- 著者
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萬谷 恵三子
佐桑 あずさ
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第56回大会・2013例会
- 巻号頁・発行日
- pp.44, 2013 (Released:2014-01-25)
【研究目的】 東日本大震災後、中学校段階における防災教育は、「地域の過去の災害や他の地域の災害例から危険を理解し、災害への日頃の備えや的確な避難行動ができるようにすること」、「学校、地域の防災や災害時のボランティア活動の大切さについて理解を深めるようにする」という方針が文部科学省により示された。中学生は災害時に活動の担い手となる事が期待できるが、防災という視点で有益となる地域情報は日常生活の中では得にくい状況であると考える。 そこで本研究では、災害時に中学生が地域で活動できる具体的な内容とそのために必要な地域情報を理解するための授業計画・実践を行い、防災力を育む事を主眼においた中学校家庭科の授業開発を目的とする。【調査方法】(1)自宅から防災拠点校までの避難ルート、安全または危険な箇所、災害時に必要な人的資源の情報を1つにまとめた地域防災マップを作成した。授業は2012年12月から2013年の1月の期間に、横浜市内の中学校2年生130名を対象に行った。(2)家庭、学校、地域における防災対策や意識についてアンケート調査を実施した。また授業前と授業後で防災チェックシートに記入させ、授業評価を行った。【調査結果】(1)防災意識と対策の実態 家庭内で食糧や衣料品の備蓄や家具の転倒防止対策は50%以上が「している」と回答しており災害に備えている事が分かった。また家庭で避難方法・連絡の取り方について話しているかについては「はい」と「いいえ」が50%の同率であった。学校での防災教育で具体的に学びたい内容としては「災害時にとるべき行動」「非常食」などの被災後の対応や生活に関する事が多く、次いで「地域で起こりやすい災害」「地域の安全・危険な場所」など身近な場所の実態に関する内容となった。地域で発生しそうな災害については「家の倒壊」が最も多く、次いで「地すべり」「がけ崩れ」の順に多かった。地域の避難場所については80%の人が知っているが、食糧・道具の備蓄状況や避難訓練・防災訓練の実施状況については50%以上の人が「わからない」と回答しており、中学生にとっては得にくい情報であることが分かった。(2)授業後の防災チェックシートから見る意識の変化 防災意識についての自己評価は、[自然災害や被災後の生活の不安]、[自然災害についての知識]、[自身・家庭・地域の防災意識]、[自身・家庭・地域の防災対策]、[災害について話し合うことの必要性]、[地域の理解]、[災害時の自身の役割]に関する合計30項目とした。30項目に対し、授業前と授業後に「とてもそう思う」から「思わない」の5段階で回答を求め、平均値を出し比較した。授業後に評価が低くなったのは9項目、高くなったのは21項目であった。 評価が低くなった項目は、「被災後の生活」「地域の自然災害」「自然災害」への不安、「自身・家庭・学校の防災意識」、「日頃から被災した場合の行動・地域のことを家族と話す必要性」、「地域がすき」である。防災知識を得た事で、より学校や家庭での防災対策の必要性を感じると同時に災害に対する不安は少なくなったと考えられる。 最も評価が高くなった項目は、「地域の安全な場所・危険な場所を知っているか」「地域に住んでいる人とコミュニケーションをとれているか」であり、次に「災害時に役に立てる」「災害について友達や学校で話し合うことの必要性」であった。地域防災マップを作ることを通じて地域への理解が深まり、またグループで災害時に中学生ができることについて話し合う事で自身の役割について考えた事が評価につながったと考える。 防災に関して自身、学校、地域についての理解が深まり、話し合う必要性を確認できた一方で、家庭内で災害や被災後の生活について話し合う必要性についての評価が低くなった。学んだ事を家庭でも共有し、具体的な対策へも発展させる授業展開について今後検討する必要がある。