著者
伊藤 正毅
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.69-81, 1999-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
127

高齢者糖尿病の頻度, 成因, 症状の特異性, 治療目的, 治療内容-食事, 運動, 薬物療法-, 慢性の合併症, コントロール目標について考察した. 60歳以上の高齢者の糖尿病の頻度は13~14%に達した. 30歳以後, 年齢とともに食後の血糖の上昇が認められるが空腹時の糖の上昇は著明でない. 高齢者糖尿病の成因としてインスリン抵抗性とインスリン分泌障害が考えられ, 肥満者は抵抗性が主であり, 非肥満者は分泌障害が主であると報告されている. インスリン抵抗性の原因として年齢を経てもインスリン受容体の減少がないことより受容体以後, GLUT4の translocation までのいずれかの機構の障害があり, インスリン分泌障害はインスリンの first, second phase ともに障害されていると報告されている. 相対的なプロインスリンの増加も報告され, プロインスリンからインスリンの転換の障害も示唆されている. 高齢者には口渇中枢の障害や糖の排泄域値の上昇が見られることから糖尿病の症状は非定型的になりやすい. 高齢者糖尿病には認知障害が認められがその程度や障害内容がどのような治療の妨げになるかは解明されておらず, この分野の研究が重要である. 高齢者糖尿病の食事療法は低栄養や vitamin, mineral, 亜鉛などの欠乏→創傷治癒の遅延に繋がる可能性があるので食事指導は個人の能力, 社会的環境に即した個別指導が必要である. 持続した運動療法は高齢者でも中年者と同様の効果が認められているが, 運動前に充分なチェックが大切である. 薬物療法は年齢に伴う薬物代謝の変化から副作用の出現-特に, 低血糖の遷延-に注意が必要である. 高齢者の低血糖は counterregulatory hormone の分泌低下や低血糖の認知低下などがあり重症化しやすい. 血糖コントロールの recommendation としてFBS 140mg/dl以下, 食後血糖200mg/dl以下, HbA1cは測定上限値1%以内が提示されている.