中間位と外転位での最大屈曲角度は正の相関(r=0.668)を示した。関節包前面を切開して中間位で最大屈曲したとき,大腿骨の転子間線から約1cm骨頭側の頸前面が関節唇に衝突し,それ以上の屈曲はできなかった。前捻角は15.4±5.6度で中間位での最大屈曲角度と正の相関(r=0.521)がみられた。頸体角は124.1±5.0度で,最大屈曲角度との相関はみられなかった。大腿骨頭の直径は476.3±27.7mmで最大屈曲角度との相関はなかった。大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの距離は679.2±49.9mmで,最大屈曲角度と負の相関(r=-0.461)がみられた。<BR>【考察】 骨盤を機械的に固定したときの股関節中間位における屈曲角度は平均93度で,外転位では115度であった。その制限因子は骨性のものであり,前捻角と大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの長さが影響を与えていた。生体では大殿筋等の拮抗筋や股関節前面の軟部組織が制限要因となり,屈曲角度はさらに小さくなる可能性がある。臨床的に参考値としている120~130度のうち,30~40度は骨盤の傾きによることが明らかとなった。
著者
松田 淳子 吉尾 雅春 坂本 美貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0398, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】脳血管障害後、動作が速くなり、そのため姿勢制御が不安定になったり手順を飛び越したりして危険な動作遂行になる患者がいる。宮森はこのような症状を行為のペーシングの障害(以下ペーシング障害)と定義した。今回、脳血管障害発症後、ペーシング障害を来たし日常生活自立が遅れた症例を経験したので報告する。【症例】53歳女性。矯正右手利き。専業主婦。診断:左被殻出血。右片麻痺。既往歴:特記事項なし。現病歴:2003年4月25日発症、他院入院にて開頭血腫除去術施行。同年6月24日当院入院。10月16日当院退院。入院直後のMRI所見では大脳基底核部の前方および上方に出血の広がりがみられた。【身体および神経心理学的所見】入院後1週間(発症後2か月):意識清明。MMSE23/30。運動維持困難、軽度の右半側空間無視、ごく軽度の失語症状あり。他、汎性の注意障害を認める。右半身運動障害はBrunnstrom Stageで右上肢2、手指1、下肢5。感覚は表在、深部ともに右半身に中等度鈍麻あり。入院後4ヶ月(発症後半年):失語症状・半側空間無視消失。汎性注意障害軽減。運動維持困難・運動・感覚障害には変化を認めず。【ペーシング障害と日常生活への影響】入院当初、歩行・更衣・摂食などさまざまな場面で「行動中にスピードが速くなる」現象を認め、歩行中の他患を周囲の状況にかまわず無理に追い越そうとして接触しそうになる、行為を急ぐあまり手順をとばすなど日常生活遂行に支障を来たした。本人に自覚はなく、意識的に行動中に他の課題を提示して同時に処理することを求めると行動のペースが落ちる現象が認められた。自身の状況に関しては「なってしまうから仕方ない」とあまり考える様子はみられなかった。独力での歩行は可能であったが、これらの問題のため自立していなかった。発症後4か月頃より若干の行動面の改善とともに行動のペースが速くなる現象に対して「ゆっくりしているとこわいから速くやろうと思ってしまう」という内観発言が聞かれるようになる。退院前実施した平林らにより考案された「図形のトレース検査」は約1182mm、その他、注意の選択性や転換など遂行機能障害が認められた。主婦業復帰を目指し作業療法士とともに買い物、調理などの指導を行ったが、退院時、セルフケアは歩行レベルで自立するも家事動作は完全な自立にいたらなかった。【まとめ】ペーシングの障害は右半球損傷に多く認められるといわれているが責任病巣については確定的ではない。今回の症例は左半球損傷であったが、矯正右手利きであり側性化に特異性があることが考えられる。また本症例が合併する遂行機能障害、運動維持困難は、ペーシング障害の制御に影響のあることが経過からうかがわれた。大脳基底核は運動のリズム産生にかかわると言われており、前頭葉とこの部位との線維連絡の損傷がこれらの合併症状を含むペーシングの障害を引き出す一因ではないかと考えられた。
著者
小林 彩 吉尾 雅春 岩本 直己 桜井 真紀子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2156, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】小脳梗塞後の症例では、協調運動障害、平衡障害が問題となる事が多いが、今回左上方1/4の視野障害、左側への注意障害、眩暈が大きな問題となった小脳梗塞患者を担当した。アプローチの結果、視野の著明な改善が見られたのでここに報告する。【方法】対象:36歳女性。2010年3月11日に左視野障害を自覚、眼科受診し左同名半盲と診断された症例である。3月12日に脳神経外科病院入院となり、CT・MRI画像にて右小脳半球、右一部後頭側頭回に梗塞巣を認めた。3月24日眩暈増悪しMRIにて右椎骨動脈閉塞、右後下小脳動脈領域を中心とした小脳半球に鮮明な脳梗塞を認めた。5月17日当院入院となる。主訴は左側から人が近づいてきても見えない、文字を見ているとぼやけて読めなくなってくるであった。初期評価:入院時のCT画像において右Broadmann17野鳥距溝の下唇に一部脳梗塞巣が確認された。動作レベルは、居室内伝い歩きレベル・病棟内歩行器歩行レベルであった。起居動作、歩行時の方向転換にて眩暈が出現し、頭部回旋にて眩暈増悪がみられた。左側方への追視や音読においては、努力することによって眩暈増悪と疲労感の訴えがみられ、意識的に逃避しているとの事であった。ハンドヘルドダイナモメーターを用いた筋力測定にて、体幹屈曲右27.4N・左26.5N、肩関節屈曲右47.0N・左40.2N、股関節屈曲右57.8N・左60.8N、膝関節伸展右133.3N・左139.2Nであった。視覚評価として、縦方向A4紙に50mm文字を横4文字・縦4列、25mm文字を横6文字・縦9列に記載したランダムな平仮名の複写を行った。立位にて患者正面に複写用の紙を置き、その左側・左上方に課題用紙を置いた。その結果、左隅3から5文字の複写が困難であった。座位では患者正面の机上に複写用の紙を置き、その左側・左上方に課題用紙を置いた。座位では左側の複写で、左隅2,3文字の複写が困難であった。また、座位で机上においた5mmの文字の音読では、20行中12行目から文字がぼやけ困難となった。全文の音読には、閉眼や紙面から視線を外すなどの動作を行い、濁点や類似した文字の読み間違いがみられた。音読速度は、2分24秒であった。眼科における視覚検査においても左上方1/4に著明な視野障害が認められた。アプローチ:上記諸問題に対して、個別筋への筋力強化、タンデム歩行・スラローム歩行などの応用歩行、サイドステップ、頭頚部回旋運動を実施した。追視運動の獲得がみられた後、視覚と運動の複合的アプローチとして、頚部・体幹の回旋運動を伴うキャッチボール、バドミントン、DVDを用いたエアロビクスダンスを実施した。【説明と同意】本研究の趣旨を説明し、同意協力を得、当院倫理委員会の承認を得た。【結果】最終評価時、院内ADL自立、自転車走行自立レベルであり、新聞の音読も可能なレベルに改善が認められた。筋力は、体幹屈曲右149.9N・左121.5N、肩関節屈曲右148.0N・左140.1N、股関節屈曲右223.4N・左238.1N、膝関節伸展右277.3N・左270.5Nと著明に改善みられた。複写検査では、座位および、立位での50mm文字は1ヶ月、25mm文字は3ヶ月経過時に複写可能となった。音読検査では20行全文が音読可能となり、速度も1分25秒に短縮した。また、眼科にて行った視覚検査においても左上方の視野障害は認められなかった。【考察】本症例の視野障害は、発症後2ヶ月経過時のCT画像において右Broadmann17野鳥距溝の下唇に一部脳梗塞巣が確認され視覚障害が認められたものの、5ヶ月経過時に視覚障害は認められない。そのため、本症例にみられた視覚障害はBroadmann17野のみに由来するものではないと考えられる。SchmahmannとShermanにより報告された小脳病変により生じる小脳性認知・情動症候群:cerebellar congnitive affective syndrome:CCASの一つとして挙げられている空間認知障害が認められたと考えられる。空間認知障害は、臨床的特徴として視空間の統合障害が挙げられている。追視運動や回旋運動など複合的な小脳へのアプローチにより視覚情報の統合が行えるようになり、視野拡大につながったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】小脳へのアプローチにより、平衡感覚や失調の軽減だけでなく、視覚・情報の統合などの効果も期待される。また、脳画像から視覚野に問題が見られず、視覚障害が認められた場合のアプローチとして、小脳へのアプローチの有効性が認められた一症例として今後の治療や研究に繋げたい。
著者
佐藤 史子 吉尾 雅春
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.528-528, 2003

【目的】身長は様々な指標において基礎となる変量である。一般に身長の計測には身長計が用いられる。しかし、拘縮を伴う者や直立不能な者の身長の計測方法についての報告は、海外では様々な研究が行われているものの日本では少ない。今回、拘縮を伴う成人の身長の計測方法について検討したので報告する。【方法】対象は、20歳代の健常男性40名、女性40名の計80名、内訳は立位身長が150cm代、160cm代の女性が各20名、立位身長が160cm代、170cm代の男性が各20名であった。計測項目は、立位身長、水平身長、指極、頭頂大転子間距離、頭頂外果間距離、大腿長、下腿長、上腕長、前腕長、外果足底間距離とし、メジャーを用いて行った。身長の日内変動による誤差を最小限にするため、計測時間は10:00から14:00とし、被験者一人につき所用時間は10分程度とした。これらの計測値を用いて、立位身長との関係について回帰式を導き出した。統計学的検討は、有意水準5%として、一標本t検定、2変量の関係について回帰分析、ピアソンの相関係数を使用した。 【結果および考察】指極と立位身長との間に有意な相関を認め、上肢に拘縮のない場合には有効な方法であると確認できた。各計測値から求めた回帰式と立位身長との関係では、Haboubi N.Y.による計算式でも使用されている上肢長(上腕長+前腕長)と膝足底間距離(下腿長+外果足底間距離)で他計測部位に比べ、相関係数0.736、0.777とやや高い関係を示した。Haboubi N.Y.による計算式を利用して算出した身長と計測した身長との間には有意な誤差が認められたため、修正を加え、上肢長を用いた式1)身長=1.56×上肢長+sex、(sex:男性83.07、女性78.52)、膝足底間距離を用いた式2)身長=2.08×膝足底間距離+sex、(sex:男性75.18、女性71.70)を導き出した。各計算値と立位身長との相関は、式1)0.8342、式2)0.8364であった。特に上肢長から求める式1)は、上肢長が関与する指極と立位身長との間に有意な相関が認められたこと、立位・臥位の両者で身長に対する上肢長の割合に変化がなかったこと、日本人の100年前と現在との体格差の比較において下肢の割合は1.2%増加しているのに対し、上肢は0.2%であることから、年齢を問わず比較的正確に身長の算出が可能であり、拘縮を伴う場合の身長計測の一手段として有効であることが示唆された。
著者
山本 亮 佐々木 直美 中島 由美 橋本 康子 伊勢 昌弘 吉尾 雅春
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0277-B0277, 2005

【はじめに】<BR> 今回,脳梗塞による注意障害は徐々に改善し,院内生活では問題とならなくなったが,自動車運転において障害が表面化し,結果的には運転を断念した症例を担当した.その注意障害を,テスト上や院内生活時と自動車運転時との差について検討し報告する.<BR>【症例紹介】<BR> 46歳女性,右中大脳動脈領域の広範な梗塞により,左片麻痺・半側空間無視を呈した.発症後約2ヶ月で当院へ転院,理学療法を開始した(以下,初期評価時).発症後4ヶ月頃より1ヵ月半かけて自動車学校にて教習を4回行った.教習終了時では,Brunnstrom stage左上肢2・下肢3,感覚障害は中等度鈍麻であり,日常生活自立度はFIMにて101点で,清拭動作と階段昇降で3~4点,その他は6~7点と自立レベルであった.<BR>【注意障害の変化について】<BR> 半側空間無視:初期評価時は,線分抹消テストでの消し忘れは無かったが,院内生活において左側の部屋や人・物を見落とす場面を認めた.教習終了時には院内生活での空間の障害はみられなくなった.しかし自動車運転時は,左折時に左折した先の左車線を見落とし,大きく膨らんで反対車線に侵入する等を認めた.<BR> 選択性の障害:初期評価時は,日常動作が会話等で容易に中断される場面が多く認められたが,教習終了時の院内生活では行動の一貫性は保たれ特に問題は見られなくなった.自動車運転時では,車の発車時に周囲の確認ばかりを行い,自分でなかなか動き出せない等を認めた.<BR> 分配性の障害:Trail Making Testでは,初期評価時Part A 1分45秒,Part B 4分30秒,教習終了時Part A 1分18秒,Part B 3分5秒と改善を認めた.院内生活では,調理場面にて複数の動作を並行して行えるようになった.自動車運転時では,ハンドル操作に集中すると足でのペダル操作がおろそかになる等の場面を認めた.<BR> また,4回の教習にて運転動作の向上は認められたが,注意障害の改善はほとんど認められずに同じ失敗を何度も繰り返し,最終的に教官の判断にて運転を断念した.<BR>【考察】<BR> 方向性注意については,院内生活には身体動作や時間の余裕があり,意識付けにより代償しているが,自動車運転時では動作が重複することや時間の経過が速いことから,その代償が十分に行えないのではないかと考えた.<BR> 全般性注意については,自動車運転時は院内生活に比べ,対象とする「空間の広さ」や必要となる「情報量の増加」と,その「情報処理の速さ」が同時に要求されるために,注意障害があたかも増悪したような結果になったと思われる.<BR> これらのことより,院内だけで評価やアプローチを行うには注意機能面だけにおいても限界があり,自動車運転などのように,より実際的な場面での評価の重要性を認識させられた.