著者
伊藤 善典
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.117-129, 2021-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
21

本稿では,EU28か国における社会支出の変動とその要因を分析し,それを踏まえ,今後の社会支出と福祉国家の方向性を考察した。福祉国家グループの個々の社会支出は,経済社会の変動に対応する必要がある一方,価値,規範意識や制度といった各国固有の構造の下に置かれるとともに,政府債務危機後,EUにより厳しい財政規律が課されたため,それらの制約の下で,社会支出の収斂への動きは弱まり,各グループの特徴を維持又は強化する方向に進んでいる。社会支出の側面から見たEUの福祉国家の形は,当面,①新しい社会的リスクに対応して現物給付を重視する社会民主主義型,②伝統的な社会的リスクに対応する現金給付中心の保守主義型(南欧),自由主義型及び新規加盟国,③徐々に新しい社会的リスクへの対応を進めている保守主義型という3つのクラブにまとまっていくのではないかと予想される。