著者
二村 吉継 文珠 敏郎 東川 雅彦 南部 由加里 平野 彩 中村 一博 片平 信行 駒澤 大吾 渡邊 雄介
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.34-43, 2017 (Released:2017-02-18)
参考文献数
18
被引用文献数
1

Elite Vocal Performers(EVP)は職業歌手や舞台俳優など自身の声を芸術的に用いパフォーマンスを行う職業者である.EVPは声質改善にきわめて繊細な治療も希望する.そこで今回耳鼻咽喉科医,音声専門医に対してどのような意識をもって受診しどのような治療を希望しているのかを明らかにするため,EVPに対してアンケート調査を行った.選択形式の設問28問,自由記載式の設問3問の冊子を作成し,無記名の記入式アンケート調査を実施した.EVP 92名(男性41名,女性51名)から回答を得た.内容は「声の症状」「耳鼻咽喉科診察および歌唱指導について」「沈黙療法について」「ステロイド治療について」「声の悩みの解決方法」「診療に対する希望について」等である.沈黙療法を指示されたことがある者は64%であったが,適切な期間を指示することが重要であると思われた.ステロイド剤による治療を受けたことがある者は68%であり,投薬を緊急時にのみ望む者とできれば望まない者がほぼ半数ずつであった.
著者
二村 吉継 佐久間 航 南部 由加里 岩橋 美緒
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.348-356, 2015 (Released:2015-10-17)
参考文献数
19
被引用文献数
5

性同一性障害Female to Male(FTM/GID)症例に対する男性ホルモン投与では声が低くなることが経験的に知られているが,経時的解析を行った報告はほとんどない.今回,男性ホルモン投与中のFTM/GID 23例を対象に話声位基本周波数を経時的に測定しその変化を解析した.男性ホルモン投与開始時,1ヵ月,2ヵ月,3ヵ月,6ヵ月,9ヵ月,12ヵ月経過時点において楽な発声での母音を録音し基本周波数を測定した.投与開始1ヵ月経過時点から3ヵ月経過時点の間に特に急速に音声が低下した.音声の低下は6ヵ月経過時点まで有意であり,その後12ヵ月まではわずかな低下があったが有意差は認めなかった.また投与開始時点と6ヵ月経過時点の話声位基本周波数は有意な相関を認めた.音声が低下すると同時に声帯は発赤および肥大化し,喉頭隆起は顕在化した.男性ホルモン投与により声帯の肥大化と喉頭の枠組みが増大することで音声が低下すると考えられた.
著者
東野 正明 林 伊吹 高橋 俊樹 須原 均 二村 吉継 櫟原 新平 青野 幸余 松尾 彩 川上 理郎
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.Suppl.2, pp.S181-S188, 2010 (Released:2011-12-01)
参考文献数
8

心臓血管外科手術患者において、術後の嚥下障害を術前や術直後に予測できるかどうかを検討した。症例は、心臓血管手術後経口摂取に問題があり、本院栄養サポートチーム (NST) に栄養管理の依頼があった 20 例 (男性 14 例、女性 6 例) で、手術から最終食事内容に至るまでの期間が 1 カ月未満であった 8 例 (A 群) と、1 カ月以上かかり術後の嚥下障害が大きな問題となった 12 例 (B 群) に分けて、両群間で比較検討した。その結果、心臓血管手術後嚥下障害を起こす要因として、年齢 (70 歳以上)、Body mass index (BMI)≧25 の肥満もしくは BMI < 18.5 の低体重、高度心機能低下 (EF ≦ 40%) の有無、脳梗塞の既往の有無、呼吸器疾患の既往の有無、緊急手術か否か、大動脈手術か否か、長時間手術 (10時間以上) か否か、の 8 項目のうち 4 項目以上に該当すると嚥下障害を引き起こす可能性が高いと考えられた。その中でも緊急手術、肥満、大動脈手術が影響していると考えられた。この 8 項目をスコア化したものと手術から最終食事形態に至るまでの日数との間に相関が認められた。また、心臓血管外科手術後患者の嚥下障害に対する NST 介入の効果も示された。術前スコアから術後の嚥下障害のリスクがあると予測される患者家族に対しては、十分な術前説明をするとともに、適切かつ迅速な対策を講じる必要があると考えられた。