著者
久保田 尚之 小坂 優 謝 尚平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<br><br><b>1.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b>はじめに</b><b></b><br><br>夏季西部北太平洋域での代表的な気圧配置パターンとして、フィリピン海と日本付近の気圧偏差が逆相関の関係で年々変動するPJ (Pacific-Japan)パターンが知られている(Nitta 1987, Kosaka and Nakamura 2010)。これは、日本の猛暑・冷夏と関連して、東アジア太平洋域の夏の天候を広く特徴づける気圧配置パターンである。本研究では、PJパターンを地上データから定義することで1897-2013年のPJパターンを再現し、夏期西部北太平洋域のモンスーン活動の数十年変調を調べた。<br><br><b>2</b><b>.</b><b> </b><b> </b><b>データと解析手法</b><b></b><br><br>夏期(6-8月平均)の高度850hPaの渦度(10-55&deg;N、100-160&deg;E)の主成分解析(1979-2009年のJRA55データ)で得られた第1モードと海面気圧との相関を図1に示す。PJパターンに対応したフィリピン海と日本付近の逆相関が顕著な2地点(横浜と恒春)を選び、6-8月平均の気圧差(横浜-恒春)をPJパターンの指標(PJ指標)と定義した。解析期間は1897-2013年。<br><br><b>3.&nbsp; </b><b>結果</b><br><br>PJ指標が正の年は日本、韓国、中国の長江流域で乾燥・猛暑となり、フィリピン海のモンスーン活動が活発で雨量が多く、沖縄や台湾を通過する台風活動も活発になる(図2)。一方で、負の年は逆に北日本の冷夏、日本のコメが不作、長江の洪水と対応する。PJ指標との関係を1897年まで遡ると、PJ指標とENSOとの相関が高いのは1970年代後半以降であることがわかる(図3)。それに対して1940年代から1970年代は不明瞭、さらに1930年代、1910年代より前は再び明瞭になる関係があり、数十年の間隔で明瞭、不明瞭の時期が繰り返されていることがわかる。日本の夏の気温、コメの収穫量、台湾や沖縄を通過する台風数とPJ指標との関係もまた、明瞭、不明瞭の時期を数十年間隔で繰り返しており、変化が一方向でないことから、変調が地球温暖化よりも気候の自然変動に伴うことを示唆している。
著者
謝 尚平 佐伯 なおみ
出版者
(公社)日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.949-968, 1999-08-25 (Released:2008-01-31)
参考文献数
57
被引用文献数
3 57

世界最大の砂漠と最大のモンスーン域は共にほぼ同じ緯度のアフリカ・ユーラシア大陸の亜熱帯に存在する。このような降水の東西分布の形成機構を調べるために、大気大循環モデルを用いて理想化した海陸分布の下で実験を行った。特にここではアジア大陸の南岸を北緯17度線に沿って東西真っ直ぐに設定した。山岳がなく、また海面水温と陸面パラメータが東西一様であるにも関わらず、夏期の降水は亜熱帯大陸の東部で多く、西部で少ない。このような降水分布の東西非一様性は夏期の海洋上に現れる高気圧の水蒸気輸送によると考えられる。更に、降水と土壌水分のゆっくりとした相互作用はモンスーン降水帯の北進を遅らせ、土壌水分が十分に増加する前に、太陽放射の強制によって降水帯は南下し、大陸内部まで進入できない。太陽放射を夏の値に固定した実験では、モンスーン降水帯が徐々に北進し、北アフリカ全域をカバーするようになった。モデルのモンスーン降水は6月後半に突然大陸南岸に現れる。このようなモンスーンの急な開始は西進する波動の発達に伴って起きる。春分後、暑い大陸と冷たい海洋間に北向きの温度傾度が大気下層で形成され、時間と共に強化されていく。この下層の南北温度傾度は偏東風シアーとほぼ温度風バランスをしており、背の高い南北モンスーン循環は形成されない。しかし、このような温度風バランスは最終的には傾圧的に不安定になり、湿潤傾圧不安定の爆発的な成長によってモンスーンが始まる。
著者
松村 伸治 謝 尚平
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.10, pp.781-791, 1998-10-31
参考文献数
24
被引用文献数
7

季節風の吹き出しは冬季日本および日本海の経年気候変動をもたらす最も重要な要素の一つである.本研究は, 現在入手可能な船舶, 地上, 衛星観測データを用いて, 冬季季節風変動の影響を総合的に調べたものである.日本冬季降水量の変動パターンは日本海側と太平洋側とに分かれており, 季節風が強い年には日本海側で降水量が多く, 太平洋側では逆に少なくなる.一方, 日本海上の降水量, 水蒸気量はともに季節風が強いときに減少していることが衛星データを用いた解析から示された.しかし, 日本列島に近付くにつれ雲水量が増加しており, 日本海側で降雪量が増えていることが示唆された.また, 季節風の強い年に海面水温(SST)が低くなるという影響は日本海南部(40°N以南)のみにしか現れず, 北部においては季節風よりも海洋の内部変動による影響が大きい.このようなSST変動の南北相違は日本の気温にも現れており, 全国的には季節風と地上気温とが有意な負相関を示すものの, 北日本では相関係数が小さくなっている.以上のように, 40°N以南の日本海・日本列島上の気温変動が2〜3年周期を持つ季節風の強弱に強く影響される一方で, 10年スケールの変動が北日本に見られることも分かった.後者の変動要因に関する詳しい解析は今後の課題である.