著者
住本 規子
出版者
明星大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本課題はシェイクスピア・フォリオを中心として、現存するシェイクスピア戯曲の初期近代における出版物に残された当時の、特に17世紀の所有者/使用者(読者)の書き込みを読み解くことを目指しています。本年度は、ニューヨーク公共図書館にて、ファーストフォリオ(F1)2冊、セカンドフォリオ(F2)10冊、サードフォリオ(F3)3冊、フォースフォリオ(F4)4冊、同図書館バーグ文庫にてF1を1冊、F2を2冊、F3を2冊、F4を2冊、モーガン図書館にてF1を2冊、F2を3冊、F3を2冊、F4を2冊、フィラデルフィア自由図書館にてF1、F2,F3,F4を各1冊、さらにはストラットフォード・アポン・エイヴォンのシェイクスピアセンター図書館にて、F1を1冊、F2を6冊(うち1冊は非完全本)、F3を4冊(うち2冊は非完全本)、F4を4冊 および、12冊の初期クオート本の閲覧調査を実施することができました。すべてのフォリオに何らかの書き込みが見られました。また、書き込みが作品テクスト部分にないコピーでも、作品によりページの摩耗の違いが観察されるものがあり貴重な資料となる可能性があることに新たに気づくことができました。本課題にとってとりわけ注目すべきフォリオは、ニューヨーク公共図書館のF1のうちの一冊で、欄外の「名言なり」の意と考えられている'ap'という文字とテクストへの下線がセットになった書き込みを持つという点でも、複数サイズのページが混在するかたちで製本された寄せ集め本という点でもグラスゴー大学所蔵のF1によく似たケースであることが判明しました。コモンプレイシングマーカーは読者により様々な形をとり、しかもときどきで変化するゆたかな読書体験のあかしですが、その豊かな世界を記録する方法をみつけることに挑戦していきたいと考えています。