著者
緒方 隆裕 原 正文 松谷 大門 内薗 幸亮 伊藤 平和
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0991, 2008

【目的】当院では野球選手に対して障害の予防と障害の状況を把握するため、肩関節機能・下肢機能・関節弛緩性など全身に関するメディカルチェックを実施している。メディカルチェックによるスポーツ選手の身体的特徴の把握は、スポーツによって骨・関節・筋・腱などの運動器にどのような負担がかかり、どのような障害が発生するかの予想を可能にする。今回、シーズン終了後のプロ野球投手に肩関節メディカルチェックを実施したので結果を報告する。<BR>【方法】対象はシーズンを通して一軍で登板したプロ野球投手24名である。先発投手9名、中継ぎ・抑え投手15名である。肩関節メディカルチェックはシーズン終了後に実施した。肩関節メディカルチェックは当院で実施している肩関節理学所見11項目テストを実施した。11項目のテスト内容は、1)肩甲骨脊椎間距離(SSD)、2)複合外転テスト(CAT)、3)水平屈曲テスト(HFT)、4)関節不安定性テスト(Looseness)、5)インピンジメントテスト(Impingement)、6)過外旋テスト(HERT)、7)肘関節伸展テスト(ET)、8)肘関節プッシュテスト(EPT)、9)外旋筋力テスト、10)内旋筋力テスト、11)初期外転テストとした。<BR>【結果】1)肩甲骨脊椎間距離における陽性は41.5%、偽陽性36.6%、2)複合外転テストにおける陽性は75.6%、偽陽性14.6%、3)水平屈曲テストにおける陽性は82.9%、偽陽性12.1%、4)関節不安定性テストにおける陽性は63.4%、偽陽性14.6%、5)インピンジメントテストにおける陽性は7.3%、偽陽性34.1%、6)過外旋テストにおける陽性0%、偽陽性0%、7)肘関節伸展テストにおける陽性は21.9%、偽陽性2.4%、8)肘関節プッシュテストにおける陽性は19.5%、偽陽性4.8%、9)外旋筋力テストにおける陽性は9.7%、偽陽性21.9%、10)内旋筋力テストにおける陽性は12.2%、偽陽性17.0%、11)初期外転テストにおける陽性は19.5%、偽陽性21.9%であった。<BR>【考察】水平屈曲テスト・複合外転テストはともに陽性率が高く82.9%・75.6%を示しており、これは肩甲上腕関節の可動域低下が示唆された。関節不安定性テストにおいても陽性63.4%を示しており、肩甲上腕関節における安定性の低下が示唆された。偽陽性を含む78.1%に肩甲骨の偏位がみられ、肩甲上腕関節の可動域低下による肩甲胸郭関節の代償運動の影響が示唆された。偽陽性を含む41.4%にインピンジがみられ、腱板筋力低下による影響が示唆された。
著者
内薗 幸亮 原 正文 緒方 隆裕 伊藤 平和 黒木 将貴 外間 伸吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2205, 2011

【目的】<BR> 当院ではプロ野球選手を対象に障害予防およびコンディショニング目的で、シーズン終了後にメディカルチェックを行っており、同時に超音波検査を用いた測定を実施している。当院山田らや松谷らは超音波検査を用いた先行研究において、投球動作の繰り返しが棘下筋厚に影響を及ぼすと報告している。超音波検査による棘下筋厚の量的側面からの報告は散見されるが、質的側面からの報告については少ない。<BR>また、プロ野球投手は先発投手と中継・抑え投手ではコンディショニング方法の違いから棘下筋にかかる負担が異なると考えられる。そこで今回は、先発投手と中継・抑え投手のシーズン終了時における超音波検査の結果より、棘下筋の質的評価を行ったので報告する。<BR><BR> <BR>【方法】<BR> 対象は2007年から2009年のシーズン終了後にメディカルチェック目的で当院を受診したプロ野球投手計53名中(2007年:16名 2008年:15名 2009年:22名)、シーズンを通して一軍で競技した37名とした。この37名を先発群16名と中継・抑え群21名(以下中継群)に分類した。<BR> 超音波検査は測定部位を肩甲骨内側1/4・肩甲棘下方30mmとした。安静時および収縮時の棘下筋厚を測定し、棘下筋の質的評価として、両者の比率より収縮率を計測した。さらに、安静時の棘下筋々腹層から、ヒストグラムのL値を計測した。ヒストグラムとは、硬い組織は明るく、軟らかい組織は暗く抽出される超音波の特性を応用し、指定した領域の組織の明暗を階調値に置き換えたもので、硬化度を数値化したものと考えている。L値は計測領域内にて最も多く含まれる階調レベルであり、L値が高くなれば水分量の低下を示す。 <BR> 肩関節理学所見は当院で実施している肩関節理学所見11項目テストを実施し、それぞれ陽性率を算出した。さらに肩関節可動域として2nd ER、2nd IRの計測を行った。<BR> 上記超音波検査の結果および肩関節理学所見より先発群と中継群の棘下筋の質的状態について比較、検討を行った。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象には本研究の趣旨について説明し、同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 収縮率は先発群:135.9%、中継群:127.3%であった。L値は先発群25.17、中継群:25.47であった。<BR> 肩関節理学所見11項目テストの陽性率は、1)SSD先発群:68.8%、中継群:85.7%、2)CAT先発群:87.5%、中継群:90.5%、3)HFT先発群:100%、中継群:90.5%、4)HERT先発群:6.3%、中継群:4.8%、5)Impingement test先発群:37.5%、中継群:33.3%、6)Loose test先発群:81.3%、中継群:47.6%、7)EET先発群:62.5%、中継群:42.9%、8)EPT先発群:68.8%、中継群:42.9%、9)ER先発群:50%、中継群:38.1%、10)IR先発群:25%、中継群:100%、11)SSP先発群:43.8%、中継群:42.9%であった。また、肩関節可動域として2nd ERは先発群:126.8°、中継群:122.2°。2nd IRは先発群:32.9°、中継群:27.2°であった。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果より、中継群は先発群に比べL値は高く収縮率は低下していた。当院山田らは先行研究において、L値が高い状態での収縮率の低下は棘下筋委縮により線維化を起こし、水分量が低下した状態であると述べている。このことから、中継群は先発群に比べ棘下筋が線維化を起こしている状態ではないかと考えられる。<BR> また、理学所見との関連性をみると、中継群は先発群に比べ、肩関節可動域を示す2)CAT、3)HFTの陽性率が高く、2nd ER、2nd IRの可動域低下がみられた。しかし、筋機能バランスを示す7)EET、8)EPT、棘下筋の筋力を示す9)ERでは先発群の陽性率が高かった。このことから、先発群は収縮率、L値などの質的異常はみられないが、棘下筋の筋機能低下が生じていると考えられる。<BR>投球動作時に棘下筋にかかる負担について、投球動作におけるフォロースルー期の棘下筋遠心性収縮による筋自体の損傷などが棘下筋萎縮の原因と報告されている。さらに、松谷らはシーズン終了後のプロ野球投手の安静時棘下筋厚が変化する要因として登板数の影響が考えられたと述べている。これらの報告から、ほぼ毎日投球動作を繰り返す中継群は、ローテーションで登板する先発群とは異なり、棘下筋にかかる遠心性収縮による筋損傷が大きく、棘下筋の線維化が起こっているのではないかと考えられる。<BR> <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 投球動作の繰り返しにより棘下筋にかかる負担について、プロ野球投手を先発群、中継群に分類し、理学所見と超音波検査から棘下筋の質的側面からの検討を行った。<BR>今回の結果より中継群は先発群に比べ棘下筋が線維化を起こし可動域の制限につながっていると考えられ、先発群は棘下筋の筋機能の低下が起こっていると考えられる。棘下筋の質的評価は投球障害予防、コンディショニングに応用できると考える。<BR>