著者
伊藤 雅剛 霧生 拓也 枇々木 規雄
出版者
一般社団法人 日本金融・証券計量・工学学会
雑誌
ジャフィー・ジャーナル (ISSN:24344702)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.76-99, 2019 (Released:2019-04-18)
被引用文献数
3

Ross (2015) は,リスク中立分布からforward lookingな実分布を推定する定理としてRecovery Theorem (RT)を導いた.近年,RTの状態推移に関する斉次マルコフ性の仮定を緩和したGeneralized Recovery Theorem (GRT) がJackwerth and Menner (2017)およびJensen et al. (2017)によって示された.GRTを用いることで,状態推移に関する仮定に起因するバイアスを解消し,原資産の価格変動をより現実的に表現できる.しかしながら,GRTを用いた推定の過程において非適切問題が出現するため,得られる推定値が不安定になることが先行研究において指摘されている.そこで本研究では,任意の先験情報を与えて解を安定化することで,実分布を推定する新たな方法を提案する.先験情報の設定方法としては様々な方法が考えられるが,オプション価格データに内包される情報を用いて設定する方法を提案する.さらに,仮想データを用いた数値分析の結果から,提案法では従来の方法と比較して,精度の高い推定値が得られることを示す.また,米国のS&P500オプションデータから実分布を推定し,推定される分布の特徴について示すとともに実現値に対する予測力について統計的な検定手法を用いて検証する.検証結果から,推定された実分布は(1)実現値に対して予測力があるという仮説を棄却できないこと,(2)リスク中立分布や従来の方法で推定した実分布よりも予測力が高くなること,が明らかになった.