著者
佐々木 啓真 藤田 幸弘 戸田 一雄 相馬 邦道
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-10, 1996-06-30

口唇の表面麻酔による咀嚼運動の変化を筋電図学的に検討する目的で, 成人男子8名を被験者とし, 麻酔の前後で咀嚼時の咬筋, 顎二腹筋筋活動に変化が見られるか否かを検討した.記録は麻酔前から麻酔40分後の6ステージにかけて行い, 各ステージにおいてガム咀嚼運動を30ストロークずつ行わせ, その際の下顎運動をMKG(Model K-5)を用いて記録すると同時に, 咬筋, 顎二腹筋前腹より表面筋電図を記録した.解析方法は, 各ステージにおける10ストロークの咬筋, 顎二腹筋の筋放電持続時間, 積分値, ならびに下顎運動と筋活動との時間的対応関係に関してそれぞれ計測を行い, 10ストロークの平均値を求めた.そして, ステージの時間的推移に伴うこれらの平均値の変化に関して比較, 検討した.その結果, 咬筋の筋放電持続時間および積分値については, 変化の認められないものが多く, 一方顎二腹筋の筋放電持続時間および積分値については, 麻酔により減少するものが多く認められた.また, 下顎運動と筋活動との時間的対応関係については, 咬筋に関しては閉口相開始から筋活動開始までの時間が減少するものが6名と多く認められ, 顎二腹筋に関しては咬合相開始から筋活動開始までの時間が麻酔により延長しているものが7名と多く認められた.従って, ヒトの咀嚼運動に口唇からの触覚・圧覚といった体性感覚入力が関与し, その関与は, 閉口運動より開口運動に対して大きい可能性が示唆された.