- 著者
-
山本 健弘
枇々木 規雄
- 出版者
- 一般社団法人 日本金融・証券計量・工学学会
- 雑誌
- ジャフィー・ジャーナル (ISSN:24344702)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, pp.1-21, 2022 (Released:2022-06-08)
- 参考文献数
- 15
近年,期待リターンの推定値を用いずに,リスクのみを考慮して資産配分を決定するリスクベース・ポートフォリオが注目されている.いくつかの先行研究は,リスクベース・ポートフォリオにおいて,従来の日次の分散などを用いるよりも,実現分散(realized variance, RV)や実現バイパワーバリエーション(realized bipower variation, BPV)といった,高頻度データから算出されるリスク指標を用いた場合に,より高いパフォーマンスが得られることを示している.一方,高頻度データを用いて資産の下方リスクを考慮するために,Barndorff-Nielsen et al. (2008)は日中の下方変動のみから算出されるリスク指標である実現半分散(realized semivariance, RS)を提案し,米国市場において実現半分散が日次リターンとの負の相関を有するとともに,高い自己相関も有することを示した.しかし,これらの特徴を資産配分問題に応用し,その有用性を検証した論文は筆者らの知る限り存在しない.そこで本研究では,実現半分散を用いて,国内株式,国内債券,国内不動産の3資産を対象としたリスクベース・ポートフォリオを構築し,従来のリスク指標を用いる場合と運用パフォーマンスを比較する.具体的には,2006年1月5日から2020年8月31日のTOPIX,長期国債先物,東証REIT指数の3資産の日中リターンを用いて,Bollerslev et al. (2020)の推定方法をもとに実現半分散を用いた分散共分散行列を推定し,リスクベース・ポートフォリオ(ボラティリティ・インバース,リスク最小化,リスクパリティ)において,従来のリスク指標(RV,BPV,日次の分散,下方半分散)を用いた場合に比べて高い運用パフォーマンスが得られることを示した.また,リターンの要因分解によって,実現半分散を用いた分散共分散行列において共分散よりも分散の方がパフォーマンスに寄与することが分かった.さらに,リスク指標の推定期間や高頻度データの観測間隔,投資ウィンドウについて感度分析を行った結果,実現半分散を用いた場合のアウトパフォーマンスが頑健であることも確認した.