著者
謝 尚平 佐伯 なおみ
出版者
(公社)日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.949-968, 1999-08-25 (Released:2008-01-31)
参考文献数
57
被引用文献数
3 57

世界最大の砂漠と最大のモンスーン域は共にほぼ同じ緯度のアフリカ・ユーラシア大陸の亜熱帯に存在する。このような降水の東西分布の形成機構を調べるために、大気大循環モデルを用いて理想化した海陸分布の下で実験を行った。特にここではアジア大陸の南岸を北緯17度線に沿って東西真っ直ぐに設定した。山岳がなく、また海面水温と陸面パラメータが東西一様であるにも関わらず、夏期の降水は亜熱帯大陸の東部で多く、西部で少ない。このような降水分布の東西非一様性は夏期の海洋上に現れる高気圧の水蒸気輸送によると考えられる。更に、降水と土壌水分のゆっくりとした相互作用はモンスーン降水帯の北進を遅らせ、土壌水分が十分に増加する前に、太陽放射の強制によって降水帯は南下し、大陸内部まで進入できない。太陽放射を夏の値に固定した実験では、モンスーン降水帯が徐々に北進し、北アフリカ全域をカバーするようになった。モデルのモンスーン降水は6月後半に突然大陸南岸に現れる。このようなモンスーンの急な開始は西進する波動の発達に伴って起きる。春分後、暑い大陸と冷たい海洋間に北向きの温度傾度が大気下層で形成され、時間と共に強化されていく。この下層の南北温度傾度は偏東風シアーとほぼ温度風バランスをしており、背の高い南北モンスーン循環は形成されない。しかし、このような温度風バランスは最終的には傾圧的に不安定になり、湿潤傾圧不安定の爆発的な成長によってモンスーンが始まる。