著者
山本 智史 山口 泰彦 小松 孝雪 会田 英紀 岡田 和樹 大畑 昇
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.31-40, 2001-11-20
被引用文献数
2

これまで短期間で測定日を変え下顎限界運動のばらつきを調べた報告はほとんどない.そこで今回, 健常有歯顎者の短期間における経日的な下顎限界運動範囲の再現性についての検討を行った.また, 下顎運動の再現性に対し影響を及ぼす因子の一つである顎運動測定器の生体基準点の再現性についても検討した.〈方法〉被験者は26歳から31歳までの健常有歯顎者5名である.被験運動は, 矢状面内限界運動, および前頭面内限界運動とし, それぞれの運動を1日5回ずつ連続5日間計測して限界運動範囲の前後幅と左右幅を求めた.顎運動測定には, ナソヘキサグラフJM-1000(小野測器社製)を用いた.測定座標系の基準点は右オルビタと左右ポリオンとし, 運動解析点は下顎切歯点とした.各基準点および切歯点の経日的再現性を維持するため, ナソヘキサグラフの標点用ポインターの先端が適合するディンプル状の常温重合レジン製標点を作製した.基準点の標点は咬合器用フェイスボウを用いて固定した.標点の位置の再現性を確認するため, 咬合器上および被験者1名の日内, および被験者5名の日間の標点座標値を比較した. <結果>1.切歯点座標値の日間の標準偏差値は0.48〜1.49mm, 基準平面に関する標点間距離の日間の標準偏差値は0.31〜1.55mmと各被験者とも大きかった.しかし, 咬合器上の切歯点では0.19〜0.42mm, 被験者1名の切歯点の日内では0.23〜0.38mmと比較的小さかった.そのため, 標点座標の日間のばらつきには, 測定日毎の各標点の再装着時における位置のずれの影響が大きいものと考えられた. 2.下顎限界運動範囲の前後幅と左右幅に関して日内の施行順位間に有意差がみられたのは1名の左右幅のみであった.一方, 日間に関しては1名の前後幅, 4名の左右幅において有意差がみられた.日内と日間の標準偏差を比較すると, 日内より日間の方が大きい傾向を示した.しかし, その値は日間でも0.12〜0.62mmであり, 各標点に関する日間の標準偏差と比較して小さかった. 以上より, 健常有歯顎者における下顎限界運動範囲の前後幅, 左右幅には, 短期間の日間で変動が認められる場合があることが示された.しかし, 同時に, その変動は比較的小さいことも明らかになった.