著者
斉藤 博 伊藤 一三
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.8-16, 2001-02-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
33
被引用文献数
1

舌骨は嚥下や発声において複雑な運動を示す。茎突舌骨筋は舌骨を後上方に引き上げる筋であるが, 舌骨に付着する部位はこれまで明確にされていなかった。SEMを用いて観察した結果, 茎突舌骨筋は正中部を除く舌骨体下面に広く付着していることが明らかになった。この筋の付着部に, 厚さ0.5-1mm, 長さ10-17mmの線維軟骨塊が舌骨体の下面に沿って認められた。茎突舌骨筋の腱線維束は線維軟骨に入る前に, ほかの舌骨付着筋と錯綜していた。また線維軟骨塊の内部においても同様の錯綜が認められた。これらの錯綜は互いの筋が結合を強めあうことを示していると考えられた。このように線維軟骨塊に多くの筋が入り込むことは, 嚥下運動などにおいて, 筋で支持されている舌骨がその位置を変える運動を円滑にしている。また嚥下運動において, 舌骨は同時に回転運動を行うことがすでに知られている。多くの筋が線維軟骨塊に入り込むことは, この線維軟骨塊を固定することを可能にしている。したがって, 舌骨は線維軟骨塊を軸として, オトガイ舌骨筋や甲状舌骨筋により前後に回旋すると考えられた。