著者
佐々木 林治郎 原澤 久夫
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.25-39, 1931 (Released:2008-03-10)

鷄卵を石灰水又は食鹽水に浸漬するときの理化學的變化を知る爲に,室温に其儘静置せるものを對照として比較研究したるに,次の如き成績を得た.表面張力に就ては,石灰水浸漬法の卵黄は變化少く卵白は低下する.食鹽水浸漬法の卵黄は上昇し卵白は低下する.粘度に就ては,石灰水浸漬法のものは卵黄卵白共に低下するが,食鹽水に浸漬せるものの卵黄は著しく増加し,卵白は減じて遂に水様液となる.鷄卵を食鹽水に浸漬すれば,水分を減じ食鹽は卵内に多量に浸入することを知る.石灰水に浸漬せるものは蛋白質の變化多くして,alcohol可溶窒素,amino態窒素及無機態燐の増加すること多けれども,食鹽水に浸漬せるものに於ては蛋白質の分解することはない.鷄卵を食鹽水に浸漬すれば,食鹽の浸入すること多きのみならず殼の石灰が溶解して,卵内に浸入することも亦多い.然るに,石灰水に浸漬したるものは石灰の浸入すること割合に多からざれども,石灰臭を帶び卵黄の色澤を損する故,貯藏法としては不適當である.食鹽水浸漬法は,生卵貯藏法としてよりも寧ろ加工法として用ふることが適當である.