著者
佐分利 育代
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

表現の対象が放つ質的特性(ダイナミクス)を聴覚障害児と視覚障害児がどのようにとらえ、ダンスの中で運動のダイナミクスとして表現しているのかをラバンの運動解析を手がかりに探った。対象は鳥取聾学校の中学部と高等部の生徒、鳥取盲学校の中学部生である。まず、花火大会に出かけ、その体験を一人でダンスで即興表現したものを比較した。(1)聴覚障害児:見たままをクリアに表現している。ダイナミクスは力の要素に欠けるVision Driveの傾向にある。指先まで使っている。屈伸、ジャンプ、ジェスチャーの動作で、対称的な形、大きな身体支配空間、空間を移動して、平面的に踊っている。(2)視覚障害児:内的体験から直接出てくるような表現である。ダイナミクスは空間(方向性)の要素の欠けるPassion Driveの傾向にある。胴と四肢を使っているが、肘までの使用である。移動、ジャンプ、落ちる、傾ける、手を着くの動作があった。対称、非対称の形があり、大きくない身体支配空間内で、身体の向きのまま動く結果空間が現れる。次に鳥取砂丘での体験をもとにした合同作品「砂の世界」をビデオより観察し、次のことを得た。(1)イメージを表現しようとして練った動きには、ソロでの表現にもそれぞれに観察されなかったダイナミクスの要素(聴覚障害児に力、視覚障害児には空間)が現れる。(2)聴覚障害児と視覚障害児がダンス表現を共有できるのは、即興表現に共通に観察された時間と流れのダイナミクスの要素によると思われる。流れの要素には力と空間(方向性)の要素が内在するとされることから、一緒に練習する中でリズム、運動の発せられる方向等共感できると思われる。また、ダンスが障害の種類、障害の有無に関わらず一緒に活動できるのは、次のような、そのグループに独特の運動のダイナミクスの体験があるからと考えられる。(1)場面の持つダイナミクスを踊る人全員で創り出している。(2)場面と場面のテンションの引き継ぎが共有される(3)作品の完成時、上演時は作品全体としてのダイナミクスと、グループの一体感が体験される。(4)上演では、障害や個人によって異なる原体験に内在するダイナミクスが共有される。内的体験におけるダイナミクスが運動に反映されるメカニズムは課題として残されている。