著者
佐々木 静郎
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.177-178, 2014

<p>平成8年に「臭気判定士」が国家資格として新設されて今年で18年(前身の環境省認可資格「臭気判定技士」からは21年)が経過する.また,当該協会誌が臭気判定士の特集(Vol. 29 No. 2 1998.3)を組んでからも16年が経過する.この決して短くはない年月の推移とともに,環境保全に対する社会的要求は多種多様化が進み,その求められる質はますます高くなる傾向にある.はたして,それは「におい・かおり環境」に対しても当てはまるのであろうか.そこで,このような背景をふまえて,産・官・学の多岐に渡る分野において,臭気判定士として活躍されている方々から,臭気判定士の資格を取得した動機,これまでの業務,現在取り組んでいる業務,今後臭気判定士にどのようなことが求められているのかなどについてご執筆いただいた.以降,順次,取り組んでいる対象分野ごとに紹介させていただく.</p><p>まずは,松戸氏(環境省水・大気環境局大気生活環境室)から,臭気対策行政の立場から臭気判定士の位置付けについて概説し,濃度規制と臭気指数規制の両輪での活躍が期待されると述べられている.</p><p>次に,主に臭気環境全般を対象とされている分野からは,井上氏(一般社団法人埼玉県環境検査研究協会)はこれまでの現場調査の経験に基づいて,嗅覚測定法における精度管理と安全管理が重要であることを,大久保氏(新潟県農業総合研究所畜産研究センター)は臭気判定士の資格の取得が畜産経営における臭気問題への対応に大きく役立てることができたことを,槻氏(エヌエス環境株式会社)は臭気判定士の資質として,臭気調査の時期,場所,方法を的確に効率よく選定できることを挙げ,そのためには経験を積み,研鑽を重ねることが重要であることを,清水氏(株式会社環境管理センター)は臭気判定士の基本業務である嗅覚測定法による臭気評価に際して,その精度を担保するためには,パネルの管理が一番重要であるということを,祐川氏(祐川環境カンファレンス株式会社)はその豊富な現地測定の経験から,臭気判定士は臭気指数の値だけではなく,その現地の環境条件を詳細に把握した上で依頼者に説明することが望ましく,その後の管理にも有効であることを,則行氏(中外テクノス株式会社)は臭気判定士は嗅覚測定試験に用いる機材,およびパネルの管理が最も重要な仕事であり,さらに常ににおいへの関心を持ち続けることが重要であることを,諸井氏(公益財団法人におい・かおり環境協会)は臭気判定士は現場でどう感じたかを正確に認識し,情報収集することが大事であり,結果として一般の人に臭気を分かりやすく伝えるようにすることが必要であることを,それぞれ記述されている.</p><p>臭気を測定する分野からは,川村氏(光明理化学工業株式会社)はガス検知管メーカーという業種では臭気判定士の仕事は,悪臭防止法に基づく臭気判定よりもむしろ製品開発・品質管理の面からの必要性が増大していることを,木下氏(株式会社島津製作所)はにおい識別装置の開発にあたり,官能検査データの取得・評価を行う際に,臭気判定士の資格を得るために学習した内容が非常に役に立ったことを,小垂氏(近江オドエアーサービス株式会社)は川村氏らと同様に自社の製品開発の際に,臭気判定士の資格を取得することによって原料選定から販売までの一連の工程を自分で実施することができたことを,瀬戸口氏(フィガロ技研株式会社)はガスセンサの直接的な利用分野を越えて,広く異業種・他業種とのつながりを広げることに臭気判定士の資格が有効であることを,吉栄氏(新コスモス電機株式会社)は臭気判定士の資格がお客さまとの話題のきっかけや営業に有効な役割を果たしていて,いろいろな業種との交流拡大に活用できていることを,それぞれ述べられている.</p><p>プラント設備関連分野からは,石塚氏(東京都下水道サービス株式会社)は下水道の業務経験をふまえて,臭気測定では,目的の把握と目的に沿った調査・分析の重要性を,佐藤氏(水ing株式会社)は過去の脱臭設備設置での苦労体験が資格取得の動機となったことを,中野氏(新明和工業株式会社)はビルピット設備の開発に際して,必要となった臭気判定士の資格取得が幅広い世界の方々との繋がりができたことを,それぞれ語られている.</p><p>製品評価の分野からは,池田氏(株式会社コープトレード・ジャパン)は,組合員からの異臭の申し出に対して的確に対応できなかった経験が臭気判定士の資格取得の動機になったことを,小澤氏(エステー株式会社)は臭気判定士のスキルが消臭製品開発における性能評価(官能評価)に役に立っていることを,北爪氏(小林製薬株式会社)は,香り製品の香料開発の経験から,香気判定という香り評価概念の提案により臭気判定士の新たな方向性を,野口氏(株式会社ハウス食品分析テクノサービス)は,食品に関連するにおいに対しては,健康にも直結することから機器と嗅覚を併用することにより,より分かりやすい言葉でのお客様への説明が重要であることを,それぞれ述べられている.</p><p>建築物・建築空間に関する分野からは,勘坂氏(株式会社大林組)は,室内空間に発生したにおいの原因特定及び除去対策は難しく,また個人の感じ方の差が大きいことを,木村氏(株式会社長谷工コーポレーション)は,住宅内のにおいの測定や消脱臭に多く携わっていることから,協会などのリードによる情報の共有化の必要性を,洞田氏(大成建設株式会社)は,体験した事例をもとに機器測定と嗅覚測定の両方の機能を持つ手法の有用性と,建築計画の段階におけるにおいへの対策が効果的であることを,前田氏(新菱冷熱工業株式会社)は,タバコ臭対策業務に取り組むにあたり臭気判定士の資格取得により社内での評価を得ることができたことを,それぞれ披露されている.</p><p>人への健康や精神衛生といった分野からは,池内氏(池内龍太郎労働衛生コンサルタント事務所)は,感覚の領域である臭気は医学の関与する部分が多いことから,産業医には臭気に一定の知識と経験が求められることを,磯貝氏(有限会社プラジュナ)は,アロマテラピーのセラピストとしての活動に,臭気判定士資格取得時に学んだことや実務経験が大きく生かされていることを,それぞれ強調されている.</p><p>将来性(進路)といった切り口からは,小関氏,可児氏(大同大学)は,大学に学ぶ段階で臭気判定士資格取得をめざした動機や理由,またこれからの目標などについて熱く語られている.</p><p>今回の特集号のまとめという大役を仰せつかった筆者自身は,実は臭気判定士の資格を取得してからわずかまだ2年余りという,はなはだ力量不足・経験不足の新人である.私自身も臭気判定士の一人として,今後の業務に誇りを持って真摯に取り組んでゆくとともに,臭気判定士の存在が社会においてますます重要視されるようになるために精進・努力していきたいと考えている.</p><p>最後に,本特集の企画にあたりお忙しいところ快くご執筆をお引き受けいただいた著者(臭気判定士)の方々に,あらためて心から感謝申し上げます.</p>