著者
二村 吉継 佐久間 航 南部 由加里 岩橋 美緒
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.348-356, 2015 (Released:2015-10-17)
参考文献数
19
被引用文献数
5

性同一性障害Female to Male(FTM/GID)症例に対する男性ホルモン投与では声が低くなることが経験的に知られているが,経時的解析を行った報告はほとんどない.今回,男性ホルモン投与中のFTM/GID 23例を対象に話声位基本周波数を経時的に測定しその変化を解析した.男性ホルモン投与開始時,1ヵ月,2ヵ月,3ヵ月,6ヵ月,9ヵ月,12ヵ月経過時点において楽な発声での母音を録音し基本周波数を測定した.投与開始1ヵ月経過時点から3ヵ月経過時点の間に特に急速に音声が低下した.音声の低下は6ヵ月経過時点まで有意であり,その後12ヵ月まではわずかな低下があったが有意差は認めなかった.また投与開始時点と6ヵ月経過時点の話声位基本周波数は有意な相関を認めた.音声が低下すると同時に声帯は発赤および肥大化し,喉頭隆起は顕在化した.男性ホルモン投与により声帯の肥大化と喉頭の枠組みが増大することで音声が低下すると考えられた.